EP 28
カンニング大戦争 VS 教師の眼力
キーンコーンカーンコーン……。
運命の中間テスト、一時間目・数学。
「はじめ!」
マモルの号令と共に、1年A組の教室に「カリカリ……」という鉛筆の音が響き始めた。
教卓にはマモルが座り、静かに文庫本を読んでいる。一見すると、完全に無防備な教師の姿だ。
だが、その張り詰めた空気は、魔王の玉座の間よりも恐ろしい。
(プリン……プリン……!!)
リーザは答案用紙を前に、血走った目で深呼吸をした。
しかし、問題の『二次方程式』を見た瞬間、彼女の脳細胞は白旗を揚げた。分からない。数字が全部マカロニに見える。
(自力じゃ無理! 作戦プランB、『ハイエナ・アイ(カンニング)』発動よ!)
リーザは横目で、斜め前の席に座るエルミナ(自称・神界のエリート)の答案用紙に狙いを定めた。
彼女の人魚族特有の動体視力を全開にすれば、2メートル先の文字など余裕で読める。
リーザがさりげなく首を右に傾け、視線を飛ばそうとした――その瞬間。
ピュッ!!
「ひゃっ!?」
リーザの目の前、鼻先わずか1ミリの空間を、白い弾丸が音速で通り抜け、黒板に「カァン!」と突き刺さった。
「よそ見するなよ、リーザ。視線が泳いでるぞ」
教卓のマモルは、文庫本から目を一切離していない。手首のスナップだけで、ノールックでチョークを放ったのだ。
(ヒィィィッ!? ど、どういう動体視力してんのよあの男!? これじゃ首を動かせない!)
リーザが恐怖に震える中、他の生徒たちも行動を開始していた。
「(ふふふ……物理的な視線でバレるなら、魔法を使えばいいのですわ)」
天然エルフのルナが、机の下で『世界樹の杖』をこっそりと握った。
彼女の魔法『植物ネットワーク』。床板の隙間から細いツルを伸ばし、エルミナの足元を伝って机の上に到達させ、そのツルの先端についた葉っぱのセンサーで答案を読み取ろうという高度な作戦だ。
スルスル……と、緑のツルがエルミナの机に向かって伸びていく。
「(完璧ですわ。大自然の力は、テストの監視すら潜り抜ける……)」
シュバッ!!
教卓から放たれた二発目のチョークが、ルナの机の真下、伸びかけていたツルのど真ん中を寸分違わず貫き、床板に『ピン留め』にした。
「痛っ!? 精霊さんが泣いてますわ!」
「ルナ。教室に雑草を持ち込むな。次やったら0点だ」
マモルはページをめくりながら、冷徹な声で言い放った。
魔法すら看破する『先生の気配察知能力』。恐るべきセンサーである。
「(くっ……ルナの魔法すら防ぐなんて。ですが、私の『鷹の目』なら!)」
最後列に座るフィリアが、静かに両目に闘気を集中させた。
弓使いの絶対スキル『鷹の目』。視力を一時的に数キロ先まで見通せるレベルに引き上げる。これでマモルの死角からエルミナの答案をズームインする!
カッ……! フィリアの瞳孔が猛禽類のように細くなった。エルミナの解答がハッキリと見える! 第一問の答えは『3』!
シュパァァン!!
「あうっ!?」
フィリアの額のド真ん中に、飛来した『黒板消し』が見事にクリーンヒットした。顔面がチョークの粉で真っ白になる。
「フィリア、目がバキバキだぞ。黒板消しの粉でも被って目を覚ませ」
「ごめんなさぁぁい! でもマモル先生の黒板消し、いい匂い……♡」
純情乙女はチョークの粉を被りながら身悶えしているが、カンニングは完全に阻止された。
「(バカな連中。小細工などするからバレるのですわ)」
優等生ぶっていたエルミナが、内心でせせら笑う。
実は彼女も、マモルに褒められたいがために『満点』を狙い、自分の知識だけでは不安な部分を、こっそり神界のデータベースにアクセスする『天使の千里眼』で補おうとしていた。
エルミナが目を閉じ、眉間に意識を集中させ、異空間の書庫へリンクを繋ごうとした瞬間。
ドンッ!!
「えっ?」
いつの間にか、エルミナの目の前にマモルが立っていた。
マモルの両手が、エルミナの机に叩きつけられている。その顔は、悪魔のように恐ろしい。
「エルミナ。お前、今『神界のWi-Fi(千里眼)』に接続しようとしただろ」
「なっ!? ななな、なぜそれを!?」
「電波が漏れてるんだよバカヤロー!! ここは俺の教室だ! 俺の背中には目がついてるんだよ!!」
マモルの怒号が教室に響き渡る。
合気道で鍛え上げられた『気』の感知能力は、教師特有の「後ろを向いていても生徒の悪戯が分かるスキル」と融合し、完全無欠のレーダーと化していた。
「ヒィィィッ! 申し訳ありませんマモル先生! 自力で解きます!」
エルミナが涙目で鉛筆を握り直す。
その混乱に乗じて。
リーザは、究極の古典的技法『消しゴム落とし作戦』を実行に移した。
ポロッ……。
わざと消しゴムを落とし、「あ、ごめんなさーい」と机の下に潜り込む。その隙に、隣のイグニス(適当にマークシートを塗りつぶしている)の解答用紙を真下から覗き見るのだ!
(もらったわ! プリンは私のものよ!)
リーザが床に這いつくばって上を見上げた瞬間。
彼女の目の前に、逆さまになったマモルの顔があった。
「ギャァァァァァッ!?」
「……リーザ。消しゴム、拾ってやったぞ。……ついでに、お前の『プリンの権利』も没収してやろうか?」
マモルがニコォ……と笑いながら、リーザの顔の横に『バキィッ!』とチョークを突き刺した。
「い、嫌ぁぁぁぁ! 真面目にやります! 自力でリンゴの数を数えますぅぅぅ!!」
リーザは半泣きで席に戻り、必死に机に向かった。
「……たく。どいつもこいつも小細工ばかりしやがって。俺の目は誤魔化せないぞ。残り時間10分、死ぬ気で頭を使え!」
マモルの絶対的な威圧感の前に、最強のバケモノたちは完全に心が折れ、自らの乏しい脳みそから汗を流して問題と向き合うことになった。
カンニング大戦争は、教師・マモルの圧倒的眼力によって完全鎮圧されたのである。
そして、運命のテスト返却と、カオス極まる『三者面談』が待ち受けていた。




