EP 27
恐怖の中間テストと『補習』のプレッシャー
アルニア第一中学校が開校して数週間。
元数学教師・マモルのスパルタ教育と、給食(タダ飯)の恩恵により、1年A組のバケモノたちは辛うじて「生徒」としての体裁を保っていた。
だが、学校というシステムには、避けては通れない「試練」が存在する。
「席につけ。ホームルームを始めるぞ」
朝。教卓に立ったマモルが、チョークで黒板にデカデカと文字を書き殴った。
【明日は中間テスト】
教室の空気が、ピシッと凍りついた。
「これまでの授業の理解度を測る重要なテストだ。科目は国語、数学、そしてアルニア領の社会だ。……もちろん、点数が悪かった者にはペナルティがある」
マモルは、ギラリと眼鏡(伊達)を光らせた。
「各科目、100点満点中『50点未満』の赤点を取った者は、放課後に地獄の『補習』を受けてもらう。内容は、グラウンド100周からの便所掃除だ」
「げぇっ……!? 便所掃除……!」
キャルルが顔をしかめる。しかし、元冒険者である彼女たちにとって、肉体労働などそこまでの恐怖ではない。
それを分かっているマモルは、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「それだけじゃない。……赤点を一つでも取った者は、明日の給食のデザート……『アルニア王立牧場特製・濃厚カスタードプリン』を没収する!!」
「「「なっ……!?」」」
ガタァッ!!
教室の後方で、凄まじい音が鳴った。
極貧王女リーザが、椅子を蹴っ飛ばして立ち上がっていたのだ。
「プ、プリン……!? 卵と牛乳と砂糖の暴力……! 一杯で200キロカロリーはくだらない、あの黄金のスイーツを……没収ですって!?」
「そうだ。赤点にはプリンなし。代わりに俺が食う」
「悪魔ァァァァァッ!!」
リーザは頭を抱えて絶叫した。
彼女にとって、給食は命綱。その中でもデザートは、普段の極貧生活(パンの耳と塩むすび)では絶対に摂取不可能な「至高の贅沢」なのだ。それを奪われるなど、死刑宣告にも等しい。
「先生! 質問ですわ!」
エルミナが余裕の笑みで手を挙げた。
「そのテストとやら、神界の叡智を持つこの私には赤子の手をひねるようなもの。満点を取った暁には、マモル先生との『放課後デート券』をいただけますの?」
「やらん。プリン2個にしてやる」
「うおおおおっ! 天使ぶっ潰す!!」
リーザがエルミナに殺意を向け、教室は完全に「プリン(とマモル)を巡る血みどろの闘争」の気配に包まれた。
***
その日の放課後。
シェアハウス『ラビット・ハイツ』のリビングには、悲壮感が漂っていた。
「……無理。まじで無理。『x』とか『y』とか、何なのこれ。トンファーで殴っていい?」
こたつ机の上で、キャルルが頭からプシューッと煙を出して突っ伏していた。
冒険者として腕っぷし一つで生きてきた彼女の脳は、因数分解を完全に拒絶している。
「あらあら、キャルル。簡単ですわよ? この数式に宿る精霊の声に耳を傾ければ、おのずと答えは……」
ルナが天然の笑顔でノートを見つめているが、彼女の書いた答えは全て『お花畑』の絵になっており、全く参考にならない。
そして、リーザである。
彼女は頭に「必勝」と書かれたハチマキを巻き、両鼻にティッシュを詰め、猛烈な勢いで教科書をめくっていた。
(覚える……! 全てを脳に叩き込むのよ! リンゴが3つあって、2つ食べたら残りは1つ……ちくしょう、リンゴ食べたい……! じゃなくて、集中よ!!)
しかし、栄養失調気味のリーザの脳細胞は、限界を迎えようとしていた。
「うぅぅ……活字が……活字が全部『唐揚げ』と『フライドポテト』に見えてきたわ……」
リーザの目がぐるぐると回り始める。
そこに、ノックの音と共に訪問者が現れた。フィリアとエルミナだ。
「ごきげんよう、皆様。勉強の進み具合はいかがかしら?」
エルミナが、いけ好かない優等生の顔で微笑む。
「エルミナ……! あんた、テスト勉強終わったの!?」
キャルルが睨みつける。
「ええ。神界の図書館で万物の真理を学んだ私にとって、中学生レベルの数学など一瞬ですわ。まあ、せいぜい便所掃除を頑張ってくださいな」
「くそっ、腹立つ……! フィリアは?」
「わ、私は……マモル先生の授業中、ずっと先生の横顔をスケッチしていたから……ノートが真っ白で……」
フィリアが涙目で白紙のノート(隅にマモルの似顔絵がビッシリ描かれている)を広げた。純情乙女は完全に恋に全振りしていて、学力はポンコツだった。
その時。
リーザの脳内で、パチンコ屋のハイエナ時代に培った『悪魔の囁き』が響いた。
(……待てよ。50点未満が赤点。つまり、私が50点以上取らなきゃいけない。でも、私の学力じゃ多分40点くらいが限界……)
リーザの目が、怪しく光った。
(なら……テスト本番で、『頭のいい奴』から答えを拝借すればいいじゃない!!)
極貧王女は、ついに「勉学」という正攻法を投げ捨てた。
「ふふふ……。そうよ、テストは頭の良さを競うものじゃない……『生き残る(プリンを食う)』ためのサバイバルよ!」
リーザが不気味に笑い出す。
「ちょっとリーザ、あんた顔が完全に悪役になってるわよ」
キャルルがドン引きする。
だが、カンニングを企んでいるのはリーザだけではなかった。
フィリアは「……私が赤点を取ったら、マモルに嫌われちゃう! 何としてでも……!」と聖女の闘気を高め、ルナは「植物たちに答えを教えてもらいましょう」と密かに世界樹の杖を磨いている。
エルミナでさえ「満点を取ってマモル様を独占するためなら……『天使の千里眼』を使うことも辞しませんわ」と黒いオーラを漂わせていた。
明日は中間テスト。
それは、ペンを剣に持ち替えた、バケモノたちによる『カンニング大戦争』の幕開けであった。
そして教卓に立つマモルは、その全てを完全に見透かす「恐怖の眼力」を静かに研ぎ澄ませているのだった。




