EP 16
雷帝神ユイ、愛の乱入
冥界の淀んだ空気を一掃する、圧倒的な青白い閃光。
ラビークの眼前に降り立ったのは、神々しい雷光を纏った一人の少女だった。背負った光の輪がパチパチと紫電を散らし、彼女の足元の大地がプラズマ化して融解していく。
『な、なぜだ……!?』
死の概念を体現する巨大な閻魔が、初めてその鉄面皮を崩し、驚愕に声を震わせた。
『なぜ、天界を統べる帝釈天の系譜――雷帝神が、生者のために地獄へ干渉する! これは天地の不可侵条約を破り、世界のシステムを根底から破壊する大罪であるぞ!』
「大罪? システム?」
雷帝神ユイは、黄金色の瞳で冷たく閻魔を見上げた。
「そんなもの、僕の知ったことじゃない。僕が神様になったのは、ただ一人……たつまろを守るためだ。彼を泣かせるシステムなんて、この宇宙に必要ない!」
「……ユ、イ……」
ラビークのコックピットの中で、血まみれの龍魔呂が呻いた。
薄れゆく意識の中、モニター越しに映る少女の後ろ姿に、10年前の記憶がフラッシュバックする。
自分を救うため、炎の中に身を投げ打った、あの日のままの幼い背中。
「やめ、ろ……。お前が干渉すれば……お前まで、神の座から堕ちて……ッ!」
「たつまろ」
ユイが振り返り、ひどく優しく、愛おしそうに微笑んだ。
「君は、優しすぎるよ。ずっと一人で、僕の分まで、ユウの分まで苦しんできたんでしょう? ……もういいんだよ。君が泣きながら背負ってきたものは、全部、僕が一緒に壊してあげる」
『神の身でありながら、世界の理に背くか! ならば、貴様ごとこの賽の河原の塵に帰してくれよう!!』
閻魔が激昂し、地獄の空を覆うほどの巨大な笏を振り上げた。
先ほどラビークの装甲を透過し、龍魔呂を死の淵まで追いやった『死の概念』の塊。それが、ユイとラビークをまとめて消し去るべく、無慈悲に振り下ろされる。
「ガジェット!! ラビークの全システム・リミッターを解除して!!」
ユイが天に向かって叫んだ。
『ヒャッハー! 待ってたぜ女神サマ!! とっくに限界突破の準備はできてるぜ!!』
次元の向こう側からガジェットが叫び、ラビークのシステムから全ての安全装置がパージされる。
「たつまろ! 僕の力、君にあげる!!」
ユイの身体が、何百万ボルトという青白い雷光の粒子へと変換された。
それはただの魔法やエネルギーではない。神としての『権能』そのもの。システム(ルール)を書き換えるための、絶対的な特権パスワードだ。
シュバァァァァァァッ!!
ユイの光の粒子が、真紅に染まったラビークの胸部装甲をすり抜け、コックピットの龍魔呂へと、そして機体のコアへと一気に流れ込んだ。
龍魔呂の身体を蝕んでいた『死の概念』のダメージが、神の力によって瞬時に回復・上書きされていく。
【システム同調――神格拡張】
ズガァァァァァァァンッ!!!!!
振り下ろされた閻魔の笏が、ラビークに直撃する――そのコンマ一秒前。
ラビークの機体から爆発的に噴出した『赤黒い闘気』と『青白い雷光』が交じり合い、螺旋を描く巨大なエネルギーの竜巻となって、笏の「死の概念」を真っ向から弾き返した。
『な、何ィィィッ!?』
閻魔の巨体が、己の力が反発した衝撃で大きく体勢を崩す。
「……ユイ。お前って奴は……本当に、昔から無茶ばかりしやがる」
光の竜巻が晴れた後。
コックピットで立ち上がった龍魔呂の瞳には、かつてないほどの静かで、しかし途方もない力が宿っていた。
彼の左手に嵌められた『鬼王の指輪』が、ユイの神気と完全に融合し、脈動している。
そして彼と同調するラビークもまた、究極の進化を遂げていた。
真紅のヒイロガネ装甲の隙間から、青白いプラズマの雷光が漏れ出している。
背部には、雷神の太鼓を模した光の輪が展開。
純粋な『殺意(闘気)』と、純粋な『愛(神気)』。本来なら絶対に交わらない相反する二つの力が、龍魔呂とユイの絆によって完璧なハイブリッドを成していた。
『バ、バカな……! 死のルールで構成されたこの冥界において、物理法則を、因果をねじ伏せるだと!?』
閻魔が、初めて己のシステムが通用しない存在を前に、狼狽の声を上げた。
「ああ、そうだ。お前たちのルールは、ここで終わる」
龍魔呂は、操縦桿を通して、ラビークの背部に格納された「最後にして最強の武装」のロックを解除した。
ガシャァァン……!!
真紅と蒼雷の機神が、背中から『超巨大な大剣』を引き抜く。
ガジェットがこの瞬間のために用意した、狂気の近接兵器。
――『無量大数獄炎刀』。
刀身から噴出するプラズマ獄炎に、龍魔呂の赤黒い闘気と、ユイの青白い雷光が絡みつく。
それはもはや剣ではない。空間そのものを焼き斬る、概念破壊の刃だ。
「行くぞ、ユイ。……俺たちの、本当の戦いだ!」
『うんっ! たつまろ!!』
コックピット内に響くユイの声と共に、龍魔呂はラビークを前傾姿勢に沈め込んだ。
システムの体現者である閻魔と、神の権能を簒奪した鬼神。
理不尽な死の世界をぶち壊すための、最後の一撃が放たれようとしていた。




