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56 閑話 主人との出会い(アルセン視点)前半

このお話は、アルセンとエマの出会いのお話をアルセン視点で描いたものです。最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

私の名前は、アルセン。エマ様の専属執事であると同時に闇魔法の家庭教師でもある。かれこれ我が主エマ様とは5年以上前からの長い付き合いだ。


私は、もともと歓迎されるべくして生まれてきた存在ではない。とあるお方のたった一夜による戯れにより生まれたいわゆる不義の子だ。


母は、誰もが羨むような美貌の持ち主で、桃色の髪の毛にライムグリーンの瞳を持ったまさに春のような存在だった。


とある貴族の使用人として雇われていた母は、ある日、来客として訪れていたそのお方の目に止まった。


使用人という弱い立場であった母は一夜の誘いを断ることが出来なかった。その結果私を身ごもった。


そのお方の奥方に目をつけられることを恐れた母は、すぐに田舎のとある農村に身を潜めた。そのため、幸いにしてそのお方には私の存在は認知されていなかった。


私が、10歳を迎える歳までは、その村で貧しいながらも幸せに暮らした。母とは、よく景色が見える丘の上で遊んだ。


追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり、天気がいい日にはよくピクニックに出かけた。春には、辺り一面にシロツメクサの花が咲き誇り、花かんむりを誕生日にはつくったりと楽しく幸せな日々を過ごした。


ところが、幸せはそう長く続かなかった。


一夜だけ過ごした存在である母のことを忘れられなかったそのお方は、私たち家族を探し続けていたのだ。


ついに、そのお方に見つかった私たちは、そのお方の屋敷に引き取られることになった。


ここからが悲劇の始まりだった。私や母は、案の定奥方様、そしてその子供達に虐められた。


しまいには、使用人たちからもうっとおしい存在として扱われた。そのため、田舎での暮らしよりもさらに貧しい暮らしを強いられた。


食べるものは、全て腐ったものや残飯などが出され、水さえも貰えない日もあった。


母は、私に何とか食べさせようと内緒で働きに出ることも少なくなかった。しかし、そのような酷い環境では、体が悲鳴をあげるのは無理のないことだった。母は、段々と病床に伏せがちになり、ついには歩くことさえままならなくなった。


あのお方は、はじめの方は母に毎晩相手をさせておきながら、病床に伏せがちになってからは見舞いのひとつもよこさなくなった。


所詮は、遊びの存在でしかなかったのだろう。私は、そんなどうしようもない現実に絶望し、自暴自棄に陥った。


母を守ることも、助けることも出来ない。それでも、何とか母に今までの恩返しで美味しいものを食べさせようと昼夜とはず働きに出かけるようになった。


しかし、働くといっても、その当時はたかが10歳そこらの年齢であったこともあり大したお金は稼ぐことができなかった。


それでも、母は私が稼いできた僅かばかりのお金でも嬉しそうに目を細めて、けれども申し訳なさもある複雑な表情をしていた。


そのような生活も2年以上続けると慣れてきた。私にとって働きに出ている時間が気が楽で、段々と屋敷に帰らずに仕事をする日が増えるようになった。母とも以前に比べて会話をする機会は格段に減った。


その日は、屋敷に来て3度目の母の誕生日だった 。春の日差しが暖かくポカポカした天気で私は母のことを思いながらその日は仕事に出かけた。


親方から許可をもらい、その日は午前中だけ仕事をした。母に、誕生日のサプライズをするためだ。私は、この日のために、母の好きなケーキを買い、花屋でシロツメグサやタンポポやスミレなど春のお花で花束を作ってもらった。


また、1番のサプライズとして母と私の共通点であるライムグリーンの瞳を連想させる宝石のネックレスを用意した。


宝石と言っても、原石に近い石ころからわずかに取り出したカケラなので大きさとしては雀の涙程度だがそれでも母に喜んでほしい一心で用意した。


なんだかんだ準備をするのに時間がかかり、結局帰ってきた時刻は、日をギリギリ跨がない時刻になってしまった。


いつものように、母の部屋をノックし部屋に入った。中からの返事は、なかったので寝ていると思ったわたしは特に警戒もせず中に入った。


「母さま、ただいま帰りました。」


「‥‥」


部屋の中に入って母に声をかけるも、母からの返事はなかった。


ベットに近づくといつものように彫刻のような美しい姿で横になっている様子が見えた。


「母さま、今日は誕生日おめでとうございます。これ、母さまの好きなシロツメグサと春の花束です。それにこっちは‥‥‥」


そこで、ようやく私は母がいつもと様子が違うことに気づいた。


顔からは血の気がひいており、今にも息を引き取ってしまいそうな程、か細く呼吸をしていた。


「母さま!!母さま!しっかりしてください。今、医者を呼んできます。」


そう言って、すぐにきた道を引き返そうとしたところ母の細い手がわずかに動き私の袖を引っ張った。


「‥母さま?」


激しく咳き込んだ母の背をさすり、何か言おうとしている母の言葉に耳を傾けた。


「ゴホッゴホッ。アル、‥‥‥もういいのよ。」


「もういいって、何がいいんですか?」


「‥もう、私は長く持たないわ。‥‥ゴホッ、ゴホ。」


「そんなこと言うなんて母さまらしくないです。いつだって、前向きなのが母さまのかっこいいところではなかったのですか?」


「‥はは、そうね。‥アルに情けないところは見せられないわね。」


「そうですよ!今日だって、私は母さまのために誕生日の‥」


その続きを言おうとした私を不意に母は優しく抱き寄せた。


「‥‥、ごめんね。今まで本当に苦労をかけたよね。」


「か、母さま。」


「‥でも、アル聞いて。もう私は長く持たない。‥さっき、毒を盛られたの。」


「毒、、ですか?それはなんの?」


「それは‥、母さまにもわからないわ。だから‥最後に一つだけ、アル‥愛してるわ。アルは、私にとってかけがえのない宝物よ、本当はもっとそばで成長するのを見たかった。」


そう言った母の目からほろりと一粒の涙がこぼれたあと

母の心臓は鼓動をやめた。


母はこの世から息を引き取ったのだ。


「か、母さま!母さま!!!誰か、医者を呼んできてくれ!!」


母の部屋では虚しくも私の叫びだけが空虚に響いた。

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