EP 18
最終種目・騎馬戦(アルニア大戦)
「さてさてー、ついに最終種目『騎馬戦』だよー。現在の得点は全チーム仲良く並んで同点! この勝負を制した者が、マモルちゃんを煮るなり焼くなり好きにできる券をゲットでーす。ヒック」
ルチアナの適当極まりない実況が、アルニア・ドームに響く。
無惨に抉れたグラウンド(ルナが召喚した世界樹の根の跡地)に、三つの騎馬が陣取っていた。
「いいか、ルールは簡単だ!」
マモルがホイッスルを片手に、手に汗握る……というより、胃を痛めながら声を張り上げる。
「相手の騎手が頭に巻いている『ハチマキ』を奪ったチームの勝利だ! 魔法の使用は許可するが、相手を直接殺傷するような極大魔法は禁止! 死人が出たら即失格だからな!!」
しかし、その忠告が届いているのか怪しいほど、各チームの殺気は頂点に達していた。
【黒組(魔王軍&SWAT)】
土台となるのは、デュラス、レオパルド、イグニスという筋肉の巨城。その上に騎手として胡座をかくのは、元魔王サルバロスだ。
「フハハハ! この無敵の魔王騎馬を崩せるものなら崩してみよ! 勝利のあかつきには、マモルの寝室をぶち抜いてゲーミングルームにしてくれるわ!」
【赤組(マモル邸・嫁候補)】
土台の前衛はエルミナ(聖騎士の怪力)、後衛はフィリア(闘気による身体強化)。そして上に乗るのは、白銀の翼を広げた元天使長ヴァルキュリアだ。
「寝室をぶち抜くですって!? 許しませんわ! その寝室は、私とマモル様が愛を育む聖域! 悪魔どもは私が浄化します!」
アルカは危ないので、応援席でポンポンを振って「まもるー! けっこんー!」と無邪気に叫んでいる。
【白組】
土台の前衛はキャルル、後衛はルナ。そして上に乗るのは……。
「……フフフ。ハチマキ=ポイント=一万円札。ハチマキ=ポイント=一万円札……」
完全にトランス状態に陥った、極貧王女リーザだった。彼女の目には、他チームのハチマキが分厚い札束にしか見えていない。
「位置について……」
マモルが手を挙げる。
上空の雲が、三つの強大なオーラの衝突によって渦を巻き始めた。
「はじめェッ!!」
ピィィィィィィィッ!!
開戦の合図と共に、グラウンドが爆発した。
「全機、突撃ぃぃぃ!!」
黒組のイグニスが『マグナ・ブーツ』の出力を全開にし、重戦車のごときスピードで赤組へと突進する。
「させませんわ! エルミナ、フィリア、迎撃を!」
「はいっ! 『聖盾』!」
「『闘気集中』!」
赤組の土台二人が、恐るべきパワーで黒組の突進を正面から受け止めた。
ドゴォォォォォン!!
衝撃波がスタジアムを駆け抜け、マモルが砂埃を被ってむせる。
「ゲホッ……お前ら、それ騎馬戦じゃなくて攻城戦だろ!!」
二つの巨大な力が拮抗する中、白組が動いた。
キャルルの超絶脚力で、戦場の死角へスッと回り込む。
「いくわよリーザ! 一気にハチマキを――って、あれ?」
キャルルが上に声をかけたが、返事がない。
見ると、騎手であるはずのリーザが、いつの間にか騎馬から降りていた。
「……1枚。……2枚。うふふ、落ちてるわ。お金がいっぱい落ちてるわ……」
リーザはグラウンドを四つん這いになり、赤組や黒組の激突の余波でちぎれて落ちた「予備のハチマキ」や「布の切れ端」を、パチンコ屋の球拾いさながらの猛烈な速度で拾い集めていたのだ。
「ちょっとリーザ! 降りたら反則でしょ! 何やってんの!?」
「うるさいわね! 落ちてるものを拾って何が悪いの! これは私の年金よ! チリも積もればマウンテンよ!」
「ルール崩壊してんじゃねーか白組! 失格!!」
マモルがホイッスルを鳴らすが、もはやカオスと化した戦場では誰も聞いていない。
「おのれ小娘ども! 余の魔王の力を見せてくれる! 『暗黒波動』!!」
サルバロスの手から、漆黒の魔力弾が放たれる。
「そんなもの! 『神聖光線』!!」
ヴァルキュリアが光の槍を投げ返し、空中で相殺させる。
ピカァァァァァッ!! ドズゥゥゥゥン!!
もはや騎馬戦のハチマキの奪い合いではない。
ファンタジー世界における、神と魔族の代理戦争へと発展していた。
熱狂……いや、殺意のインフレは止まらない。
「ええい、鬱陶しい! 遊びは終わりだ! デュラス、レオパルド、イグニス! 余に全魔力を回せ! あの生意気な天使ごとスタジアムを消し飛ばしてくれる!!」
サルバロスの頭上に、黒い太陽のような巨大な魔力球が形成され始める。
「や、やめろサルバロス! それ『殺傷魔法禁止』のルール違反だぞ!」
下で支えているデュラスが顔面蒼白で止めるが、魔王の耳には入らない。
「売られた喧嘩は買いますわ! 私の持てる全ての神聖力、今ここに解放します!!」
ヴァルキュリアもまた、6枚の光の羽を展開し、天界の最終兵器とも呼べる極大魔法の詠唱に入った。
空が半分は漆黒に、半分は白銀に染まる。
アルニア・ドームの防壁はすでにひび割れ、観客(領民たち)は悲鳴を上げて逃げ惑い始めた。
「や、ヤバいっすよこれ! 本当にアルニア領が消し飛ぶっす!」
イグニスが涙目で叫ぶ。
「あーあ。やりすぎでしょあいつら。……マモルちゃん、出番じゃない?」
ルチアナがビールを飲み干し、呆れ声でマイクを通さずに呟いた。
「…………」
グラウンドの中央。
マモルは無言で、首から下げていたホイッスルを外した。
そして、ジャージのポケットから、静かに『それ』を取り出した。
鈍い銀色の輝きを放つ、三本の金属棒が鎖で繋がれた武器――伝説の武具『三節根の王帝』。
普段はツッコミ役に徹し、胃薬を片手にため息をついている青年。
だが、彼の根底にあるのは「教師」の魂だ。
生徒(居候)が度を超えた暴走をした時、顧問はどうするか。
「……お前ら。いい加減にしろよ」
マモルから、静かだが、恐ろしいほどの威圧感が放たれた。
魔王と天使長。二つの極大魔法が放たれる直前。
マモルは『三節根の王帝』を構え、合気道の構え(円の動き)を取った。
アルニア最強の『補習授業』が、今、始まる。




