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クリス、パンツを盗まれる

 最近部屋から物がなくなる。

 泥棒に目をつけられたのかなあ、と思うと不安になる。

 この前は下着を盗まれたし……怖いよー。

 苺ガラのピンクのパンツは、結構お気に入りだったんだけれどなあ……はあー。

 あまりにも泥棒が怖いので、犬の獣人であるショートに匂いを嗅いでもらった。

 結果、鼻血。


「……ショート、人のパンツのにおいまでかがなくていいから」

「違うっぶつけただけだよ、鼻を!」


 どうだか。


「なんかね、ボク達のもの以外は何の匂いもしないよ」

「え、じゃあ犯人はこの中? この中に下着泥棒がいるの?」

「ボクじゃないよっ」

「オレでもないし!」

「僕がそんな馬鹿なことすると思う?」


 だよねえ……基本真面目な子の三人がそんな事するわけないよね。

 振出しに戻るか……一体犯人は誰が?

 なんか怖いんだけれど、お化けじゃないよね?


「クリスちゃん顔が青いけれど、オレがついてるからね?」

「ボクもいるよー!」

「……ふんっ」

「ありがとう、三人ともっ」

「僕は何も言ってない」


 またまたあ、照れてるだけなんでしょ?

 わかってるんだからね、ブルーノが優しいって事。

 にこにこしながら私はテーブルに並んだパンをかじった。

 なんか足元がむずむずするけれど、なんでだろうね?


「あー、ここの宿のご飯はあたりだ―、おいしいー」

「そうだね、クリスちゃん。昨日のクリームシチューもおいしかったしねー。オレ、おかわりしちゃったもん」

「それはいつもだろ、チェリー坊」

「二杯だよ」

「食べすぎだ。どれだけでかくなるつもりだよ……」

「クリスちゃんを守れるほどの肉体が欲しいね」


 なんか、せつなげにチェリー。


「どうせまだ子供だから、大人みたいには守れないし」

「そばにいてくれるだけでうれしいよ、私」

「クリスちゃんは本当かわいいっ」

「? 何が?」

「……そしてすごく鈍いっ」


 え、鈍くないよ? 私。むしろ聡いほうじゃない?

 ブルーノは面倒くさそうに視線をそらした。

 ショートはもぐもぐしている。

 そんな時、何かが胸元に入ってきた。

 もぞもぞ、と動くなにか。虫か何か?


「なにこれぇ、気持ち悪いー」

「クリスちゃん!?」


 慌てて私は服を持ち上げる。チェリーが鼻血出した。

 ブルーノは固まっている。

 そして私の中から出てきたのは、スライムだった。

 真ん丸な目に、可愛い小さな口のついた、おもちゃのようなスライム。

 透明で、これじゃ気づかないわけだと思った。


「ぴきー」


 なんか鳴いてるし。そして口元には……。


「私のパンツ!」


 思わず奪い取る私。

 なるほど、スライムなら匂いもしないわけだね……。

 納得しつつ、私はスライムをつかむ。


「ちょっと、人の家から物を盗むのはやめてよ」

「ぴきー」

『暇だったからって言ってるぞ』


 その理由は最悪だ。

 私はスライムを横に伸ばした。


「ぴきー!」


 一応は痛いらしくスライムは鳴いた。


「盗んだものはどこにあるの?」

「ぴきー……」


 スライムはぴょんぴょんと森のほうへ飛んでいく。

 慌てて追っかける私たち。

 森の小さな洞穴の中には、沢山のものが置いてあった。

 これ、全部盗んできたんじゃ……。


「スライム君、これ全部返しなさいっ」

「ぴきー……」


 なんだか声に元気ないけれど、しょげているのかな?

 でも、やっちゃいけないことはダメなんだぞっ。


「ぴきー……ぴきー……」


『謝ってるぞ』


 リルが翻訳担当みたいになってきた。

 さすが何でもわかるのは、聖獣だからだろうなあ。


「反省してるならいいのよ……あれ? このチョコレートは……」


 私は懐かしいものを拾い上げる。

 これって、人間君にもらったチョコレート?

 青い鳥の仕業かな……。


「ぴきー」


『あげる、だそうだ』


「うーん、落ちてたものは食べたくないしなあ。遠慮しとくよ。ありがとうスライム君」

「ぴきー」


 なんか、チェリーがじっと見てるけど、本当は食べたいんだろうなあ。

 さすがにあの事件があった以上、我慢する気なんだろうけれど。

 スライムの泥棒したものの中から、自分たちのものをかき集める。

 意外と大量に盗まれていたらしく、ごっそり持ち帰ることになった。

 私の頭は、チョコレートの事でいっぱいだったけれど……。

 人間君の事を、やっぱり思い出してしまう。

 どうして彼は、いなくなってしまったのだろう。

 荷物をどさりとおいて、私はため息をつく。


「クリスちゃん……? 大丈夫?」

「大丈夫よ、チェリー。ちょっと人間君の事を思い出しちゃって」

「ああ、なるほど。オレもだよ」

「チェリーおにーちゃんはチョコレートの味を思い出してると思ってた」

「失礼な」


 ごめん、私もそう思ってたよ……だってチェリーだもん。

 食べるの大好きなイメージのほうが勝ってたけどよく考えれば同じ年の男の子だもんね、一番思い入れがあってもおかしくないよね。


『…………』


 リルが眠たげな眼で私達を見ている。

 何か言いたそうだ。


(リル?)


『……あいつとは、絶対似合わなきゃいけない運命だから大丈夫だ』


(やっぱり友情って事? 運命の親友って事?)


『……まあ、そういう事だ』


 リルは歯切れ悪そうに言った。なんでだろう、声に元気がない。


「リルがまた会えるって! 人間君と私達は運命の関係なんだって!」


『…………』


「本当に!? やったあ、オレ早く人間君に会いたいよー」

「ボクもボクも! 今度はね、一緒にタケノコ探したりもしたいなあ……」

「それいいね! ショート君」

「……そうか?」

「そうだよ、ブルーノお兄ちゃん! みんなでわいわいやろう?」

「……必ずしも、そういう事ができる関係に戻れるとは限らないんだぞ。能天気すぎるだろお前たちは」

「だって、ボク達友だちでしょ?」

「友達でいたくても入れない環境だって存在するって、わかってんのか?」


 何言ってんの? ブルーノ。なんか変だよ。

 どこか悟った眼で遠くを見ているし。


「……会わないほうがいいってこともあるんだよ」


 淡々というブルーノ。それはまるで、私達をなだめるような声だった。


「そんな事は絶対ないって!」

「言い切れるのか?」

「ブルーノこそ、なんで言い切れるのよ」


 占い師か何かあるまいし。真実が見えるわけでもないんだから、決めつけないで欲しい。


「それは」

「言い返せないんじゃん。ほら、大丈夫だって」

「……傷つくのはお前たちだぞ」


 ブルーノが悲しげに言った。そんなわけないじゃんね。

 私達は笑い合って、ブルーノの言葉をなかったものにした。


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