古い日記帳
「ルイ王子、遊ぼうー」
「別にいいよ、ショート王子」
「わあい」
最近ルイ王子とショートが仲がいい。
王子同士で、話も合うのかもしれない。
そこにロイ王子も混じって、何やら国についてしゃべってるときもある。
ショートが国について語ってるのを見たときは、正直びっくりしたけれど。
意外と博識なんだなって驚いちゃった。でも王子様だもんね。よく考えればいろいろ勉強してて当然かあ。いつもは可愛い弟って感じだから忘れがちだけど……。
「でもまあ、ぼく達はいいとして、母上たちがどう反応するかだねー」
「そうだね、兄上。理解してくれるかどうか不明ですね」
「……聞く耳もっていくれるかな?」
「兄上が言えば、いいのでは……俺はあんまり……」
「ロイ、お前は自信がなさすぎだ」
「でも、兄上」
ロイ王子はうつむく。
昔からいろいろあったんだろうなあ。
「お前は魅力的だと思う」
「兄上……」
なんか、最近この兄弟仲いいよね。
いい事だー。
なんかロイ王子も最近ルイ王子に対してリラックスしているし。
「いいなあ、私も兄弟いたらなあ」
「クリスおねーちゃんだけじゃなくボクらもひとりっこだもんねぇ」
「まあ、自由でいいけど僕は」
「オレは妹か弟が欲しい」
こんなふうにふたりをうらやめるようになったのもとても幸せな事だと思う。
皆でのんびり紅茶を飲みながらクロワッサンを食べている朝は、とても気分がいい。
たまにエイベルが顔を出したり、王様が顔を出したりもするし。
最近は安心しきってるのか、大人たちも放任主義だ。
「俺の兄上は渡さない」
「ルイ王子愛されてるねーあはは」
「クリス……。ロイ、恥ずかしいからやめろ」
「兄上は俺だけの兄上ですっ」
仲良きことは美しきかな。
皆もニコニコしながらその様子を眺めていた。
そしてふと思い出す。ミシェルの飼い主からもらった何かを。
「ごめん、ちょっと私部屋に戻る」
「クリスちゃんどうしたのー?」
「すぐ戻るよ、チェリー」
「わかったー」
私は思い出したらいてもたってもいられなくなって、自分の部屋にそれを見に行くことにした。
**********
箱の中を開けてみれば、そこには古ぼけた日記のようなものが入っていた。
開いてみようと思った時、背後から気配がした。
振り向くと、黒い服を着た老婆がそこ立っていた。
思わずぞっとしながら、彼女を見る。何才だろうか、わからないぐらいにしわくちゃで若干お香のようなにおいがした。
真っ黒な目に、白い髪。どんよりとした顔色に、紫色の唇はかなり不気味だった。
「お前がクリスか」
「……貴女は?」
「クリスかどうかと聞いてる」
「……クリスであってますけど」
だから一体何だというのだ。
お城の中に入ってこれてるってことは、多分怪しい人間ではないはずなんだけど……。警備が厳しいから、不審者なんか絶対入ってこれないと思うし。
「お前がルイ王子をたぶらかした女か」
「!? 違……」
「せっかくうまくいっていたというのに」
「……まさか、貴女」
「まあいい。……転移魔法!」
老婆は私を引き寄せてさけんだ。
人間なのに転移魔法が使えるのは、びっくりしたけれど……よく考えれば、人間だって魔法を使える人がいてもおかしい話ではないのだ。
視界がぐるぐる回り、ふらつきながら黒い空間を動く。
意識が途切れ、目を覚ますと私は古ぼけた木造の家の中で縛られていた。
かろうじて口はふさがれておらず、水も用意されていた。
「あの」
「しばらくは、生かしてやろう」
「……まさか私を殺す気なんですか」
「どうだろうねぇ。お前は聖女と呼ばれているんだろう? その役目を降りるなら、いくらでも生かしてやるよ」
クククククと怪しげな笑いをする老女。
リルがそばにいないので、すごく不安になる。
私は、選ばれし少女だけれど、自分の能力をあまり把握していないからだ。
「私の意思でできる事でもないし、そもそもいやよ」
「じゃあ、殺すしかないな。邪魔者は消すまでよ」
「どうして貴女はルイ王子を呪ったりしたの? 大切な時期王様でしょう?」
「だからだよ。だから、ルイ王子の発言力は偉大だ。何より両親も彼には甘い。彼さえ、獣人を嫌いでいれば国民も従うだろう?」
確かに、実際そう言う感じだったけれど……そのせいでルイ王子はずっと体調が悪かったのだ。そう思うと怒りがふつふつとこみあげてくる。
「人の命を何だと思ってるんですか!」
「……どうせ人間はすぐ死んでしまうよ。まあ、獣人もだけれどな」
どこか寂しげに老女はつぶやいた。
まるで何かを見てきて、あきらめているかのような口ぶりだ。
「生き物儚くもろい」
「おばあさんは何者なの?」
「わしか? クククク。伝説の姫の親友だよ」
「……だから、獣人を恨んでいるの?」
「そりゃ恨みもするだろう。あの美しい姫を、あいつはたぶらかした。純粋で心優しいあのアンリ―姫を!」
「……きっと、思い違いよ。アンリ―姫は不幸なんかじゃなかった」
「どこにその証拠がある」
「それは……」
そう私が悩んだとき、日記が光った。これは一体……。
恐る恐る日記を見て見ると、そこにはアンリ―という名前が書いてあった。
「これは、アンリ―姫の日記か。読ませろ!」
「きゃっ」
襲い掛かってくる老婆に、悲鳴を上げる私。
そこにエイベルが飛んできた。
「クリス! 無事か!」
「賢者様!」
「……お前がこの国いちばんの賢者か」
「貴様は何者だ」
「ロマンヌ国唯一の魔法使い、かつ黒魔術師のべべだ」
「どこかで聞いたことがあるな」
「わしの存在は、今や伝説のようなものになっているからな。ひっそり山奥で普段は暮らしておる。街へはめったに降りない」
そう言って、べべは冷たい視線をエイベルに向けた。
「魔法でわしの存在を察知したのか? 賢者」
「ああ、異常な魔力がクリスの部屋からしたからな」
「クククク……わしの魔力は賢者よりも上だろう?」
「そうかもしれないな」
「負けを認めるのが早いな、賢者」
「魔力だけで勝ち負けは決まらないだろう?」
にらみ合うふたり。少し怖い。
そこにルイ王子達がやってくる。
驚いたのはロイ王子だ。
「ババ様!?」
「ババ様?」
私が首をかしげる。
「この方は、お城で占いをしてくれるババ様だ。俺もよく見てもらっていた」
なるほど、占いもできるのか。
まあ、いかにもできそうなイメージはある風貌だ。
「ババ様はどうしてここにいるのだ?」
「ロイ王子、彼女がルイ王子に呪いをかけた張本人だったの」
「! クリス、それは事実なのか」
「ええ……」
「そんな」
落胆するロイ王子にかける声も見当たらない。
「それよりもそこの人間の女。日記をよこせ!」
「いやよ!」
「クリス、自分に貸してくれないか」
「賢者様なら……」
私はエイベルに日記を渡す。
するとエイベルはその本に魔方陣をすいすいとかいた。
「これで、日記の中身を皆で除いてみよう。今から、日記の中に入る。夢を見るかのように、日記の内容を見ることができるよ。ここにいる全員で、見る」
「! 父さん、そんなでかい魔法を使っていいのか?」
「かまわないさ。もうしばらくは魔法を使わないですむ可能性があるからね」
「? ……どういうことだ?」
「まあ、気にせず行くぞ。ブルーノ。さあ、皆も目をつぶって……」
私達は言われるがままに目をつぶった。
まぶしい光が目をつぶっていてもわかる、
体がふわふわしたかと思うと、私達の意識は飛ばされた。




