EP 16
神々の昼食(お弁当バトル)
「はーい、というわけでー。数名が逮捕されたり黒焦げになったりしましたが、午前の部はこれにて終了でーす。午後までお昼休憩に入りまーす。ヒック」
放送席のルチアナが、完全に出来上がった呂律でお昼休みを宣言した。
アルニア・ドームに、平和(?)な昼食の時間が訪れる。
グラウンドの隅に張られた本部テント。
マモルはパイプ椅子に深く腰掛け、天を仰いでいた。
「……疲れた。なんで俺、休日なのに教師時代より疲労してんだ……」
窃盗犯として逃走したリーザは、最終的にレオパルドとイグニスのマグナ・バズーカ(ゴム弾)の包囲網によって確保され、国家予算のマスターキーは無事にエドガーの元へ返還された。
エドガーは現在、救護テントで胃薬の点滴を受けている。
マモルがため息をついた、その時だ。
「マモル!」
パタパタと小走りで駆け寄ってきたのは、赤組の体操服に身を包んだフィリアだった。
彼女の胸には、可愛らしいピンク色の包みが抱えられている。
「午前中、お疲れ様! あのね、マモルのために……お弁当、作ってきたの!」
フィリアが包みを開くと、そこには三段重の豪華なお弁当が現れた。
色鮮やかな野菜の肉巻き、マモル好みの甘めの卵焼き(見事なハート型)、そしてタコさんウインナー。栄養バランスと愛情が完璧に計算された、まさに『理想の愛妻弁当』である。
「おお……! すげぇ美味そうだな、フィリア。朝早くから作ってくれたのか?」
「うんっ! マモルにいっぱい食べてほしくて……あ、あーん、してあげる……っ!」
フィリアが顔を真っ赤にして、卵焼きを箸でつまんで差し出した。
マモルが「いや、自分で食うよ」と照れ隠しに手を伸ばそうとした――その瞬間。
「お待ちしなさいッ!!」
バサァッ!!
上空から、眩い光と共にヴァルキュリアが舞い降りた。
彼女の手には、神々しいオーラ(物理的な発光現象)を放つ、白銀の重箱が掲げられている。
「フィリア、あなたの作ったお弁当など、マモル様には相応しくありませんわ! マモル様、こちらをどうぞ! 私が天界から取り寄せた最高級の素材で作った『神饌』ですわ!」
パカッ。
ヴァルキュリアが重箱を開けると、中から「カァァァァ……ッ」という後光が射した。
中に入っていたのは、虹色に脈動する謎のゼリー状の物体と、光り輝く果実のようなものだった。
「な、なんだこれ……? 脈打ってないか?」
「ふふふ! これは『不老不死の霊薬』をベースにした煮凝りと、『黄金の林檎』のコンポートです! 一口食べれば寿命が百五十年延び、魔力が一万倍に跳ね上がりますわ!」
「ドーピング弁当じゃねーか! 絶対に後遺症残るだろそれ!」
「味は少々『宇宙の真理』のような無の味がしますが、私との愛の力で乗り越えられますわ! さあ、私の指から直接お舐めなさい!」
「いやあああ! マモルは私のお弁当を食べるの!」
「いいえ! 私の神饌ですわ!」
フィリアとヴァルキュリアが、マモルを挟んで火花を散らす。
そこに「抜け駆けは許しませんわ!」とエルミナまで特大のサンドイッチ(聖水仕込み)を持って乱入し、マモルの周囲は完全に「食のデスマッチ」と化していた。
***
一方その頃。
華やかな赤組テントから遠く離れた、白組の陣地。
そこには、残酷なまでの「格差」があった。
「……うぅぅ……」
パイプ椅子の上で、体操服を土まみれにしたリーザが、膝を抱えてすすり泣いていた。
国家予算の強奪に失敗し、SWATにボコボコに(峰打ちで)された彼女は、体力も気力もゼロに等しかった。
「ほら、リーザ。あんたバカなことするから体力使い果たしてんじゃん」
ジャージ姿のキャルルが、呆れ顔でリーザの頭にポンッと何かを乗せた。
「……え?」
それは、サランラップに包まれた、ただの**『塩むすび』**だった。
具はない。海苔もない。ただの白いご飯を、塩だけで握ったものだ。
「キャルル……これ……」
「私のお昼の余り。食いな。午後の部で倒れられたら、こっちも迷惑だからね」
キャルルはそう言って、自分はコンビニで買った「幕の内弁当」を食べ始めた。
リーザは震える手で塩むすびを手に取った。
温かい。マモルが開発したアルニア産の白米は、塩だけでも十分に甘みと旨味がある。
「あむっ……。……ひぐっ、うぅ……」
リーザは塩むすびを頬張りながら、ポロポロと涙をこぼした。
「しょっぱい……。私の涙で、ただの塩むすびが、極上の『涙むすび』に……。美味しい……炭水化物が胃に染み渡るわ……」
「泣きながら米食うアイドルって、前代未聞だよあんた」
キャルルがツッコミを入れる中、隣のルナはふんわりと微笑んでいた。
「皆様、お食事の時間は幸せですわねぇ」
ルナの手には、クリスタルで出来た美しいグラスが握られており、中には透き通った液体が入っている。
「ルナ、あんた何飲んでんの?」
「これですか? 実家の世界樹の朝露に、妖精の粉を少々ブレンドした『特製ネクター』ですわ。一口で三日三晩眠らなくても元気に走れるようになりますの♡」
「だから白組の連中はドーピングばっかりか!!」
***
そして、放送席。
マイクを放置したルチアナは、ビールの中ジョッキを片手に、枝豆を無限に頬張っていた。
「ぷはーっ! やっぱ昼酒は最高ねー。修羅場になってるマモルちゃんをツマミに飲む酒は格別だわー。あ、お姉さん、ポテトフライおかわり!」
もはや運動会の実況者ではなく、ただの居酒屋の客である。
マモル邸の修羅場弁当、リーザの涙の塩むすび、そして駄目女神の昼酒。
三者三様のカオスな昼食時間が終わり、いよいよ大運動会は午後の部へと突入する。
マモルがホイッスルを鳴らした。
「よし! 午後一発目の種目は……『綱引き』だ!!」
それは、単なる筋力勝負のはずだった。
しかし、この規格外の連中が集まるアルニアにおいて、ただの綱引きで終わるはずがなかったのである。




