ブルーノ、好かれる
「街についたわね! うわー疲れたよお」
家がいっぱいあるなあ、と思いながらぐんと伸びをする私。
この町でも、平和でありますように。
「クリスちゃん、早く宿を取ろうね。荷物とか重いだろうし」
「チェリー……ごめんね毎回保護者約させて……」
「別にオレは気にならないよ。大人っぽく育ってよかったとさえ思うし」
『多分、その外見に結構コンプレックスもってそうだけどな……』
(わかる……)
リルの心の声に賛同する私。
そんな時、なんか視線を感じた。そこにはかわいい水色の髪の女の子がいた。
誰だろう? まあ、奇妙な格好をしてるしね。
とりあえず気にしないまま私達は宿をとった。
**********
あれから数日がたった。
シャロック国の情報は、少しずつ集まってきた。
なんだか王族が怖いという事、今物価が高くなっているという事。
旅する私達にとって、物価はだいぶ問題になる。
お金がないわけじゃないけれど……。
特に王子様が怖いって噂!
「なんだか最近視線をめちゃくちゃ感じて不愉快だ……」
買い物をしようと外に出たとき、ブルーノがぼそりと言った。
「ブルーノ大丈夫?」
「クリス、お前は大丈夫か?」
「うん、まあ」
「チェリーお前は何も感じないか?」
「オレは別に」
なんかブルーノが不安そうだ。
ブルーノがこんな風なのは珍しい。
ショートに至っては何が何だかわかってない様子だ。
そこで、後ろから声がかかった。
「すみません、あたいですっ」
「!」
振り返ると、この前見かけた水色の髪の少女がいた。
水色の髪をボブにして、赤いカチューシャをつけている。
服はいかにも村娘な感じの軽装だ。
「そこの、メガネの子に一目ぼれして、つい」
年のころは多分私とチェリーと同じぐらいか上か。
赤い目が釣り気味で、少し気が強そうに見えた。
細身の長身で、すごくモデル体型だ。
「僕……?」
「はいっ!」
「……あ、そう」
「お名前は」
「ブルーノだけど」
「ブルーノ君」
「君……」
むずかゆそうなブルーノ。
そこで、私に耳打ちした。
「この村娘を使って情報を集める。仲良くするように」
「はあ」
姑息だなあと思いつつ、まあ、仲良くするだけなら悪いことじゃないしと割り切る。
女の子は目をキラキラさせてブルーノを見ている。
いかにも恋する乙女と言う感じだ。
「あたい、ローラって言います。よろしくお願いします」
「どうも、しばらくこの町に滞在するから、その間なら仲良くできるよ」
「ほんとっすか」
「ああ」
「うわああー、あたい超嬉しいっす。感激……」
泣き出しそうなローラ。いいなあ、可愛いなあ。
「これからみんなで買い物をするんけど、ローラさんはどうだ?」
「ブルーノ君が行くなら……」
「この街について教えて欲しい」
「はいっ、もちろんっす」
ローラが嬉しそうに頷いた。
そして私達はローラの案内するお店を見て回った。
しかしだ、誰もローラに挨拶しない。
(この子嫌われてるのかな?)
『さあ、さすがにわたしにはわからないな』
(素直ないい子だと思うんだけど……)
まあ、この街で何かあった過去でもあるのかもしれないし、何とも言えないなあ……。ブルーノは人選を間違えたのかとかなんとかぼやいてたけれど……。
それでもローラは愛想を振りまきながら、色々な事を教えてくれる。
ここの郷土料理もふるまってくれた。ローラの家族は優しくて暖かった。
それでもやっぱり、周りはローラを空気のように扱った。
理由がわからないまま、私達はローラを宿に招いた。
一緒にキノコ料理を食べるのだ。
「うわー、感激っす。ブルーノ君とごはんとかっ」
「ごはんぐらいならいつでも」
「ごはんごはんっローラちゃんが作ってくれたゼリーもあるんだよねっ」
興奮気味のチェリーの耳が動いている。
「はい、お菓子作りは趣味で……食べてくれる人はいないけれど」
「……どうしてー? すごくおいしそうだけどー」
「ありがとう、チェリーさん。でもあたいは……」
「?」
「……気にしないでくださいっす。なんでもないんで」
ローラは悲しそうに微笑んだ。嘘だ、絶対何かある。
でも、無理やり聞き出すのは何だろう。
私はキノコ鍋の準備を始めた。まず水をたくさん用意して……そう思った時だった。
「きゃあああ」
私は思いっきり水をひっくり返し……ローラの上にぶちまけた。
慌てて私はローラを引っ張って隠す。
女の子を水浸しにしたらすけちゃうし、ダメだよね。
そう思ってローラを見た。胸は予想以上にぺったんこ、なんだけど……。
「あれ? 何で下着男物なの?」
ローラがはいているのはブリーフだった。
私が首をかしげる。ローラは固まっている。
「ローラちゃん?」
「……きゃあああああああああああああああ」
ローラの悲鳴が、宿中に響き渡った。
**********
あれから数分後、ローラは泣き出した。
「あたい、あたい……」
「落ち着いて、ローラちゃん。どういう事?」
「……あたい、本当は男だから」
「え?」
「男のくせに、こんな格好でこんなだから、街では気味悪がられてて……だからだれもあいさつしないっす」
え、何それひどい! ローラはこんなにも普通の女の子なのに。
私はローラに着替えを貸していた。ローラは長身なため、サイズはぎりぎりだったけれど、男の洋服を着せる気にはならなかった。
改めてみれば、どこか男の子特有の体つきの前兆は感じられるローラだけれど、やっぱり醸し出す雰囲気は女の子のそれだった。
「気持ち悪いっすか……? だましててごめんなさい……」
ひっくひっくとしゃくりあげるローラ。
上目遣いをされたブルーノはため息をついた。
「ああ」
「やっぱり……」
「たかがそんなことぐらいでのけ者にするこの街のやつらが気持ち悪いよ、僕は」
「!」
「誰に迷惑かけているわけでもない、自分の意思でそういう状況に生まれたわけでもない子供を、そんな理由で省く大人にはなりたくないね」
「ブルーノ君……」
「それに、仲良くなるのにも恋愛にも、種族も性別も立場も関係ないと思う。僕はね」
私もそれはすごく思う。多分他のふたりも同じ気持ちだろう。
ブルーノはそっとローラの頭を撫でた。
「今まで、ひとりでよく頑張ってきたな。えらいぞローラさん」
「……ブルーノ君」
「お前は、魅力的な女の子だ」
「……ひっく……でも、付き合ってはくれないんでしょう?」
「ああ」
「……好きな人がいるんでしょう」
「どうだかな」
「ううん、わかる。だってあたいと同じ目をしてるっす。恋する人の瞳―……」
「……それは多分気のせいだ」
「そういうことにしとくっす」
ローラは眉毛を下げながら笑った。
泣き出しそうなのをふるえているのか、どこか震えているような気がする。
うつむきがちだけれど、一生懸命前を向いていた。
「これからも、この街ではのけものかもしれないっす。でも、こうやって、受け入れてくれる仲間に出会えたから……あたいは、自信が付きました。これからもずっとこのまま生きていくっす。そして、いつか……」
顔を赤らめてブルーノを見るローラ。
「……次、ブルーノ君に会うときは、好きになってもらうっす」
「? え、ローラちゃんここにいるんじゃないの? まだ私達はこの街にいるよ?」
「あたい、この街を出るっす。ちょっと、祖父の体調が悪くて、東に街に……だから、きょうでさよならなんすよ……」
「そんな」
せっかく仲良くなれそうだと思ったのに!
ローラも悲しそうに笑う。ブルーノもミミとシッポが元気ない。
「お元気で、皆さん」
「ローラさん……」
「ブルーノ君、貴方の恋がかなうことを祈ってます」
「…………」
ブルーノは何も言わない。ただ手を振るローラから視線をそらさず、ずっと彼女を眺めていた。
そして、外が暗くなるまで、ずっと動かなかった。
服を貸したままなのを気が付きながら、改めてキノコ鍋を作り出す。
本当は、皆で食べたかったな……。
その日、私はローラの夢を見た。
ローラはキレイな女の子になっていて、幸せな恋愛をして、心から笑っていた。




