ボイスチェンジ!
あれからチェリーはすぐに元気になった。
ブルーノもそこまであと引かなかったらしく、いつも通り読書している。
ショートも相変わらずかわいいちびっこだ。身長が伸びる気配などない。
そんな時だった、朝起きてしばらくしてチェリーが変な声をあげたのは。
「なにこれぇ!?」
聞いたことのない声だった。皆が一斉にチェリーのほうを見た。
何があったのかと思えば、何も変わった様子はない。
でも、声が別人だった。
「え、今しゃべったのチェリー?」
そう……チェリーの声がめっちゃ低くなってたのだ。
表情もとろんとしてるせいか……なんか色気を感じる感じ。
十歳とは思えない、ハスキーボイスだ。少し息をするのがつらそうな気もするけれど。もしかして……だけど……。
「声変わりじゃないの?」
男の人ってはっきり声が変わるんだよね? 小中学生のころ、周りの男子がだいぶ変わっていったのを覚えてる。懐かしいなあ、もうチェリーはそんな時期になるのかあ……。
「声変わりって何? クリスちゃん」
純粋なチェリーは、声変わりについても知らないようだった。
当然知っているブルーノがため息をつく。
「お前、変声期も知らないのか」
「え、声が変わるの?」
「そうだ、一定の年頃に声が低くなって大人の声になるんだ」
「……オレまだ十歳なんだけど」
しょんぼりするチェリー。
でも、見た目も子供ってより、美少年なうえ,体ががっちりしてるから違和感ないんだよねえ。なんか、キュンキュン来る声。
私がうっとりしていると、ブルーノが小ばかにした顔で私を見た。
「何よブルーノ」
「たかが声で態度変えるなよ、クリス」
「か、かえないしっ」
「クリスちゃん、オレの事嫌いになるの?」
半泣きで私にしがみついてくるチェリー。
私はやっとこさの力で引きはがす。重いよ、チェリー!
腕力もあるし、あざになるところだった。
「いやっ、ちがう。むしろ逆!」
「……この声好きなの?」
「それはもうすごくいい声だと思うよ!」
「……じゃあ、声変わりしてよかったかな」
嬉しそうなチェリー。私も嬉しいです!
私、いい声に弱いんだよね。
しかし、ブルーノはなぜかご機嫌斜めだ。
「おっさん臭い声」
「えー」
ぶいーんぐするブルーノ以外。
「おっさん臭いかなあ……」
落ち込むチェリーに私は肩をつかむ。
「絶対そんな事ないっ」
「本当?」
「ふたりでずっと盛り上がってれば?」
白けた顔で去っていくブルーノは、どこか怒っている様子だった。
**********
次の日。朝起きてから、ずっとブルーノは声をあげない。
いったい何があったのだろう?
そう思いながらご飯を食べ終えて、いつも通り皆は自由に時間を過ごす。
最近は旅芸人のふりも、面倒になり始めて宿にこもる日も増えた。
もちろん動物や人間を使っての聞き込みは忘れないけれど……買い物ついででも結構いけることに気が付いたのだ。何より、目立ちすぎるのもよくないし。
「ブルーノ」
私は机に身を乗り出してブルーノに話しかけた。
「…………」
「ブルーノってば! 返事してよ」
うつむいたまま黙々と本を読むブルーノ。
さっきから、ずっとこんな感じ。
「無視するなら、本を燃やすよ?」
私は指に炎を宿し、脅した。
もう起きてから何時間もたってるんだから、さすがに不安にもなる。
なんか、顔色も優れない気がするし?
「……ああ?」
「! ブルーノ声変わりしてる? 低くなってる……あれ? チェリーよりも高くない?」
確かに前よりは低いけれど、チェリーと違って綺麗な感じの中性的な声だ。
アニメだったら、たまに女性が声を当ててるような、そんな感じ。
頭がよさそうな、そんな声質はブルーノにぴったりだ。
「……そう言うだろうから嫌だったんだ」
なるほど。比べられるのが嫌だったのか。
と、後ろからつんつんと誰かがつつく。
「ボクも声低くなったよ?」
「え?」
ニッコリ笑顔のショートがそこにいた。
確かに少しハスキーなような。
子供と少年の間の甘ったるい低めの声。
なんか、アイドル歌手のようだと私は感じた。
って……まだ七歳でしょ? 早すぎない?
「声変わりが流行ってるんだねー」
「のんびり言ってるけど、そんなわけないからね? チェリー」
「えー? うつったりはしないの?」
「しません」
「そうなの? クリスちゃん」
「うん、絶対ね」
「じゃあショートのはどういう事」
さすがに発育も遅いショートに声変わりは早すぎると思うんだけど!
「さあ……」
首をかしげる私達。
そこで、ショートがせき込んだ。
あ、なるほど、のどの風邪か!
「風邪じゃない?」
「……あー、オレものど熱いかも」
「チェリーも? ブルーノは?」
「僕は何ともない。普通だ」
「じゃあ、声変わりはブルーノだけね」
まあ、年齢的にそれが妥当かな?
「よかったね! ブルーノ!」
風邪じゃなくて、ラッキーだよ。
この状況だと、うつっても仕方がないのに。
まあ、私もぴんぴんしてるけれど……それはバカだからだろうし!
……威張ってて悲しくなってきた。
「何がだよっ、別に喜んでなんかないっ」
「え、私そう言う意味で言ったんじゃないけど、嬉しかったの?」
「!」
真っ赤な顔になるブルーノ。
もしかして、チェリーより先に声変わりしたのが嬉しかったのかな?
まあ、そう言うのってあるよね!
「いいなあ、声変わり……」
羨ましそうに言うチェリーは、次の日声変わりした。




