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わんわん大行進

 無事に人間に戻った三人は、なんだか最近よそよそしい。

 まあ無理もないよね。もう少しこの街にいるつもりなんだけれど……くっつくことに抵抗があるみたいだし。

 ただ、ショートだけは中身がお子様なせいか、すぐに立ち直った。


「クリスおねーちゃん、あーそぼっ」


 尻尾を振りながら構ってくれよと主張するショート。

 ほかのふたりが様子を見ている。


「じゃあ、私と一緒に出掛けようか」

「本当! やったあ、ボクがクリスおねーちゃんを独り占めだあ」


 ふたりの耳がピクリと動く。

 しかし、それでもやっぱりこっちには来ない。

 得意げな顔をしたショートが鼻で笑った。


「気にしたって意味がないのにーねー?」

「あはは……」


 でも、あのふたりはもうそこまで幼くないから、無理もないと思う。

 特にブルーノは小さなころのお風呂の時すら本気で嫌そうだったし。

 ショートは私の腕に手を絡めて、完全お子様モードだ。

 荷物を持つと、ルンルンで外へ出た。

 こんなんじゃ、旅芸人のふりもできやしないので、今日は普通の服装で歩く。


「今日はお菓子買っていい? クリスおねーちゃん」

「あんまり高いのはダメだよ?」

「綿菓子―!」

「それぐらいならいいかな」

「わあい」


 正直綿菓子が子犬のショートに見えなくもない。

 だって、すごく似てるんだもん。

 ショートは綿菓子を買ってあげると超ご機嫌にそれを食べだした。

 パタパタ振っているシッポは周りに見えていない。


「皆、あきらめればいいのに。終わった事なんだもんっ」

「まあ、そうだけど」


 それにしてもチェリーの筋肉は相変わらず子供にしてはしっかりしていた。

 顔はそんなに大人っぽくないけれど、それでもバランスはおかしくない。

 雰囲気だろうか。


「割り切るのは大変なんだよ」

「そうなの? クリスおねーちゃん」


 正直私も今になってスカートの中にみんなを入れたことを後悔している。

 変態じゃあるまいし……。


「そういえばクリスおねーちゃんっていつもパンツは白なの?」

「……ショート、忘れてくれる?」

「ボクも白だよ、お揃いだねっ」

「……そう言う問題じゃ無くて」


 ショートがきょとんとしているけれど、説明して理解させるのもなあ。 

 そう思っている、なんか周りが騒がしい。


「なんだあれ」

「犬の行列?」


 声の方向は、ショートの後ろだった。


「わあ」

「わんっ」


 見て見ると、ショートの後ろに大勢の犬たちが連なっていた。

 何事かと思うのも、無理はない。

 ショート本人もぽかんとしている。


「なにこれ、綿菓子欲しいの? あげないよっ」

「多分違うと思うけど、ショート……」

「やだー、うるさいよーわんわんわんわん」

「可愛いじゃん」

「ボクのほうが可愛いもんっ」

「まあまあ……それは今さらでしょ?」

「そうだよねぇ」


 あ、機嫌が直った。ショートってば、単純だわ。

 でも、この犬たちどうしよう。

 買い物をする間も、宿についてもついてきた。

 宿の主人は犬は好きだからとニコニコしたけれど……。

 帰宅した私達を見て、ふたりは唖然。まあ、当然だね。


「何だこの犬まみれ……」

「わーすごいねショート君」

「邪魔なんだけど! ボクの後ろずっとついてくるし、くっついてくるし」

「全部雌だな」

「ブルーノ、性別見るの早いっ」

「雰囲気でわかる」


 そういうものなのか。


「モテキなんじゃないのか」

「ブルーノおにーちゃん、何それ」

「人っていうか、獣人もだが、一生に何度かすごく異性に好かれる時期があるらしい。お前の場合、それが今なんだろ」

「極端すぎない?」

「僕もそう思うけど、クリス。それ以外に何がある」

「まあねぇ……」

「やだやだ、ボクはクリスおねーちゃんに好きって言われたいー」

「無理だろ、ガキだし」

「ブルーノおにーちゃんも子供でしょっ」

「お前よりは大人だ。そしてクリスよりもな」

「むかー」


 にらみ合うふたり。アワアワする私。

 それに対して、チェリーは苦笑い。


「こういう会話が一番子供っぽいとオレは思うけど」


 うん、本当にね。そのチェリーの言葉に黙るふたり。


「それにショート君。クリスちゃんは可愛い動物が大好きだから、犬連れてると喜ぶと思うよ。ねえ、クリスちゃん」

「ん? そうだねえ、かわいい子がいっぱいは幸せだね」

「わかった! ボク気にしないっ」


 やっぱりショートは単純なのであった。


**********


 昨晩は犬まみれになって気持ちよくショートと眠った。

 本当に幸せな夜だった。

 今日の夜もそうなのかと思うと、にやにやが止まらない。

 ……なのに、宿の周りがうるさい。

 挙句の果てに宿の店主が外に出るよう言い出した。

 何事かと思うと、沢山の人間が宿をかこっていた。

 まずい、正体がばれたのか……そう身構えた時だった。


「うちのシロを返して!」

「こっちのメアリーも!」

「マリリンちゃん……」

「もしかして、皆さんこの犬たちの飼い主ですか」


 私は直感で言った。

 みんな目の周りが赤いし、気が立っているように見える。


「そうよ、泥棒!」

「どっ……私達は泥棒じゃないです」

「その小さくてかわいい男の子が、誘惑したんでしょ!」

「ボク何もしてない!」

「そうです、勝手についてきただけ……ほら、犬たちもこの子になついてるでしょう?」


 そう言って私はショートの足元を指さす。

 いろんな犬たちがショートにかまってくれよとアピールしていた。


「メアリー戻っておいで」

「わんっ」


 メアリーと呼ばれた黒い犬はショートにスリスリした……。

 さすがの飼い主も、目が点。


「……わかったわ。それは納得したけれど……」

「けれど?」

「飼い主のあたし達になつかないのは納得がいかないわ」


 それは確かにそうかもしれない。

 しかし、そこにブルーノが乱入してきた。


「なら、この街のはずれにある、この薬草を取ってくるといいですよ」


 何やら絵にかいてみたらしい薬草をブルーノが見せる。


「なによこれ」


 飼い主のひとりが首をかしげて言った。


「犬を呼び寄せる薬草です。ま、知名度はないですが効きますよ」

「そんなものがあるの!」

「比較的取りやすい場所に生えていますから、今から取ってきては?」

「わかったわ、沢山取ってくる!」


 そう宣言して飼い主たちは消えた。

 ほっと溜息をつく私達。

 さすがブルーノだ。博識はこういう時に役に立つ。


「ありがとう、ブルーノおにーちゃん」

「別に、うっとーしかったからな」


 鼻を鳴らすブルーノは、照れているのだろう。顔が若干赤い。

 ショートは喜んでブルーノに抱き着いたけれど、犬も一緒にくっついていったのでブルーノは不機嫌になった。

 そしてその夜、草を持った飼い主たちが犬を回収していった。

 なぜだかショートはしょぼんとしていた。なんだかんだでやっぱり寂しいのかなあ……。


「ショート、大丈夫?」

「大丈夫じゃない」

「え」

「これじゃクリスおねーちゃんの気が引けないじゃん、ボク犬になる!」

「無条件で離れないはずだけど」

「条件は何!? リル、知ってるんでしょ?」


『大人しか知らない時点で察しろ』


「言えないんだって」

「むー!」

「まあ、いいじゃん、そのまんまでショートは可愛いよ」

「本当?」

「ショートだけでも、魅力的だからっ」


 そう言ってショートをぎゅっとする。

 するとコロッと態度を変えるショート。


「ならいいや」


 本当、素直でかわいいなあ、ショートは。

 その日、ずっとショートは私にシッポを振ってくっついていた。


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