19 閑話 ミル・アスタルオ
アスタルオ伯爵家長男、ミル・アスタルオ。
父は騎士団長をしており、周りから慕われている。顔は、とても怖いが、気さくな性格と戦場で数々の功績を上げ、《狂気の騎士》と呼ばれた程の剣豪である。
そんな父を尊敬していたので僕自身も剣術に興味が湧くのは当然だった。たびたび、父が訓練をしている騎士団を訪れては、剣の持ち方から、使い方など、ありとあらゆる剣のことをそこで習った。
まだ12歳ということで騎士団には所属できていないが、14歳の試験に合格さえすれば騎士団に所属することが出来る。いまは、それに向けてひたすら剣の腕を磨いている。
剣術以外のことは基本的には興味がなかった。母の付き添いで、お茶会などに出かけても僕はただ壁にたち、ひたすらお茶会が終わるのを待っていた。
たまにご令嬢に話しかけられたりするが、基本的には、対応をするのもめんどくさいので黙っている。
最初は、一生懸命話しかけてくるがそのうちみんなどこかへ行ってしまうのだ。
そんな僕だが友達はいる。とくに仲がいいのがこの国の第1王子のジン・ストラティカだ。ジンとは小さい頃から一緒に何度も剣をまじ合わせてきた。
時には、ムカついて喧嘩し合い、話さなくなることもあるが、いつも2、3日すればまた剣で勝負を始める。
それの繰り返しだ。一緒に街へ行ったり、危険な裏路地へ行き、チンピラと喧嘩することもあった。
ジンと過ごすのは僕にとってすごく楽で一緒にいると、ジンが本当の兄弟みたいに感じられた。
そんなジンだが、やはり第一王子ということもあり、10歳になった頃には徐々に公務の仕事をこなしたりして会える時間が少なくなった。
それでも、お互いが会えば、また笑いあい剣で戦う。ただ、その回数が少なくなっただけだ。
王家主催のパーティなどでも会うが、その時のジンはずっと、笑顔という名のマスクを外さない。
第1王子という重圧にも耐え、なんでもこなすジンの役に立ちたい。もっと相談して欲しい。そう思っていた。
12歳になり、ジンが婚約したという話を聞いた。アスガルド公爵家のご令嬢だそうだ。
噂では、金髪の髪の毛に水色の瞳のまさに天使のような容姿をしているらしい。それだけではなく、並大抵の量ではない教育を軽々とこなす天才だそうだ。
ジンに婚約の話をすると、いつも何故か話をそらされてしまうので、何故だろうと不思議に思っていた。
それに、最近のジンは、いつも以上に色々と公務をこなし、忙しそうにしている。
ある日父から、その公爵家の令嬢のテストを手伝って欲しいというお願いをされた。ジンがなぜあんなにも隠そうとするのか、興味があったので僕は承諾した。
当日、実際に会って噂は本当だったということを確信した。あまりにも、可愛らしかったので、ジンが隠そうとした理由がわかった気がした。僕自身、人と話すのは得意ではないので、最初は無愛想な挨拶になってしまった。
護身術を習っていると言っても、ただの、令嬢のご気楽程度のものだと思っていた。
もちろん、手を抜いて適当に合格させれば良いだろう、そう考えていた。
しかし、父上に
「本気で攻撃してみろ。きっと驚くから。」
と言われた。あの父にここまで言わせるその実力はどの程度だろうかと思い、少し興味がわいた。
実際に戦い始めて気付いたが尋常ではないくらいに反射神経がいい。よく、相手を観察し、綺麗にさばいている。並大抵の人間では彼女を倒すことは出来ないだろう。それぐらい彼女は戦闘能力において優れていた。
気付いたら、かなり真剣に自分でも攻撃をしていたのに5分間1発も当てられなかったのは正直驚いた。
その後、父から合格をもらい喜んでいる彼女の顔を見て動悸がした気がしたが気のせいだろう。
午後に、午前中動いたエネルギーを回復するために久しぶりに街におりた。僕は男だが、甘いものが大好きだ。それをあまり人には知られたくないと思っていたが、その日リーンと再会してしまった。
甘いもの好きだと知られたことは普段だったら、絶対に嫌だがリーンに対しては嫌な気はしなかった。
一緒に並んでクレープを食べていると、リーンがこちらを凝視していたので、食べたいのかと思って、クレープを差し出した。
それに少し驚きながらも、美味しそうに食べる姿を見て、また動悸が高まった。顔も赤くなっている気がする。それを悟らせたくないと思い、僕は全力で走った。
しばらくすると、動悸も治まったので、急いで残りのクレープを食べリーンを探した。
探してみると、人混みに押されているリーンをみつけた。僕は人を押しのけて彼女の手を掴んだ。
その瞬間腕をひねりあげられたのはかなり衝撃的だった。その後、勢いよく馬車が来た時には思わずリーンを抱きしめてしまった。馬車が通り過ぎたのを見て、腕を解放すると、真っ赤な顔をしたリーンが側から離れた。
ドキン。また動悸が始まった。一体この正体は何なのだろう。その後、リーンに1人でどこに行くのかと聞くと、王立図書館へ行くと言っていたので、さっきのこともあり、送っていくことにした。
また、はぐれられては困るので今度は手を繋いだ。
小さくて色白で可愛らしい手を繋ぐのは思っていたよりもずっと恥ずかしかった。
無事に送り届け、離れた手を僕はしばらく眺めていた。
自分の感情の変化の正体がよく分からなかったのはこれが初めてだった。
その後、父上に頼み僕は彼女ともに剣術をやりたいと思った。一緒にいれば、そのうちこの気持ちの正体もわかるだろう。




