さよなら、さよなら。
「そろそろ出かけるかな」
私がガサゴソと荷物を整理しながら言った。
朝ごはんを食べてから少ししたころ。
「もっと人気のない時間がいい……」
「何言ってるの、人間君。そんなの危ないよ」
「目立ちたくない……」
「じゃあオレに張り付いてなよー、誰かわかんないし。一緒に窓から出ようー」
「助かる、チェリー」
「ん」
チェリーは親切だなあ。
そんな時だ、チェリーの魔法が溶けたらしい。
「!?」
ポン、って軽快な音がした。
「耳が見えてるんだが、チェリー」
「あっ、薬飲み忘れた……」
「何やってんだ」
ブルーノが慌てて薬を渡す、が。
人間君がキラキラした目でチェリーの耳としっぽを見ていた。
「やっぱりかわいいな、うさぎの耳……」
「え、好きなのー? オレの、触る?」
「おお!? いいのかっ……うわっもふもふだ……」
「へへへー」
「いいなぁ、人間君! 私も久しぶりにもふもふしたいっ」
「クリスちゃんも? いーよー」
わああい! もふもふぅー。
そうしているとなぜかリルも寄ってきた。もふもふしてほしいのかな?
なので、私はリルを撫でる、リルは気持ちよさそうな顔をした。
チェリーはしばらくして薬を飲んで……外へ出た。
「この子、リルに乗って移動するのよ」
「へぇ、フェンリル?」
「そう。人間君はよく知っているのね」
「でも、小さいな」
「大きくなれるのよ。ほら、リル。なって見せて」
『承知』
むくむくと大きくなるリルに声を失う人間君。
そして、固まった後、リルに突進する。
「もふもふ……」
「うふふ、いいでしょいいでしょ」
「最高……」
やっぱりもふもふって最高だよね! 人間君はそこのところよくわかってる。
「この上に乗って旅をするんだよ!」
「クリス、それ最高」
「そうでしょ、人間君」
「オレらにはよくわかんない感想だなあ……」
チェリーが不思議そうに言った。
だって君たちはもふもふだしっ。
こうして人間君が仲間になった。
**********
そして、川についた。疲れたので水浴びでもしようかと。
下着姿になったショートが川で遊んでる。ぐうかわ。
ショートは裸を見られるのは恥ずかしいけど、下着はまだ恥ずかしくないのかあ。
私達は足だけを浸して、のんびりお菓子を食べている。
紅茶味のクッキーは、とてもおいしい。
「クリスおねーちゃん、お魚さんいるよー」
「チェリー、取れる?」
「まあ、取れないことはないけど、食べるー?」
「串焼きにして食べよう!」
「わかったよー、じゃあ行ってきますー」
チェリーがズボンを上のほうにあげて、川に入っていく。
かごにバンバン魚を入れてるチェリーは、やっぱり騎士団見習いなんだなあ。
ブルーノはやっぱり本を読んでるし。
人間君はリルに夢中だ。
「リルがほしい……」
「それはダメかな」
「そうか、残念だ……」
もふもふ好きとして、気持ちはよくわかります。
「いつだって触ればいいよ」
「クリス……」
「はい、お魚取れたよ!」
チェリー……。
な、何も私と人間君の間に魚をおかなくても……。
魚はねてるし。
「早く焼いて食べようー」
「そうだね、私おなか減ったし。ショート、ご飯食べるよー」
「はあい、クリスおねーちゃん」
『人間君を警戒せよ』
(え?)
『……なんでもない』
そして、私達を無視して眠っていくリル。
で、焼かれる魚たち。かぶりつくチェリーに、おそるおそる食べ始める人間君。
「おいしい……」
人間君が笑った。か、可愛い。
「そーぉ? よかった。終わったらオレとかけっこしようー」
「わかった。チェリー」
「人間君って運動神経よさそうだしー?」
確かにどこか素早さそうな印象。
「頭は悪いが、まあ……俺は運動はまあまあ」
謙遜する人間君。
チェリーは遊び相手ができてすごく楽しそうだ。
まあ、ブルーノは活発じゃないし、ショートじゃ幼すぎるから、そりゃ嬉しいよね。
**********
ご飯が終わって、チェリーと人間君はわいわいやっている。
それを和やかに眺めながら、私はキノコを採っていた。
ショートはお昼寝をしている。暖かな日差しのせいで眠いのだろう。
「待ってー人間君」
「チェリー、足早すぎるよ」
「人間君も素早いよね」
バタバタ走る少年ふたり。
そして、人間君は突然転んだ。どうやら足をひねったのか足が腫れている。
「痛い……」
「大丈夫? 人間君!」
飛んでいく私に、騒ぎに目を覚ますショート。
「オレが移動中おんぶしてあげるー」
「や、さすがにそれは」
「何? 人間君ケガしたの? あ、これぐらいならボク治せるよ!」
ショートが得意げに言った。
自分の力が使えて嬉しいのだろう。
ショートは何かを唱えると、人間君の足を光らせた。
「……俺、人間だけど、こんなふうにしてもらっていいのかな?」
「そんなの関係ないよ。人間君は人間君。私達の友達だもんっ」
友達が痛がってるのは、見てられないよね?
だから、助けて当然!
と、思うんだけど人間君の表情は浮かない。
「……ありがとう」
「いいよー、ボクも力を試したかったし」
ショートはガッツポーズをした。
そういえば、ショートの力を目の前にするのは初めてだ。
「本当に、申し訳ないけど」
「気にしなくていいよー? オレら友達と仲良くしてるだけだから」
「…………」
なぜかせつなげな表情をする人間君。
苦笑いを浮かべて、私のそばに座る。
「クリスはさすがだね……」
「え?」
「何でもない」
「どうしたの? 人間君」
「そろそろお腹が減ったから、お菓子でも食べようか」
「そうだね、人間君。特にチェリーがお腹すかせてるだろうし」
「オレを名指しにする必要性ないよね!? クリスちゃん」
「でも図星でしょ?」
「うー……」
唸るチェリー。そしてなるチェリーのお腹。
だから、皆で木の実を食べることにした。
甘酸っぱくておいしいそれは、青春の味がした。
**********
「外で寝るのはじめてだ」
そう言いだした人間君は、リルの上で横になる私達を不思議そうな目で見た。
「寒くないのか?」
「寒くはないけど……」
「冬はつらいだろう」
「それはその時、対策を練るよ」
「クリスは楽観的だな」
「悲観的じゃつまんないじゃない」
何事も前向き前向き! 明るく考えてればなんでも楽しく感じるでしょう?
私はえへへと笑う。人間君は苦笑い。
「人間君もくっついて! 寝よう! 皆でくっつけば寒くもないよ」
「え……」
動揺した様子の人間君に、どこか怖いオーラを放つチェリー。
「人間君はオレとくっつきたいよね? よね?」
「……ああ、まあ、そうだな」
冷静にそういう人間君。
えー、なんで? まあ、もふもふの獣人の隣のほうがいいよね。実際。
ブルーノは面倒くさそうに本を読みながら横になっている。
最近ますます勉強熱心で、まじめに拍車がかかっている。
外は暗いのに、魔法で光をつけてまで、頑張っているのだ。
「明日になったらまたかけっこしようね、人間君」
「……明日がくればな、チェリー」
「えー?」
どういう意味だろう? 私も首をかしげる。
チェリーは眠りにつくまでずっと人間君を構っていた。
私はただ仲間がひとり増えたのがうれしくて、ずっとにこにこしながら眠りについた。
**********
そして朝が来た。
何やら騒がしいけど……何事?
「どうしたのー?」
「あ、クリスちゃん……」
目の前には半泣きのチェリー。泣いているショートもいる。
え、本当にどうしちゃったの?
ブルーノだけが冷静に、何か紙を見ている。
「人間君が……去ったようだな」
「え? どうして」
「理由は書いてないが、このメモには『短い間だったけどありがとう、楽しかったよ。また会えたらいいね』と書いてある」
「……人間君、どこかへ行っちゃったの? ブルーノ」
「そういう事だ」
「え……そんなあ……」
私だって泣きたいよ、そりゃ。
まだであって浅いけど、絶対仲良くなれるって思ったのに。
旅していけば、親友にだってなれると思ったよ?
それなのに、こんなのあんまりだよ!
曇り空が、泣き出しそうに見えるぐらい、私は沈んでいた。
「まあ、理由は人それぞれだから、追いかけるのはどうかと思うぞ」
「……そうだよね、ブルーノ」
「そもそもが、あいつは人間だ。オレ達と仲良くすることが苦痛だったのかもしれない」
「そんな事ないよ! ……きっと」
だって、人間君は幸せそうに笑っていたから。
きっと、本気で私達と居て楽しいと思ってくれていたはずだから。
そんなふうには、思いたくないな……。
「元気出して、クリスちゃん」
「それはチェリーにも言いたいよ……ショート、泣き止んで?」
「うわあああん」
「いい子だから」
「だって、お友達だったのに……」
「よしよし、寂しいよね。ショート……」
「いつか会えるだろ、どうせ」
「ブルーノは冷めてるね……」
「別に、死んだわけでもないし」
ブルーノはもうすでに新しい本に手を付けている。
けれど、目のはじが少し赤い気がする。
「それよりも、早く次の街を目指すぞ。森の中に長くいるのはよくない」
「……ブルーノの言う通りだね、さあ、行くよリル」
『ああ』
(これでいいんだよね?)
『ブルーノの言う通り、そのうち会えるだろうからな』
そうだといいけれど……私は濡れたまつげを伏せて、頷いた。
森のざわめきと、明るい太陽。自然一杯の人間の国。この国に、私達は当たり前に出入りできる日がくるのだろうか。
皆で手をつないで、話になって笑い合う、そんな未来が来るといいな……。
でもその頃はまだ、そんな妄想に浸るばかりで私達の関係に大きな問題があることなんて、気が付きもしなかったんだ――。
しばらく(の予定)連載を一日おきにします。
楽しみにしてくださった方申し訳ありません。




