一同、獣になる
人間の国の王子……人間君ことロイ王子は私達を見て悲しそうに笑った。
「君たちは、旅芸人だよね?」
私達はすぐに、自分たちをロイ王子がかばってくれていることに気が付いた。
なので即座に旅芸人のふりをすることにした。
「そうです、私達、王子様に芸を見てもらえて光栄です」
「楽しかったから、チョコレートをあげよう」
そう言ってロイ王子は私にそっと顔を近づけた。
「早くこの国から逃げて」
耳元でロイ王子が囁いた。え、どういう事?
目をぱちぱちしている私に、ロイ王子はチョコレートを渡す。
「味わって食べるといい」
「ありがとうございます、ロイ王子」
「では、またの機会があれば」
「はい」
そう言ってロイ王子は立ち去っていった。
私達は顔を見合わせる。そして足早に宿に戻った。
で、だ。当然話題は決まっている。
「人間君がシャロック国の王子なんて、知らなかったよ私」
「オレだってー。ここの国王子って怖いって噂だよね? 人間君……ロイ王子が?」
「さっき、早く逃げてって耳打ちしてくれた」
「やっぱり優しいじゃんー。ロイ王子」
「……絶対逃げて、って何があるんだろう」
「やっぱり僕達を捕まえる気なんだろう」
「ブルーノ!」
ブルーノははあ、とため息をつく。
まるで初めからわかっていたような口ぶりだ。
「人間はそんなもんだ。クリス達が人間に希望を持っているのがおかしい」
「ブルーノお兄ちゃん……」
チェリーとショートもがっかりしている。
私も同じ人間として心が苦しい。
それでも私は皆に仲良くなってもらいたい……。
「皆はシャロック国が怖い? 私は怖い」
「僕は怖いってより嫌いだ」
「オレは……少し怖い、でも向き合うべきだと思う」
「ボクはロマンヌ国の王子だから、頑張る」
「……皆、一緒に旅してくれる?」
「もちろんだ」
「当たり前じゃんー」
「うん、いいよ、ボク頑張る」
皆がそう言った時だった。
ポンポン、という音がして皆が獣に戻った。
「皆!?」
『疲労の貯めすぎだな……』
(どういう事?)
『獣人が獣に戻るには条件があって、そのひとつが疲労の貯めすぎだ』
(……なるほど)
『一日前後はこのまま戻らないな。そして、その間会話ができない』
(しゃべれないの?)
『にゃあとかわんとかブーとか言うだろが』
(ブー?)
『うさぎはブーと鼻を鳴らして鳴き声を上げるんだ。声帯がないから正確には鳴き声ではないけれどな』
へぇ、可愛い。まずは服をかき集めて横に寄せる。
そして、とりあえずはショートを見て見る。金色の毛がキラキラして可愛い子犬だ。
思わず抱き上げてみる。するとほっぺたをスリスリしてきた。
「わんっわんっ」
ショートはご機嫌なようだ。
一方大柄なうさぎになったチェリーは私の足元にまとわりついている。
白くてふわふわで、とってもキュート。
確かにブーブー言っている。
ブルーノは青い猫になってそっぽを向いている。
なんか本をあさり始めたし。
チェリーは私のスカートを引っ張っている。
「皆とってもラブリーだね」
『まあ、宿の中でよかったな』
「わんわんっ」
犬になっても甘えてくるショートをあやしながら、しゃがみこんでチェリーを撫でる。ああ、なんて幸せな時間なのだろう。
ブルーノが構ってくれないのが切ないけれど、ある意味それがすごく猫らしい。
気まぐれで、自由で……ちらちらこっちを見ながら目が合うとそらすの。
「わんっ」
「ブー」
ほかのふたりは私に積極的によってくる。
狭い宿の中であんまり騒ぐとあれなんだけれどね。
なんか、嫉妬でもしたのかリルまで私のほうにくっついてきた。
え、なにこれ、天国ですか?
私は思わずとろけそうな顔をしながら、皆とワイワイやった。
なんか、本来の目的すら忘れそうだよ……。
「ブルーノもおいでよ」
「にゃあ」
嫌そうになくブルーノ。つれないなあ。
するとチェリーがブルーノを引っ張って連れてきた。
なんだかんだでうさぎになってもバカ力らしい。
「ブー」
「にゃー!」
暴れるブルーノ。しかし、チェリーにはかなわないらしい。
必死で鳴きながら抵抗するもむなしくブルーノは私に抱かれることになった。
鋭い黄色の目でにらみつけてくるけれど、やっぱり動物は愛しい。
「やーんブルーノかわいい……」
「にゃあにゃあ」
「わんっわんわんっ」
一緒に抱かれてるショートが今度は不満そうに私を引っ張る。
ボクのほうがかわいいと言いたいのだろうか。
それをのんびりしたの方で見ているチェリーは満足げだ。
しかし、さすがに騒ぎ過ぎたらしい。宿の店主らしい声が遠くから聞こえた。
扉をノックする音が来る。
「クリスさん、動物の声がするけれど……」
「皆、私のスカートの中に隠れてっとびついて」
私は小声で言った。フリーズしたのち、皆はそれを受け入れる。
そして、扉が開いた。
「あら? クリスさんひとり? 動物と男の子たちは?」
「今、男の子たちは出かけてて……動物とか、いるわけないじゃないですか」
「入り口から入るときは四人だったような? そりゃ一匹動物は許可してるけれど」
「気のせいですよ!」
「……まあ、実際いなのだからそうなのかもね」
「そうですそうです!」
「じゃあ、また後でご飯を……」
「私が取りに行くんで、持ってこなくていいです」
「いいの? ありがとう」
そう言うと、宿の店主は去っていった。
思わずため息。そして鼻血を出した動物たちがスカートの中から出てきた。
「わわわ、皆大丈夫?」
「わん」
「ブー」
「にゃ……」
声に元気ない。なんでだろう。
とりあえず水を皆に飲ませることにした。
すると少しずつ顔色がよくなっていく。ああ、よかったあ。
『獣人だから、動物になっても食べ物は変わらない』
(そうなんだ、よかったあ。餌とか準備しなきゃいけないかと……)
『安心しろ、必要ない。まあ、食べにくいだろうから食べさせてやるべきだけれどな』
(なるほど)
それよりも。
「今はとにかくみんなのかわいさを満喫しよう!」
「わんわんわんっ」
「ブー」
「……にゃ」
可愛い三匹に囲まれてその日私は幸せいっぱいだった。
眠るときも、もちろんみんな一緒に寝ようと考えた。
リルも今回は一緒に眠ることにする。
「わんわん」
「何、ショートは隣がいいの?」
「わんっ」
「ブー」
「チェリーも? じゃあ、ブルーノは私の頭の上に」
「にゃ……」
『わたしは足元だな』
こうして、皆で仲良く寝ることになった。
その日はいい夢をたくさん見た。可愛い動物との楽しい夢に、皆とロイ王子との幸せな未来を。
……それまではよかったんだけど。
問題は次の日の朝に起きた。
「きゃああああ!?」
起きたら、全裸の少年三人が目の前で寝ていたのは、正直どうしようかと思った。
三人も起きて、ものすごく戸惑っていたので、皆見なかった振りをしあった。




