あの人の正体
「明日王族がやってくるって」
「何? クリスちゃん。またお客さんとして?」
旅芸人の支度をしながら、チェリーが手を止めて振り返った。
看板を出して、おひねりをもらうための帽子を置いていく。
「違うよチェリー。なんか街の様子を見に来るんだって」
「視察かあー……」
よくそんな難しい言葉を知ってるね、チェリー……。
まあ、視察なら旅芸人のふりをしてればいいか。
これと言って変わったやることはないよね。
「とりあえず、今日も元気に行ってみよう!」
「クリスちゃん、やる気―」
「どうせなら気に入ってもらいたいじゃん、王族の人に」
「まぁそうだねぇー……」
この国の王族と仲良くなれば、私達幸せになれるわけじゃん?
まあ、正体は隠してるけれど……中身気に行ってもらえれば、後からばらしてもうまく行くかもじゃん?
私達はざわざわする街中で、準備をしていった。
いつもより豪華な芸をしてみたり、大張り切りの私達。
リルも頭にリボンをつけておめかしさせてみたり。
「ねぇねぇー。出店でなんか買ってこようよ」
「終わってからね」
「売り切れちゃうよー」
「チェリー我慢して」
「ぶー」
本当、にぎわってるなあ。まるでお祭りのよう。
やっぱり国民にとって王族ってのは特別なんだろうなあ。
ショートが退屈してリルと遊び始めた。ご機嫌よくシッポをふっているショートは、相変わらず可愛かった。ああ、ここが森の中だったら、ショートに突進するのに!
人目が憎いよおおお……。
そんな時、仮装した人間君が目に入った。
なんかうろうろしてるけど、また迷子かな?
「おーい」
私は叫んだ。人間君も気が付いたらしい。
「あ、クリス……」
「また迷子?」
「実はそうで……」
恥ずかしそうに笑う人間君。
まあ、こんだけにぎわってれば迷子にもなるよね! 仕方がないよ!
「あー、それ出店のお菓子だー。チョコバナナ―」
「いる? チェリー」
チョコバナナをチェリーに差し出す人間君。それを勢いよく奪うチェリー。
「いるいる! ありがとう人間君」
「別にいい。貰いものだから。俺、もうお腹いっぱい……」
「そんなに食べたの?」
「街を歩くだけで色々貰えるからね……」
なるほど、いいとこのお坊ちゃまなのかな?
羨ましいなあ……。
「クリスちゃん、よだれ出てる。チョコバナナ分けてあげるよー」
「いいの? 珍しいね、チェリーが分けてくれるなんて」
「それはクリスちゃんだからだよー……」
「やっぱり私って貧相かな?」
「そう言う意味じゃなくてー……」
なんか苦笑いをするチェリー。
それとも太り過ぎなのかな?
悩んでると、チェリーが頭を抱えた。
「この袋の中にも色々入ってるが、いるか? チェリー」
「いるいるっ。人間君大好きー」
なんか視線を感じるけれど……なんだろう?
ひそひそ言われてるけれど、ふたりが目立ってるからかな?
まあ美少年だもんねえ、皆。それにしても人間君のその服、貴族みたい。
すごく似合ってるけれど、高そう……。
「あはは、チェリーは元気だな。……みんな元気そうでよかった」
「うんっ、元気だよっ。私達皆なにも悩みないし」
「おい、僕もお前と一緒にするなクリス」
「えー……悩んでるなら相談してよ―ブルーノ」
「お前にできるかっ!」
「え、そんなに頼りないー?」
がーん……。これでもしっかりしてるってよく言われたんだけれどなあ。
なんかドンドン中身が幼くなってる気がする。気のせいじゃないと思う。
それを見て、人間君は面白そうに笑っている。
ショートは袋から綿菓子を見つけて目をきらめかせている。
そしてほっぺにつけたままバクバク食べだした。
「こらショート、食べ物は逃げないよ?」
「……チェリーおにーちゃんに取られちゃうじゃん」
「それは否定しないけど」
「え、オレ子供からお菓子奪いそうに見える?」
「みえる」
私とショートが同時に言った。
ショックな顔をするチェリー。
だってねぇ……。
「オレお兄ちゃんだからね? ショート君がさきに好きなの選んでいいよー」
「わあい、ボクねっチェリーおにーちゃん大好きー!」
チェリーに抱き着くショートだけど、そのせいで綿菓子がめちゃくちゃになった。ベタベタした綿菓子に困惑するチェリー。それを気にせず取って食べだすショート。え、食べちゃうの?
「私は?」
「もちろん一番好きだよっ」
綿菓子を食べる手を止めて、さらに私にも抱き着いてくるショート。
ぎゃー! めっちゃベタベタするんですけど!
……だけど!
「あーもう、ショート可愛い」
そんなの気にしてられません! シッポをぶんぶん振るショートは天使以外の何者でもないですっ。すると、人間君が無言でショートを見る。
で、考え込むような顔をして言った。
「ショートって名前、そう言えばどこかで聞いたことがあったな……」
げ、もしかして人間君って、いいとこ育ちでロマンヌ国について知識あるんじゃ……。
「よくある名前だよー」
「まあ、クリスの言う通りなんだけど」
「そうそう」
実際どこにでもある名前だしね!
はっきり言っちゃえば、私達皆がそうだけれど……。
だからこそ、名前を隠さなかったんだけどね。
「こっちの王子様だってきっとよくある名前でしょう?」
「……そうかもね」
人間君はなぜか目をそらす。どうしてかな?
私は袋から餅を取り出し食べ始める。
うーん、おいしいなあ。餡子はこしあんだし、すごい私好み。
「ところで、王子様ってどんな名前なの?」
「それは……」
なぜだか口ごもる人間君。
そんな時、大きな叫び声が聞こえた。
「あー!」
「!?」
振り向く私達。誰かが私達を指さした結果、大注目を浴びているのが分かった。
「いたっ、王子! また迷子になって……」
なんだか偉そうな格好をした人が人間君を見て叫んだ。
私達、思わず固まる。
「王子!?」
嘘でしょ? 私は叫びながら人間君を見た。
そして、人間君は困ったように笑った。
「……改めまして、俺がシャロック国王子、ロイ・バローだ」
人間君はそう言って、すました顔で笑った。




