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EP 21

閉会式、そして勝者は……

 夕焼けが、半壊したアルニア・ドームを赤く染めていた。

 波乱に満ちた(領地消滅の危機を含む)第一回大運動会も、ついに閉会式を迎えた。

「えー、ほんじつはー、お日柄もよくー。色々ドカンバカンありましたがー、無事に? 終わってよかったですねー。ヒック」

 放送席のルチアナは、マモルの『先生のオーラ』にビビって少し酔いが覚めたものの、相変わらずコタツの中から適当なアナウンスをしている。

 グラウンドの中央には朝礼台が置かれ、マモルが立っていた。

 その前に整列しているのは、土まみれになった参加者たち。ただし、彼らの手には武器ではなく「軍手」や「スコップ」が握られている。

「よーし、静かにしろ! これより表彰式を行う!」

 マモルの声に、魔王も天使も騎士団長も、ビシッと背筋を伸ばして直立不動の姿勢をとった。

 もはや完全なる『軍隊』、いや『体育会系の部活』である。

「栄えある第一回アルニア大運動会、優勝者は……白組、アルカ!!」

「わーい!!」

 アルカが朝礼台にトテトテと駆け上がり、マモルから手作りの金メダル(折り紙製)を首にかけてもらう。

「おめでとうアルカ。一番ルールを守って、立派に応援できたな」

「えへへー、まもるにほめられたー!」

 マモルは微笑みながら、懐から金色のチケットを取り出した。

 これこそが、全ての元凶となった『領主マモルのお願いなんでも1つ叶える券』である。

「さあ、アルカ。約束通り、なんでも一つ願いを叶えてやろう。おもちゃか? ケーキか?」

 スタジアム中の視線が、6歳の始祖竜(人間体)に集中する。

 アルカは首から下げたメダルを握りしめ、満面の笑みで、アルニア全土に響き渡る声で叫んだ。

「あるか、まもるといっしょに、おふろにはいるー!!」

 ピシリッ。

 赤組(嫁候補)の陣地から、何かが決定的に割れる音がした。

「……お、お風呂……!? 私ですら、まだ背中を流すことすら許されていないのに……!?」

 フィリアが持っていたハンカチをギリギリと噛み千切る。

「抜け駆け……! 合法的なロリの皮を被った、恐るべき始祖竜……!」

 エルミナが木刀を素手でへし折る。

「くっ……! まさか最大のライバルがこんなところに潜んでいたなんて……! 完敗ですわ……!」

 ヴァルキュリアが血の涙を流して崩れ落ちる。

 マモルはというと、顔を引き攣らせていた。

「お、おいアルカ。お前中身は数千年生きている竜とはいえ、見た目は6歳児だぞ……! 俺が事案(コンプライアンス違反)で捕まるだろ!」

「むー? こんぷらいあんす? あるか、まもるとあわあわするのー!」

「あー、わかったわかった! 水着着用でな! 絶対に水着着用だからな!」

 現代日本の常識と倫理観に縛られた元教師は、懸命に防衛線を張るので精一杯だった。

 ***

 表彰式が終わり、夕闇が迫る中。

 スタジアムには、哀愁漂う光景が広がっていた。

「クソッ……なぜ魔王たる余が、このような地味な労働を……。よいしょ、よいしょ」

「文句を言うなサルバロス。マモル殿の『チョーク(石ころ)投げ』を忘れたのか。俺はアフロのままだぞ」

 元魔王サルバロスと元将軍デュラスが、軍手をはめて巨大なクレーターに土を運び入れていた。

 その横では、ヴァルキュリアが天使の羽をしまって、黙々と草むしりをしている。

 アルニア領を滅ぼしかけたバカ(最強キャラ)たちによる、強制『補習(グラウンド整備)』である。

「イグニス、もっと腰を入れろ! マグナ・ブーツのバーナーで地面を平らに均すんだ!」

「押忍、隊長! ……はぁ、今日の晩飯、カップ麺確定っすね……」

 SWATの二人も涙目でローラーを引いている。

 そして。

「……私のステーキ……不労所得……羽毛布団……」

 グラウンドの隅っこで、燃え尽きた灰のようになっているリーザの姿があった。

 彼女の目の前には、マモルから渡された「参加賞」が置かれている。

 ドンッ。

 それは、精米されたばかりの**『アルニア産・最高級コシヒカリ(10kg)』**だった。

「……リーザ、ほら。立てよ。お米10kgも貰えたんだから、良かったじゃん」

 キャルルが肩を叩く。

「……キャルル」

 リーザは虚ろな目で米袋を見つめた。

「お米10kg……。1日1合食べたとして、約66日分……。塩さえあれば……塩さえあれば、私、あと2ヶ月は生き延びられるわ……!」

 極貧王女の目に、再び「生への執着」の光が宿った。

 ステーキは食べられなかった。だが、確実なカロリー(炭水化物)を手に入れたのだ。

「うわぁぁぁん!! ありがとうマモル! 私、これでしばらく公園の鳩と戦わなくて済むわぁぁぁ!!」

 リーザは米袋にすり寄り、夕日に向かって号泣した。

 その姿は、ある意味でこの運動会における『真の勝利者サバイバー』の顔をしていた。

 ***

「……終わったな」

 マモルは特設ステージの上から、整備されていくグラウンドを見下ろして、温かい缶コーヒーを一口飲んだ。

 その隣に、点滴の管を抜いたエドガーがフラフラと歩み寄ってくる。

「……閣下。お疲れ様でございました。……まさか、あれほどの化物たちを、暴力ではなく『教師の威厳』だけで従わせるとは」

 エドガーの目には、マモルに対する新たな尊敬(と恐怖)が宿っていた。

 彼が本気を出せば、魔王の極大魔法すら無傷で天へ弾き返すことができる。そして、その力に溺れることなく、ただ「ルールを守らせるため」だけに行使する。

(このお方こそ……真の『王』たる器……!)

 エドガーが内心で一人感動しているとは露知らず、マモルは首をポキポキと鳴らした。

「あー、肩凝った。帰って風呂でも入るか。……アルカ、一緒に入るぞー。水着でな!」

「わーい! まもるの背中、あるかがながしてあげるー!」

 こうして、アルニア領の歴史に伝説として刻まれる『第一回大運動会』は幕を閉じた。

 マモルの「底知れない実力」は領内に知れ渡り、魔王や天使たちすら彼には頭が上がらないという絶対的なヒエラルキーが完成したのだった。

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