ショートの成長
「さて、どうやって聞き込みをしようか」
私はおにぎりを食べるショートとブルーノを前にして言った。
チェリーはおなか一杯なのかすでに眠そう。
「やっぱり猫に頼るとか―」
「チェリー、それもありだけど、動物視点ばかりじゃあてにならないと私は思う」
やっぱり人間の口から直接聞くべきだと思うんだよね。
動物はある意味中立だから。あまり信用してもいけないと思う。
「旅芸人のふりをするのはどうだ」
「ブルーノ」
「僕達は変な格好をしているわけだし。僕が魔法を使い、チェリー坊が剣舞を踊る。……わんこは、飼い犬と話してろ」
「ボクの扱いひどいね!」
ショートが叫ぶ。思わず私が撫でると、くぅんと鳴いた。
「私は?」
「お前は……歌でも歌え。そんなうまくなくても、周りがこんな感じなら、見習いだとでも思ってもらえるだろう」
なるほどぉ。さすがブルーノ。賢いなあ。
「それに、お前にはリルがいるだろう、クリス。まあ、大きくなれはできない状況だけれど、歌とともにリルに踊らせでもすれば、らしくはなる」
『わたしはそれぐらいなら構わない』
「リルはいいって、ブルーノ」
「わかった。助かる、リル」
「そうだ、旅芸人ならミミついてるほうがそれっぽいし、薬飲まなくていいしいいんじゃないかな」
「……石を投げられるからやめとけ」
「えー……」
ブルーノは冷静に言った。そんなに獣人は嫌われてるのかなあ。
「人間、怖いよぉ」
「ショート……」
ぐずりだすショートを私は撫でる。七歳になっても中身はやっぱり末っ子属性のお子様だった。
「ボク、クリスおねーちゃんと一緒じゃなきゃやだ」
「大丈夫だ、四人で動くから」
「ん……」
もふもふのショートの耳を撫でていると、心が癒される。
ショートは甘えん坊全開で私に抱き着いている。
あ、なんかチェリーが嫉妬心メラメラな目で見てる。
「チェリーも抱っこしようか?」
「えっ、いいってー」
「よし、皆で抱き合おう!」
「はあ!? 僕も巻き込むのはやめてくれない? 子供同士でやってよ!」
「ぬくもりは、緊張をほぐすんだよ?」
私はそう言って強引に皆を集めた。そして、ぎゅっと四人でくっついて惜しくらまんじゅうのようにした後、それぞれを抱き寄せる。
ブルーノとチェリーは顔が真っ赤だった。
「クリスちゃんってば、もうっー」
「えへへ、元気注入っ」
「バカじゃないのかお前は」
「バカでもいいもん、私、皆と一緒にいるだけで幸せだし」
「!」
ブルーノがさらに顔を赤くさせる。
ショートはいまだに私べったりだ。
「とりあえず、旅芸人を演じていれば、お金も手に入るから少しでもお金を貯めましょう」
「そうだね、クリスちゃん。まだまだ人間の王家は遠いから……」
「どうにかして父さんやビット騎士団長に連絡を入れたいが……逃げた運転手はどうなったんだか」
「さあ? 襲われちゃったんじゃないかなー」
「チェリー、縁起でもない事言わないっ」
「だって、あの場所山賊だらけだし、彼は何の能力もないはずだよ」
うわああ、考えたくない考えたくない。
「……帰りたいよぉ」
「わんこ、お前もうホームシックか」
「だって、こんなに長くお父様お母様と離れたのはじめてだもん……帰りたいよぉ」
「まあまあ、ショート。私がそばにいるから」
「本当?」
ばあ、と目を輝かせるショートを抱っこする。
うーん、さすがに七歳は重い。でもショートはやっぱりまだまだ甘えん坊で、私にスリスリしてくる。超かわいいです!
「旅芸人の前に、買い出しに行きたい」
「何買うの? クリスおねーちゃん」
「ここ、シャンプーちょっと古いのか変な匂いしたし、それを」
「たしかにしたね、ボクもついてくー」
「それぐらいなら、ふたりでいいだろう。僕とチェリーは残る。お菓子をねだるなよ、わんこ」
「ねだらないもんっ」
そう言いつつ、私をぎゅっとするショート。
ショートには、まだたびが早かったんじゃないかなあ。
でも、私達がこの年齢の頃って正直もっとしっかりしてたような……?
ショートは可愛いし、仲間の中で末っ子だから、甘やかして育てたもんなあ。それに、そのままのほうがかわいいんだもん、きつくできないよ……。
ショートは私から降りると、私の手を握った。
「クリスおねーちゃんとお出かけ、わあい」
「迷子になっちゃダメだよー?」
「チェリーおにーちゃん、わかったよっ」
ふわふわとした会話をするふたり。このふたりって結構相性いいよね。
小さなかばんにチェリーは必要なものを詰めて、私にべったりくっついて出かけた。
**********
「うん、シャンプーは買えた」
「結構安く済んだね、クリスおねーちゃん」
「そうだね。変な香りもついてないし、皆で使えるよ」
甘い香りだと、ブルーノあたりが嫌な顔するだろうしね。
個人的には甘い香り、全然大歓迎なんだけれど、この状況でそんなわがままは言ってられない。
「可愛いからって飴玉貰っちゃったー」
「よかったね、ショート」
「うんっ、甘くておいしいー」
のんびり私達はで店を回ってみる。何かお土産を買えば、チェリーあたりが大喜びするだろう。持ち帰りやすいお団子あたりでいいかなあ。
そんな感じで私達は屋台を物色していた。その時だった。
「お嬢ちゃん、弟君のお世話して偉いね」
なんだか軽そうな男たちが、私に話しかけてきた。
警戒してうなるショート。私は思わず後ずさる。
男達は髪をかき上げたり笑いながら私に歩み寄る。
もしかして、これ、ナンパ?
「俺達と遊ばない?」
「いやですっ」
あ、やっぱナンパなんだ。
私なんかをナンパしてどうするんだか……。
「黒い髪がきれいだねぇ」
「用事あるんで」
「おいしいご飯をごちそうするよ。お嬢ちゃん見ない顔だから、ここら辺に住んでないでしょ」
「そうですけど、結構です」
「奢るから」
「いいですっ」
私はガンガン拒絶していく。
しかし、男達も引かない。
「まったく、聞き分けの悪いお嬢ちゃんだなあ。ここら辺は俺らの縄張りなんだけど」
「初耳です」
「だーかーら、俺らと仲良くしておいて損はないよ」
「しりませんっ」
私は伸ばされた手を強引に振りほどく。
しかし、男達はじりじりにじり寄ってくる。
そんな時だった。
「いてぇ」
「!?」
声にびっくりしてみてみると、ショートが男のひとりに噛みついていた。
ガルルルルとうなっている。
「いたい、いたいちぎれる」
「クリスおねーちゃんはボクの婚約者だっ、手を出すなっ」
「はあ!? こんなチビが!? 嘘だろ!?」
「首を見て見ろっ、同じ指輪がかかっているよね!? それ婚約指輪だからっ。分け合って指につけてないけどっ」
「……マジだ。なんかどっかで見たことある紋章が……」
「と、とにかく! 僕の恋人に手を出すならまた噛みつくからっ」
ショートは男達をにらむ。相当噛まれて痛かったらしく、男のひとりは半泣きになっている。
「わかったよ!」
そして逃げるように去っていった。
遠のく男たちにほっとする私。
するとショートがぽろぽろ泣き出した。
「うわあああん、怖かったあああ」
「よしよし、頑張ったね」
「だって、ボク、婚約者だもんっ。クリスおねーちゃんの婚約者だもん。僕が守るんだもんっ……」
そう言って震えているショートを抱きしめる。あーん、やっぱりかわいいよおお。
無理に虚勢を張っている子犬男子を甘やかしていると、お団子やさんが目に入った。
「よし、ショート。お団子をたくさん買って帰ろう」
「うん」
「ショートは頑張ったから沢山買ってあげる」
「本当!?」
「チェリーが文句言いそうだけど」
なんだかんだで、ショートだって男の子なんだなあ。
まだまだ小さいけれど、将来は有望かも?
そう思いながら、私はお団子を大量に買い込んだ。
案の定、チェリーにはショートだけひいきだと、文句を言われたけれど……。




