EP 23
地獄の入学式とクラス分け
アルニア第一中学校、開校の朝。
ルナが魔法で無理やり開花させた桜並木(※季節は秋だが気にしてはいけない)が舞い散る中、真新しい校門の前には、腕章をつけたマモルが立っていた。
彼はビシッとしたスーツに身を包み、手には出席簿。
完全に「生徒指導の鬼」の顔になっている。
「おはようございます、マモル……じゃなくて、マモル先生っ!」
最初に登校してきたのは、フィリアだった。
紺色のセーラー服に、赤いスカーフ。清楚な彼女の雰囲気に恐ろしいほどマッチしており、破壊力は抜群だ。
「ああ、おはようフィリア。よく似合ってるぞ」
「ふぇぇ……っ! あ、ありがとうございますぅ!」
マモルに褒められ、フィリアは顔からプシューッと湯気を上げてその場にへたり込んだ。朝から情緒が不安定すぎる。
「抜け駆けはずるいですわよ! マモル先生、私はいかがですか?」
続いて現れたのは、ブレザー姿のエルミナだった。
チェックのスカートに、胸元には指定のネクタイ。聖騎士の凛とした佇まいが、名門お嬢様学校の生徒会長のようなオーラを放っている。
「うむ、エルミナも服装の乱れはないな。合格だ」
「ふふっ。放課後は『特別指導(※意味深)』をお願いしますわね♡」
「却下だ。教室へ行け」
マモルが機械的に捌いていると、ズッ、ズッ……と重苦しい足音が近づいてきた。
「ああん? 何見てんだよ、センセー」
現れたのは、キャルルだった。
しかし、その出立ちは異常だった。スカートは足首まで届く超ロング丈。セーラー服の袖は捲り上げられ、手にはいつものダブルトンファーが握られている。完全に『昭和のスケバン』である。
「キャルル、お前……なんだその格好は」
「はぁ? マモルの部屋にあった『日本の学校の資料(※80年代のヤンキー漫画)』を読んで、完璧に再現したんだけど?」
「いつの時代の資料だ! スカートの丈を直せ! あとトンファーは銃刀法違反だ没収!」
「チッ。ウザい教師だねぇ」
キャルルが舌打ちしながら校舎へ向かう。
その後ろから、目を血走らせた一人の少女が、猛烈な速度ですり抜けようとした。
「……おはようございますマモル先生。ところで4時間目が終わるのは何時何分ですか。カレーの配膳は生徒が行うのですか、それとも専門の業者が? おかわりの優先権は成績順ですか?」
極貧王女、リーザである。
彼女の制服の着こなしは完璧だった。ただ一つ、胸ポケットにペンではなく**『マイ箸』と『マイスプーン』**が刺さっている点を除けば。
「リーザ、お前は学校を何だと思ってるんだ」
「『タダで高カロリーな食事が提供される、国営の配給所』ですけど?」
「義務教育を舐めるな! 勉強しろ!!」
マモルがハリセン(丸めた出席簿)でツッコミを入れようとした、その時だ。
「遅刻遅刻~っ! あーん、マモル先生待ってぇ~!」
ボインッ、ボインッ! という効果音が聞こえそうな足取りで、ヴァルキュリアが走ってきた。
彼女の着ている制服は……明らかにサイズが小さすぎた。パツンパツンのブラウスのボタンは弾け飛びそうで、スカートは規律を真っ向から喧嘩を売る超ミニ丈。おまけに金髪の縦ロールである。
マモルは無言で、両手で「×(バツ)」を作った。
「アウト。ヴァルキュリア、お前は入学不許可だ」
「えええええっ!? なぜですの!? こんなにピチピチの14歳(自称)なのに!」
「どこがだ! お前は年齢制限(精神年齢含む)に引っかかってる! 大人しく神界の仕事でもしてろ!」
「そんな殺生な! 私だけマモル先生との学園ラブコメからハブられるなんて嫌ですわぁぁぁ!」
泣き叫ぶ元天使長をドワーフの警備員たちに引きずり出させ、マモルは深いため息をついた。
***
午前9時。
第一回入学式が、体育館で執り行われた。
パイプ椅子に座っているのは、フィリア、エルミナ、アルカ、キャルル、ルナ、リーザ、そしてなぜかSWATから「基礎学力の再履修」を命じられたイグニスたちの姿もある。
マモルが校長(兼・教頭、兼・学年主任)として壇上に立つ。
「新入生の諸君、入学おめでとう。本校は、学力と常識を身につけるための神聖な場だ。ルールを守り、立派なアルニア国民になってほしい」
パチパチパチ……と疎らな拍手が鳴る。リーザはすでに「給食の献立表」を穴があくほど見つめており話を聞いていない。
「それでは、本校を支えるスタッフを紹介する。まずは、学校の美化と安全を守る、用務員兼・PTA会長だ!」
体育館の扉が、バーン!と開かれた。
そこに立っていたのは、緑色の作業着を着て、首にタオルを巻き、巨大な竹箒を持った巨漢――元魔王サルバロスであった。
「フハハハハ! 貴様らが新入生か! このアルニア第一中学校の敷地は、余の支配下(庭)にある! 廊下を走る者、花壇を踏み荒らす者は、この魔王が直々に『暗黒次元(反省室)』へ放り込んでくれるわ!」
「魔王様! 俺も草むしり手伝うっす!」(デュラスも横にいる)
最強の魔王が、用務員のおじさんとして再就職を果たしていた。
生徒たちが「うわぁ……」とドン引きする中、マモルは顔を引き攣らせながら紹介を続ける。
「え、えー……。次に、生徒の心と体のケアを担当する、保健室の先生だ」
「はいはーい♡」
カツーン、カツーン……。
ピンヒールの音を響かせ、白衣を羽織ったセクシーな美女が壇上に上がってきた。
赤いアンダーリムの眼鏡をかけ、白衣の下はなぜかタイトなボディコンスーツ。
先ほど校門で追い返されたはずの、ヴァルキュリアである。
「なっ……!? お前、なんでここに!」
マモルがマイクを塞いで小声で叫ぶ。
「ふふふ。生徒がダメなら、教職員として潜入すればいいのですわ! 先ほどエドガー宰相に直談判し、神界の癒やしの魔法を無償提供することを条件に『養護教諭』のポジションを勝ち取りましたの!」
「あの胃弱宰相、あっさり買収されやがって……!」
ヴァルキュリアはマイクを奪い取り、生徒たち(主にマモル)に向かってウインクした。
「怪我をしたら、いつでも保健室にいらっしゃい♡ 私の『愛の口づけ』で、どんな傷も(精神的な意味で)治して差し上げますわ!」
「絶対に保健室には行かせん!!」
マモルのツッコミが体育館に響き渡る。
かくして、地獄の入学式は終わった。
生徒たちは全員、1年A組(特待生・兼・問題児クラス)へと押し込まれた。
ガラッ。
教室のドアを開け、マモルが教卓に立つ。
目の前には、セーラー服の聖女、ブレザーの天使、スケバン兎、そしてマイ箸を握りしめた極貧王女。
(……魔王と戦う方が、まだマシかもしれない)
胃の痛みを覚えながらも、マモルはチョークを手に取り、黒板をコンコンと叩いた。
「よし、席につけ! ホームルームを始めるぞ! 日直、号令!」
「はいっ!」
日直のリーザが勢いよく立ち上がった。
「起立! 礼! ……先生! 今日のカレーは『甘口』ですか、それとも『辛口』ですか!?」
「座れ! 一時間目は数学だバカヤロー!!」
元数学教師と、異世界のバケモノたちによる、ハチャメチャな義務教育が、今、チャイムと共に幕を開けた。




