ルイ王子の××
る ルイ王子はそのまま担架で部屋に運ばれた。
熱があり、治療をしたのだけれど、下がりはしたものの意識ははっきりしなかった。
それを見たブルーノは、エイベルを呼んだ。魔法のせいではないかと思ったらしい。
賢者であるエイベルはすぐに理由をつかんだ。
「これは、呪いだ……自分が見たことのない、深い邪悪な呪い」
「賢者様、それは解けるの?」
「クリス……まあ、解けはするが、またかかるだろうね。ルイ王子はメンタル面が強くない。体も弱い。いいターゲットだよ……」
はあ、とため息をつくエイベル。ロイ王子の顔が真っ青だ。
呪いは、弱者ほどよく効くと習った気がする。
「それに、病弱なのも呪いが関係しているだろうね。……これは、黒魔術だ」
「黒魔術!? あの、悪い魔法の事?」
「そうだよ、クリス。自分達は使わないが……強い念があればだれでも使えると言われている黒魔術……まあ、その代わり、魂は地獄に落ちると言われているけれどね」
「そんな、いったい誰が」
「わからない、まずは魔法を解くしかないね」
なんて恐ろしい事実なのだろう。ロマンヌ国には、そんな魔法使う人はいない。
つまりは、あちらの国であるシャロック国のだれが使っているのだろう。
それは、だれが何のために……?
「クリス……もしかしたら、ルイ王子は自分の意思で僕達がきらいじゃないのかもしれない」
「ブルーノ、その通りだ。この魔法は彼の意思を操ってる」
「父さん、それは事実か」
「ああ。彼はいたって普通の思考しか持っていない。頭脳はずば抜けているけれど、元は動物も嫌いじゃないし、獣人に偏見もない。ただ、生まれてすぐに呪いを誰かに受けている……」
「……それを防ぐ魔法はないのか」
「クリスの髪の毛を、切って身に着けさせればいけるかもしれん」
「私の……? なんで?」
「クリスが選ばれし少女だからだよ」
(そうなの?)
私は思わずリルに尋ねる。
『乱用はできないが、黒魔術を防ぐ力は確かにクリスにはある。クリスが呪われないように、髪の毛にその力が宿っているんだ。もちろん、まつ毛や眉毛にもな』
初耳である。まあ、黒魔術なんか今まで一切かかわってこなかったから、出る必要もない知識ではあったけれど。
「私の髪の毛でいいなら……」
「クリス、少し貰うよ。ごめんな、女の子のなのに」
「ううん、賢者様。誰かを救うためなら、全然髪の毛ぐらい惜しくないし」
「これを、小瓶の中に入れて常に持ち歩けるようネックレスに加工しよう」
「ボク、お母様たちに頼むよ!」
「ありがとう、ショート王子。さすがは王子様だね」
「えへへ、賢者様に褒められちゃった」
「父さん、はさみを借りてきた」
「助かるブルーノ。クリス、ごめんな」
そう言って私の髪にはさみを入れるエイベル。
ほんの少しの髪の毛を切ったぐらいじゃ、別に問題はない。
私自身髪型とか、あまり気にしない性格だし。
切った髪の毛をもって、ショートは走り出した。
そのまま黒魔術を解く儀式が始まる。
怪しげな呪文を唱えながら、魔方陣をベッドの周りに書いていくエイベル。
ブルーノも一緒に手伝っている。どうやら、エイベルの魔力の補強の魔法らしい。
怪しげな雰囲気が漂う中、私は祈った。
(ルイ王子が助かりますように……)
『大丈夫だろう。エイベルの力は偉大だ』
しばらくして、呪文を唱える声が途絶えた。
そして、私はそっと瞼を開く。
「ルイ王子……?」
私を身を乗り出して彼の顔を見た。
顔色は、だいぶ良くなっている。むしろ、つややかなぐらいだ。
ゆっくりと目を覚ますルイ王子は、ぼんやりとクリスを見つめた。
そしてあちらこちらに視線を泳がし、ぱちぱちと瞬きをする。
「ぼくは一体……」
「兄上!」
「ロイ……いったいどうしてぼくはベッドにいる? 何があった?」
「えっと……兄上は呪いにかかっていたのです」
「呪い?」
「……自分が魔法を解きました。エイベルと言います。言いずらいのですが、ルイ王子には黒い影が付きまとっています。今はクリスの髪の毛がやってくるので、身の危険は消えますが……」
「賢者様! ネックレス作ってもらったよ!」
走り寄るショートから、ネックレスを受け取るエイベルはすぐにる打王子の首にそれをかけた。なんか、キラキラ輝いてる気がする。
そのネックレスを付けた瞬間、ルイ王子の顔色がさらに良くなった気がした。
「これが、クリスの力……」
ルイ王子がぼそりと言った。
「で、誰なのです。兄上!」
「ロイ、何が?」
「兄上を呪ったやつですよ!」
「……記憶がないんだ、それが」
「さすが黒魔術を使うだけはあるな……くそっ、兄上の人生をめちゃくちゃにするとは、許せないっ」
「ロイ、お前は何でぼくにそんな気を遣うんだ? ぼくは散々お前にいやなことをしただろう? 小さなころからぼくばかりかまわれて、寂しい思いもしただろう?」
ルイ王子は寂しげにそう言った。
しかし、ロイ王子はきょとんとした顔をしている。
「? 体が弱いのは仕方がないことでしょう? 兄上の意思で体が弱かったなら、別問題ですけど」
「……だけど」
「気にしなくていいんです。兄上はこれからやっと普通の身体を手に入れるんです、楽しんでくださいよ」
「ロイ……お前が弟でよかった。出来損ないと呼ばれているが、お前はいい弟だ」
「……実際、兄上にはかないませんから」
ロイ王子はルイ王子が大好きなんだなあ。
あの夢も、本人はそんなに気にしてないのかもしれない。
にこにこするロイ王子を、ルイ王子が撫でた。
少しビックリしたロイ王子は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「兄上……」
「自慢の弟だよ、ロイは」
優しげなルイ王子の顔は、お兄ちゃんの顔をしていた。
思わず目が潤んでくる私達。ショートなんかすでに泣いてるし。
「こほん」
エイベルが咳払いをした。
「ルイ王子……クリスの髪は、簡単にルイ王子から奪えるものだ。だから、また同じ呪いにかかるかもしれない覚悟はしてくださいね」
「わかった、賢者様」
ネックレスを握りしめてルイ王子。
まあ、髪の毛ぐらいいくらでも提供するつもりではいるけれどね、私。
「では、自分は帰ります。ブルーノ、後は頼んだ」
「はい、父さん」
ブルーノが頭を下げる。そして、エイベルは去っていった。
入れ替わりに使用人が紅茶を運んできた、。
それをチェリーが皆に配る。
「これからは、仲良くできると思うよ、ぼく」
「本当!? ルイ王子!」
「クリスが喜んでくれるならなおさらね」
「え? 何で?」
「……鈍いなあ、クリスは」
「クリスちゃんはそこが可愛いんだよ」
「え? チェリーも何言ってるの?」
意味がわかんないんだけど。
その日は、和やかに残りの時間を皆で過ごした。
夕飯は、ルイ王子達が来てから一番おいしく感じられた。




