旅芸人はじめました
現在、旅芸人として街を歩いている。
うーん、主にチェリーのピエロがすごい勢いで目立ってる。
ひそひそ言われてるけれど、こりゃ、普通の旅人では通じないなあ。
適当な場所に集まってとりあえずお金を入れる箱を置いて私達は動き始める。
「さあさあ、見てらっしゃい! 旅芸人のボク達を!」
声をかけるのはショートの役目。
「そこのきれいなおねーさん、かっこいいおにーさん、見るのはタダだよ。でも気が向いたらおひねりちょうだいっ」
愛想のいい彼にはうってつけの担当だ。
「剣舞の使い手と、炎や水を操るめがねと犬と話せるボク、それに見習い歌い手だよー」
「おい、めがねってなんだよ」
「いいじゃん、いつもボクをわんこって言うんだから我慢してよブルーノおにーちゃん」
「だってお前の性格はわんこだろ」
「むー」
まあ、かわいいわんこ属性だよねぇ。
今はなき尻尾もすぐ動くし、見ているだけで癒される。
そして、私は歌いだす。まあ、歌に関しては下手なつもりはないんだけど。
『聖なる少女の歌なんて、ご利益ありまくりだと思うのだが』
リルはそういうけれど、人間には関係ないしなあ。
私は心を込めて歌う。
チェリーは剣舞を舞いながら、たまに岩を割ったりする。
ブルーノは水でハートを作って見せたり……それが結構好評なのだ。
そこに、犬を持った婦人がやってきた。
「坊や、犬と会話ができるんだって?」
「はいっ、ボクできますっ」
そうショートが言うと、婦人は嬉しそうに笑った。
「うちのミシェルとお話してくれないかしら」
「お安い御用です!」
茶色のもこもこのわんこが嬉しそうにショートによって来る。
やっぱり仲間意識もつのかなあ?
そして、ショートは真剣な顔をして何やら尋ね始めた。
「うん、そっか。なるほどね。……へぇ」
「ミシェルは何て?」
「貴女の事が大好きで、感謝してるって言ってます。でも、今肝臓が弱ってるかもしれないです。なんだか、苦しいって」
「まあ! 貴方はそんな事もわかるのね!」
「わんちゃんとしか、会話できないですけどねー」
「犬が大好きなの?」
「まあ……」
そりゃあ、犬の獣人ですから……。
でも、一瞬ショートの表情がゆがんだ気がするけれど、気のせいかな?
「ミシェルを病院に連れてかなきゃね。ありがとう、お礼を払うわ」
「ありがとうございますー」
にこにこ愛想を振りまくショート。すると、気が付けば愛犬家の人だかりが。
「あの、こっちも見てもらっていいですか」
「わたしのところも!」
「はいはい、いいですよー」
ショートはちょっと動揺中。
あとのふたりも人気だし、いい感じだな。私は完全にお飾りだけれど。
途中休憩しながら、私達は色々頑張った。
**********
「つーかーれーた」
「おつかれショート君」
「チェリーおにーちゃんは涼しい顔してるね」
「まあ、これでも鍛えてるからね」
「すごいー、ブルーノおにーちゃんはぐったりしてるけど」
「魔力使うのしんどいんだよ……」
まあ、それは私もわかる。ろくに魔法使わないけれど。
リルは気疲れしたのかぐったりしてる。
「とにかく、早く帰ろうー」
「そうだねチェリー、疲れたし」
「クリスちゃん、荷物はオレが全部持つしー」
「ありがとう、悪いなあ」
「大丈夫だよー、オレは力持ちだからー」
「チェリー坊、僕ももて」
「男は自分で持ってね?」
「…………」
舌打ちするブルーノ、怖いです。
ところで、何でショートはなんかそわそわしてるの?
「ショート、どうしたの?」
「早く帰りたい」
「実家に?」
「ちがうよぉ……宿に」
疲れてるのかな? とりあえず前に進む私達。
宿につくと、ショートがため息をついてこちらを見た。
「ショート?」
「あのね、皆よく聞いて」
「うん?」
私は首をかしげる。
「犬たちが、この国についていろいろ教えてくれたよ……って言っても今の話じゃない、過去の話だよ。今の状況は人間同士しかわかんないみたいだ」
「どんな話?」
「それが……とても悲しいお話だよ……」
そう言って、ショートは語りだした。
**********
昔昔、あるところに獣人の国ロマンヌと人間の国シャロックがありました。
ふたつの国は、見えない距離がありましたが、それなりに交流をしながらのんびり存在していました。獣人は獣人、人間は人間。彼らはそう、割り切っていました。
しかし、とある日ふたりは出会ってしまったのです。
それは、運命の出会いでした。狼の獣人と、人間の女は、どんどん惹かれ合っていきました。そして、結ばれたのです。女は獣人の子を宿しました。
しかし、それを知った女の両親は激怒し獣人を女の目の前で殺してしまったのです。
女は嘆きました。ですが、子供を想うと死ぬこともできません。
そして、子供が生まれました。獣人そっくりの、立派なミミとしっぽが生えた子供です。女は子供を愛しました。しかし、女の両親は子供を生き恥だと、殺してしまったのです。女は悲しみました。そして、自らの命を絶ってしまったのです。
……その女は、実はシャロック国の姫でした。
その事件をきっかけに、ふたつの種族の仲は悪くなってしまったのでした。
**********
気が付けば私は泣いていた。
チェリーもボロボロに泣いている。ショートはズーンと落ち込んでおり、ブルーノだけが冷静だ。ふたつの国が仲が悪いのは、こんな悲しい理由があったなんて……。
「人間と獣人は結ばれない運命なのかな……」
ぼそりとチェリーがつぶやいた。
「大丈夫、ボクはクリスおねーちゃんと結ばれるから!」
「まあ、僕達の国はクリスだけなら歓迎するだろうけど、ほかの人間だったら似たようなことになるんじゃないのか」
「なんで!? ブルーノおにーちゃん」
「一度こんなことをされれば、受け入れれなくなる。いたちごっこだな」
なるほど。複雑な関係だなあ。
それにしても、ショックだなあ。私は気分がかなり落ち込んで元気が出ない。
チェリーが気を使って紅茶を入れてくれたけれど、味がしないよ……。
「どうやったら和解できるだろうな」
「歩み寄りあうしかないんじゃないかなー」
「だが、チェリー坊。この状態でどう歩み寄るんだ。近づけば殺されるだろう」
「それは……ブルーノお兄ちゃんにはなんか案ないわけー?」
「あれば苦労していない」
『……王族の前まで行けば、わたしがどうにかできるかもしれない』
「リルが、王族の前まで行けって」
なんか、刺されそうで怖いんだけど。
「そんな危険な目に僕らが会えと?」
だよねえ、そう思うよねえ……でも、リルの事だから、なんか考えがあるんだろうなあ。
「大丈夫だよ、私とリルを信じて」
「オレは、クリスちゃんを信じるよ」
「ボクも」
「……わかったよ。僕も信用すればいいだろう?」
「ありがとう、皆。まあ、まだお城は遠いけれど……」
あとどれぐらいかかるんだろうなあ……うまく行くかなあ。
早めにつかないと、薬が尽きてしまう……。
「私達は、使命を果たす。それは絶対だよ」
「うんー、オレ全力で頑張るー」
「ボク早くおっきくなる」
「それは無理だろ」
「なっ、ブルーノおにーちゃんひどいっ」
ショートが膨れる。
そんな時、宿にお客がやってきた。
さっきのミシェルの飼い主だ。
「あの、さっきの子いる?」
「あ、ボクかな」
「おかげでミシェルの病気が早期発見で助かったの。お礼に金貨をたくさんあげる」
「いいですよっ」
「旅人さんはお金が必要でしょう?」
「……ありがとうございます」
ショートは押されてそのまま金貨を受け取った。
大きな皮の袋にたっぷりの金貨。今日はごちそう食べに行こう。
これで、旅に余裕ができた。
「あとこれ、何かの時に役が立つかも」
そう言って、ミシェルの飼い主は箱に入った何かを渡してくれた。
「今は開かないで頂戴」
「はあ……?」
なんでだろう? よくわかんないけれど、従おうかな。
「ありがとうございます」
「時が来れば、必ず役に立つはず。そう、神様が告げたから」
「神様?」
「そう、神様が」
それなら、本当なんだろうなあ。神様、私、今元気だよー。
「そう言えば、もうすぐ王族の方々が街にくるそうで」
「えっ嘘」
ミシェルの飼い主はにっこり微笑んだ。
「王子様たちがおいでになさるようで」
「……そうですか」
「では、失礼」
「ありがとうございました!」
私は深々と頭を下げたけれど、正直ドキドキしていた。
もうすぐ……人間の王族とご対面?




