謎の青年
久しぶりに旅芸人のふりをする私達。
そんな時青白い顔をしたお兄さんが、薬屋から出てきて、私達に目を止めた。
青系の茶髪と、ピンクの鋭い目が特徴的の、細いお兄さん。
どこか簡素な服装なのに、気品を感じる。
「いらっしゃいませー」
「君たちは旅芸人?」
「そうです! 私は歌い手です」
「へぇ、暇だし見ていこうかな」
「どうぞどうぞ」
私達は彼を歓迎した。
順番に芸を見せていく私達。
「へぇ、すごいね。水芸とかできるんだ」
「どうも」
ブルーノの魔法を物珍しそうに見るお兄さん。
「そこの白い髪の君も、すごい力だね、騎士団入ったら」
「ありがとー、でも興味ないかな」
ロマンヌ国の騎士団見習いだしね。
「で、そこの小さい子は何ができるの?」
ワクワクした顔のお兄さんにショートは困り顔。
「犬となら会話できるけど……犬いないし」
「なるほど、犬だけなんだ」
「うん」
しょんぼり顔のショート、しっぽもしょんぼりして、すごく可愛いよおおおお!
あーお兄さんがいなかったらなでなでして、ぎゅーってして頬擦りしたいレベル。
これはもう犯罪だよ、可愛すぎるのは罪です!
「犬かあ、ぼく動物嫌いだからなあ」
「えっ、可愛いのに」
そう言ったのは私だった。
お兄さんはその言葉に苦い顔をする。
「何考えてるかわかんないし、臭いし、嫌い」
「えっ」
「人間と対等になれると思ってんのかな、あいつら」
「なれるよっ、分かり合おうという気持ちがあれば……」
「思い上がってんだよ、皆が甘やかすから」
「そんな事ないっ……」
「……ふぅん、生意気な事言う子供だねえ。結構可愛い顔してるのに、それじゃあモテないよ」
「モテなくていいもん!」
なんかムカついてきた。動物を悪く言うなんて許せない。
お兄さんは鼻で私を笑った。
「へー、男の子一杯従えてるもんねぇ」
「友達だもんっ」
「そうかな? 男の子はどう思ってるかな?」
「友達だよね!」
「…………」
あれ、皆無言!? どうして!?
それを見てお兄さんはくすくす笑う。何が面白いのだろう。
私は頬を膨らませて不満を訴える。するとますますお兄さんは笑う。
「あんな生き物をかばうなんて、滑稽だ」
「そんな事ないもんっ」
「まあ、口論になるのもあれだし、お金あげるしもう引っ込んでなよ。目障りだ」
「えっ」
「ほら、この中全部お金だから。返さなくていいよ、小銭だし」
「いりませんっ」
「……あげるって言ってんじゃん。貧相な体してるんだし、何かしっかり食べなよ。まあ、旅人だから貧乏なんだろうけど……」
「ひんそっ……」
もう怒った! 私はお兄さんをにらみつける。
でも、お兄さんは余裕で笑っている。
そんな時だった、ブルーノがキレた。
水の魔法で、お兄さんをびしょ濡れにしたのだ。
「なにすんの? くしゅ……ぼく体弱いんだけど」
「ならおとなしく家にこもって寝てろよ、最低男」
「最低男とはムカつくあだ名だね。僕には不釣り合いすぎる」
「ブルーノ、早くお兄さんを乾かしてあげて」
「嫌だよ」
「……おねがいっ」
「……仕方がないなあ」
ブルーノは風魔法を発動した。
お兄さんがどんどん元通りになっていく。
すごく不機嫌そうなブルーノは、お兄さんをまたにらんだ。
「もう二度と来るな」
「言われなくても来ないよ? ぼくは忙しいんだ」
きれいな顔がすごく怖くなっているお兄さんに私はひるむ。
「いつもは使用人に薬取りに行かせてるから、くる必要もないしね」
「金持ちか……」
「……ぼくをしらないみたいだけど、さすが旅人。教養がないね」
「僕に教養がないとは、言ってくれるな」
うわああ、このままだとケンカが始まるよ……と思っていた時。
「皆見てるんだけど―、とりあえずクールダウンね?」
「チェリー坊……」
「……本当だ、皆ぼくらをみてるね。で、ひそひそ言ってる。このままじゃぼくの家のイメージも下がるし……やめておこうかな」
よ、よかったあ……ありがとうチェリ―。
チェリーはにこにこしながらふたりを引きはがす。
「考え方が違う人がいるのは、普通の事だからねー。まあ、理解し合えるのが一番だけど、言葉だけで納得できるなら、戦争なんか起きないでしょー?」
『あいつ結構言うんだな……』
リルがじっとお兄さんとチェリーを見ている。
私も意外だと思った。
『のんびりしてると思ってたが、考えてるんだな……』
チェリーに引きはがされたふたりは、ため息をついている。
ショートはほっとした様子でみんなを眺めていた。
怖かったよね、ショート。もう大丈夫だよ。
私に撫でられたショートは私にべったり甘えてくる。
「……まあ、とりあえず少しはお金受け取ってよ。芸見せてもらったんだから」
「それに見合ったお金なら、私はいいですけど」
「じゃあ、これで飲み物でも買っての見なよ。ぼくも大人げなかったし」
にっこり微笑むお兄さんは、やっぱり美形だ。
なんか、懐かしい感じのする容姿だなあ。なんでかなあ……。
どこかの誰かに似てるんだよねー……。
「ありがとうございます。またいつか」
「いつかが来るかなあ……まあ、ぼくも来そうな気がするけれど」
「その時はもっと和やかに話せるといいけれど」
「……どうだろうね。この話題で意見を譲る気はないよ、ぼくは」
「そう……」
「じゃあ、そろそろ迎えもくるし。ぼくは帰るよ。じゃあね」
「ありがとうございました!」
私は営業スマイルで、お兄さんに手を振った。
するとお客さんがざわざわしだす。
「まさかあの方が来るなんてね……いつも引きこもってばかりなのに」
「ねぇ、元気そうでよかったけれど……」
「あの人って何者なんです?」
私はつい、お客さんの会話に乱入する。
動揺するお客さん。目を合わせてにっこり笑う。
「とても素敵な方よ」
「ねー」
「……はあ」
なんか、詳しくは教えてくれなさそうだなあ。ここらへんには犬も猫もいないし……まあいいかあ。そのうちわかるよね。まだここにはいるだろうし。
「相変わらず美しかったわあ……」
お客さんはそう言って去っていった。
「疲れたよ、僕は」
「……どんまい、ブルーノ」
「気持ちはわかるけど、クールダウンしなきゃダメだよ」
「チェリー坊……」
「ここで騒げばお客さんが来なくなるよー」
「確かにそうだな。チェリー坊の言う通りだ」
「気持ちはわかるけどねー」
チェリーって時々すごい大人だよね。
ブルーノのほうは、逆に時々妙にこど子供だ。
ショートははじめから子供全開だけど。
「みんな仲良く生きるためには、お互いの意見をよく聞くことも大事だって、父さんが言ってたよー」
「十歳のセリフじゃねーぞ……」
ごもっともである。まあ、いいけれどね。
私達は皆でタピオカ入りのジュースを買って、チューチュー飲んだ。
モチモチした触感が美味しくて、お兄さんの事なんかどうでもよくなってしまった。




