EP 17
第三種目・綱引き VS 世界樹
「さぁーて、午後の部一発目は『綱引き』だよー。酔い覚ましには丁度いいねー」
ルチアナの適当なアナウンスが響く中、グラウンドの中央には極太の麻縄が一直線に置かれていた。
マモルがホイッスルを鳴らし、対戦カードを発表する。
「第一試合! 【白組】対【黒組(魔王軍&SWATチーム)】!」
そのアナウンスを聞いた瞬間、白組のリーザは絶望の顔で麻縄を握りしめた。
視線の先、縄の反対側(黒組陣地)を見たからだ。
「……無理よ。あんなの、勝てるわけないじゃない……!」
黒組の陣容は、もはや「暴力のパレード」だった。
先頭から、身長2メートルの竜人イグニス、筋骨隆々の騎士団長レオパルド、魔王軍の武を司る将軍デュラス、そして最後尾には、圧倒的な覇気を放つ元魔王サルバロス。
四人の筋肉量が多すぎて、周囲の空間が歪んで見えるほどだ。
「フハハハ! か弱き乙女たちよ、安心するがよい! 手加減はしてやろう、指3本くらいでな!」
サルバロスが余裕の笑い声を上げる。
「ちょっとリーザ! 弱音吐かない! 私の脚力で踏ん張るから、あんたも全体重を後ろに掛けなさい!」
キャルルが先頭で安全靴をグラウンドの土に深く食い込ませ、腰を落とす。
そして、白組の最後尾には、ふんわりとした笑顔のルナがいた。
「皆で息を合わせて引く競技……素晴らしいですわ! 絆の力を証明しましょう!」
マモルが手を上げる。
スタジアムが静まり返る。
「位置について……はじめェッ!!」
ピィィィィッ!!
ホイッスルが鳴った瞬間。
黒組の四人が、軽いウォーミングアップのつもりでグンッと縄を引いた。
「ひぎぃっ!?」
たったそれだけで、白組のリーザの体が空中に浮き、キャルルが「ぐおぉっ!?」と土を削りながら数メートル引きずられた。
基礎筋力が違いすぎる。大人と子供、いや、ダンプカーと三輪車ほどの差があった。
「ダメよ! このままじゃ私のステーキがぁぁぁっ!!」
リーザが縄にすがりつきながら悲鳴を上げる。
「あらあら、黒組の皆様は力持ちですのね。でも、私たちも負けてはいられませんわ!」
ルナがニコリと笑った。
彼女は縄を両手で優しく包み込み、そっと魔力を注いだ。
「――大地の脈動よ、緑の息吹よ。我らに『根を張る』力を! 『世界樹の顕現』!!」
カッ……!!
ルナの掌から溢れた翠緑の光が、極太の麻縄を一瞬にして包み込んだ。
次の瞬間、麻縄は「生きた樹木」へと変異した。
表面に樹皮が浮かび、緑の葉がバサバサと生え茂り、そして――白組の最後尾から伸びた縄(根っこ)が、グラウンドの土をドゴォォォン!と粉砕して、地中深くへと潜り込んだのだ。
「……な、なんだと!?」
黒組の先頭で引いていたイグニスが、目を剥いた。
「お、重い……! 急に岩山を引いているような重さに……!」
デュラスが顔を真っ赤にして足を踏ん張る。
ルナの魔法により、麻縄はアルニアの地下深くの地脈と接続し、『生きた世界樹の根』と化していた。
つまり、今の黒組が引っ張り合っている相手は、白組の少女たちではない。
**「アルニアの大地そのもの」**である。
「えっ? な、何これ!? 綱が勝手に引っ張ってくれるわ!」
空中に浮いていたリーザが、ガクンと着地して驚く。
「ルナ! あんたまた規格外の魔法を!!」
キャルルがツッコミを入れるが、ルナは「うふふ、応援ですわ♡」と微笑むだけだ。
一方、黒組のプライドに火がついた。
「フハハハハ! 面白い! たかが植物の根くれぇに、この魔王が後れを取るものかァァァ!!」
サルバロスの全身から、ドス黒い魔王の覇気が噴出する。
「SWATの力、見せてやるっす!! マグナ・ブーツ、出力最大!!」
イグニスの足から青白い炎が吹き出し、地面を焦がす。
「ふんぬぅぅぅぅ!!」
レオパルドとデュラスも闘気を全開にし、縄(根っこ)を引く。
ギギギギギギ……ッ!!
ズズズズズズズ……ッ!!
アルニア・ドーム全体が、震度5レベルの地震に見舞われた。
世界樹の根が地脈を引き剥がそうとする力と、元魔王軍たちの神話級の筋力が激突し、グラウンドのアスファルトがひび割れ、隆起していく。
「やめろお前ら!! ただの綱引きで地殻変動を起こすな!!」
マモルがメガホンを投げ捨てて絶叫する。
「引っ張れぇぇぇ! 私の不労所得のために、地球を引き抜けぇぇぇ!!」
リーザがわけのわからない声援(強欲)を送る。
「おおおおおおっ!!」
黒組の筋肉が限界まで膨張し、ついに、ズバァァァン!!という轟音と共に、地中から巨大な世界樹の根が引っこ抜かれた。
……が、その反動で黒組の四人は後方へ吹き飛び、マモルの作った防球ネットを突き破って場外へ消えていった。
「……えー。黒組、場外に出たため失格! 白組の勝利ー。ヒック」
ルチアナの気の抜けたアナウンスが響く。
グラウンドの中央には、巨大なクレーターと、もはや元に戻せなくなった世界樹の根(すでに光合成を始めている)が残された。
「……あ、あ、ああ……」
救護テントのベッドの上。
点滴を打たれていたエドガーが、無惨に破壊されたスタジアムの惨状を見て、白目を剥いて意識を飛ばした。
またしても、修繕費(税金)が天文学的な数字に跳ね上がった瞬間である。
「……よし。最終種目だ。次で決着をつけるぞ」
マモルは額の青筋を隠しもせず、グラウンドに立つ化物たちを睨みつけた。
赤組(嫁候補)、白組、黒組(魔王軍)。
点数は、様々な反則や失格が重なり、奇跡的に『全チーム同点』となっていた。
「最後は『騎馬戦』だ。……お前ら、覚悟しておけよ」
マモルの手には、いつの間にか一本の武具が握られていた。
伝説の武具『三節根の王帝』。
元・合気道部顧問の堪忍袋の緒が、ついに切れようとしていた。




