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EP 24

昼休みの覇者、鬼神弁当

 キンコン、カンコーン。

 アルニア第一小学校に、待ちに待った四時間目終了のチャイムが鳴り響いた。

「よーし、お前ら! 手を洗ってこい! 待ちに待ったお弁当の時間だぞー!」

「「「わぁぁぁぁっ!!」」」

 教壇に立つジャージ姿のマモルの号令で、1年A組の教室が一気に活気づく。

 子供たちがワイワイと机をくっつけ合い、色とりどりのお弁当箱を取り出し始めた。

「ユウくん、いっしょにたべよー!」

「うんっ!」

 アルカが自分の机をユウの机にくっつける。

 ユウは自分のカバンから、大切そうに、布に包まれたお弁当箱を取り出した。

 朝、大好きな兄が持たせてくれたものだ。

(お兄ちゃんのお弁当……!)

 ユウはワクワクしながら包みを開け、プラスチックの蓋に手を掛けた。

 パカッ。

 ――その瞬間。

 ユウの弁当箱から、神々しいまでの『黄金のオーラ』が立ち上った(ように見えた)。

「うわぁっ……!!」

 隣を覗き込んだアルカが、目を丸くして歓声を上げる。

 弁当箱の中に広がっていたのは、まさに「芸術」だった。

 最高級の本焼き包丁でミリ単位の狂いもなく切り出された、純白のラビークの塩むすび。海苔で作られたつぶらな瞳が可愛らしい。

 その脇を固めるのは、カリ・シラットの超近接ナイフ格闘術によって八等分に切り裂かれ、綺麗に花開いた真っ赤なタコさんウインナー。

 そして極めつけは、陳式太極拳の化勁の如き滑らかなフライパン捌きで焼かれた黄金色の卵焼き。その上には、マモルのケチャップによる『ニコニコスマイル』が完璧な配置で描かれている。

 それは、元・最強の処刑人が己の命と全技能を懸けて錬成した、愛と殺意(?)の結晶――『鬼神弁当』である。

「すっげええええっ!! なんだこれ!?」

「ウサギさんだ! タコさんだ!」

「ユウくんのお弁当、魔法みたい!!」

 その圧倒的なクオリティに、クラス中の子供たちが自分の弁当を放り出して、ユウの机の周りに群がってきた。

 あっという間に、ユウはクラスの中心(覇者)へと祭り上げられた。

「へへ……これね、僕のお兄ちゃんが作ってくれたんだよ!」

 ユウが、少し照れくさそうに、けれど最高に誇らしげに胸を張る。

「お兄ちゃん、すっごーい!」

「ねえねえ、ユウくん! そのタコさん、一個だけ交換してくれない!?」

「ぼくの唐揚げと交換しよーぜ!」

 怒涛のおかずトレードの申し出。

 「うん、いいよ!」と笑って応じるユウの周りには、もう「初めての学校への不安」など微塵も残っていなかった。

 ***

 一方、その頃。

 1年A組の教室の窓から少し離れた、校庭の大きな桜の木の上。

「……ミッション・コンプリート(任務完了)」

 葉っぱの陰に完全に同化カモフラージュした黒トレンチコートの大男――龍魔呂が、軍用の高性能双眼鏡から目を離し、低く震える声で呟いた。

 双眼鏡のレンズ越しに見えたのは、弁当を囲んでクラスメイトの輪の中心で笑う、弟の最高の笑顔。

 龍魔呂は、手すり代わりの太い枝をギリッと握りしめた。

 彼の脳裏に、地獄の暗闇で冷たい石を積んでいたユウの姿がよぎる。

 それが今、光あふれる教室で、友達に囲まれて温かいご飯を食べているのだ。

「……ウッ……! ぐすっ……!! 良かった……ッ! 友達が、できた……!!」

 ボロボロ、ボロボロ。

 190センチの巨大なマフィアが、木の上でサングラスを外し、嗚咽を漏らしながら大号泣していた。

 嬉し涙と共に、彼の身体から無意識に『安堵の闘気』が漏れ出し、桜の木全体がブルブルと激しく揺れている。

 ……そして。

 教壇の自分の席で、愛妻(居候ヒロイン)のフィリアが作ってくれた愛情たっぷり弁当を食べていたマモルは、窓の外の『激しく震える桜の木』を見て、深々とため息をついた。

(……あいつ、絶対木の上で泣いてるな)

 マモルは箸を置き、窓際へと歩み寄った。

 そして、隠し持っていたチョークを指で弾き、桜の木に向かって『暗器』の要領で正確に投擲した。

 パスッ!

『……痛ッ!?』

「おい、そこの不審者」

 マモルは窓から身を乗り出し、木の上に隠れている龍魔呂に向かって小声で言い放った。

「お前の『キャラ弁戦術』は、大成功だ。……だが、闘気が漏れて桜の季節外れの落葉が始まってるぞ。さっさと帰って、今日の夕飯の仕込みでもしてろ」

 マモルの言葉に、桜の木の葉っぱがカサカサと揺れ、中から『ビシッ』と敬礼する太い腕だけが突き出された。

『……了解した、マモル先生。弟を……よろしく頼む』

 風のように、木の上から黒い影が掻き消える。

 最強の処刑人は、弟の輝かしい門出を胸に刻み、満足げに帰路についたのだった。

「……やれやれ。俺はいつから、マフィアのボスの相談役になったんだ」

 マモルは苦笑しながら窓を閉め、大騒ぎしながら弁当を食べているユウやアルカたちの方へと振り返った。

「こらー! お前ら、はしゃぎすぎて弁当ひっくり返すなよー! ユウ、アルカもちゃんと野菜まで食えよ!」

「「はーいっ!!」」

 元気な返事が、教室いっぱいに響き渡る。

 かくして、アルニア第一小学校における「鬼神弁当」のデビュー戦は、完全なる勝利ハッピーエンドで幕を閉じたのであった。

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