人間君とチョコレート
私達は森の中でみんなで遊んでいた。
今日はエイベルも一緒なので、自由に動き回れる。
ショート王子はチェリーに筋トレを教わっている。
ブルーノは日陰で小説を読んでいる。
私は川に足を突っ込んで、のんびり。
小さな魚が足に吸い付いてきて気持ちいんだよねえー。
「いい天気!」
私はそう言いながらリルを見た。リルもすやすや眠っている。その隣でエイベルもウトウト。このまま
だとお昼寝をはじめちゃうだろうなあ。
「腹筋つらい」
「頑張って王子様。鍛えることが強さの第一歩だよ」
「チェリーおにーちゃんの腹筋すごいもんね」
「まあ、毎日筋トレしてるし」
「ブルーノおにーちゃんはもやしって感じ」
「うるさい黙れ」
「あれ? 聞こえてた? 地獄耳だね」
「わんこ王子、おすわり」
「えー」
じゃれ合う三人を見ていると、頬が緩むなあ。
獣の姿に戻ることもあるって言うけれど、彼らはなかなか見せてくれないんだよね。恥ずかしいんだってさ。
私は川から上がり、ちょうちょを追う。
可愛いピンク色のちょうちょ。
「ちょっとどこ行くのクリスちゃん」
「クリスおねーちゃんまってー」
「おい、お前ら父さんとリルから離れるなっ」
走り出す私達。森の中をどんどん進んでいく。
まあ、そんな遠くにはいってないだろう。川は見えているし。
しかめっ面のブルーノ以外は、色々な森のものたちに大はしゃぎだ。
「みてーカタツムリだー」
「わんこ王子うるさい」
「ブルーノおにーちゃんの肩にものせてあげる」
「のせるな!」
「むー」
そんな時、雨が降ってきた。慌てて、視界に入った洞窟の中に避難する。
あーあ、エイベル起きただろうなあ。心配するんだろうなあ。
ごめんなさい、本当に。
暗くて湿った洞窟の中にどんどん入っていく私達。
しかし、そこには先客がいた。
「え……」
固まる三人。無理もない。だって、そこにいたのは……。
「人間……?」
チェリーがつぶやいた。
そう、そこには人間の男の子がいたのだ。
「獣人……?」
ピンク系の茶髪に、鋭い青い目を持った細身の美少年だ。
身長から見て、多分私と同世代ぐらい。なんだか村人のような服装をしている。
「……と、人間? 黒髪黒目の……」
「は、はーい。私は人間です」
「こっちの国では、災いを呼ぶと言われている黒髪黒目……」
「ぐ、ぐうぜんじゃないかしら」
「何者だ」
「迷子です」
ほかの三人は完全に警戒している。
私と男の子だけが、互いを見つめ合っていた。
「まあ、俺も迷子なんだけどね」
「あ、仲間?」
「そうそう、で、何で人間が獣人といるわけ?」
「友達だから……」
「獣人は意地悪だって聞いた」
「人間は意地悪だってこっちも聞いたわ」
「あんた人間だろ」
「獣人に育てられたの」
「なるほど……」
男の子は困ったように頭をかいた。
そしてポケットからチョコレートのかけらを取り出した。
ハートの形の、おいしそうなチョコレート。
案の定、反応したのはチェリーだった。
「チョコレート!」
「やる。沢山持ってるし、雨やむまで何も食べれないだろ」
「ありがとう、人間」
「おい、毒が入ってるかもだぞ、チェリー坊」
「そんなものは入れてない」
「どうだか、人間だろ、お前」
「お前の友達も人間だろ」
あわわ、このままじゃケンカが始まっちゃうんだけど!
そんな時、チェリーのお腹が鳴った。
当然、ケンカをする気力はそれに吸い取られるわけで……。
「空気を読め、チェリー坊」
「ごめーん、お腹すいたんだもん……」
「チェリーというのか」
「うん、オレはチェリーっていうよ、犬の子がショートで、猫の子がブルーノ」
「おい! チェリー坊! 勝手に名前を教えるな!」
「いいじゃん、別に。で、人間の子がクリスちゃん、君は?」
「人間、でいい」
「えー、不公平」
「チョコをもっとやるから許せ」
「わあい」
単純なチェリーだった。
私はチョコのキラキラとした包みをはがし、味わう。
うーんまるでショート王子の家で食べるチョコのような高級な味わい。
高そうだなあ、それを三粒もくれるなんて、豪勢だあ。
「人間君はどこから来たの?」
「人間の国シャロックからだ」
「やっぱり……やっぱりシャロック国では獣人は敵なの?」
「山賊が特に狙っている。だからあまり森の奥へ行かないほうがいい」
「……危険を教えてくれるの?」
「別に、俺は獣人は嫌いでも好きでもない。もふもふは好きだ」
「! 仲間! いいよねっ、もふもふっ」
「ああ、うちのペットの猫が、たまらなく愛しい」
そう言われてびくりとするブルーノ。
たぶん、触られるのを警戒しているのだろう。
おびえているブルーノなんか珍しいなあ。
「動物は愛でるものだ」
「じゃあ、獣人は」
「人間と同じ頭脳があるからな……」
「……そういえば、人間君は何歳?」
「八歳だ」
「同じ歳―。チェリーもそうだよ」
「でかいな……」
チェリーはそう言われてにっこり笑う。
やっぱ人間から見てもチェリーはでかいのね。
「ねーねー、人間君、チョコお代わり」
「これが最後だぞ」
「わあい」
「チェリー、遠慮しなさい」
「別にいい、帰ればいくらでももらえる」
「いいなあ」
チェリーがじーっと人間君を見る。
多分もっと欲しいのだろう。
そこで、ショート王子が提案する。
「ボクの家で同じようなチョコを作ってもらえばいいよ、チェリーおにーちゃん」
「いいの!?」
「ボクもこのチョコは気に入ったし」
そう言えば、ショート王子は無言で食べていたっけ。
ショート王子はあまり食べものに執着がないほうなのにね。
普段からいつでもいいものを食べれるせいかな? 舌が肥えてる割には、割と何でも食べるのは、小さい頃スキキライをすると大きくなれないって言われたからかもしれない。まあ、ショート王子は小さいけれど……。
洞窟の中で、暇を持て余した私達は遊び始める。
しりとりをしたり、お互いの国の話をしたり。
人間君は、私達を攻撃しようとはしなかった。
「また、人間君と会えればいいのに」
「会わないほうがいいよ、クリス」
「どうして?」
「……俺みたいな人間ばかりじゃないから」
なるほど。やっぱり人間君は特別なのか。
しょぼんとしていると、人間君は私の頭を撫でた。
「元気出して。ジュースもあるから」
「ジュース!」
やっぱり食いついたのはチェリーだった。
ご機嫌に飛びながら人間君からジュースをもらう。
「うわーおいしいー」
「ザクロのジュースだ」
「ザクロ! こっちの国にもあるよ」
チェリーが言うように、ザクロはこの国でもたくさんとれる、
ジュースにはせずにそのままいただくのが普通なのだけれど。
「どうも食べ物に差はないみたいだな……」
「? 研究でもしているの? 人間君は」
ジュースをお代わりしながらチェリーが尋ねる。
あの、私達まだ飲んでないんですけど!
「好奇心かな。興味があるんだ、俺」
「だから、ここにいるの? ロマンヌ国を目指してきたの?」
「いや、これは本気で迷子だ」
シャロック国ってだいぶ遠いよね? それがどうしてこんなところに。
人間君って、かなり方向音痴? 無事買えれるのか心配だよ……。
不安そうな顔を見て察したのか、人間君は恥ずかしそうに言った。
「ちゃんと帰れるし」
「賢者様呼ぼうか? きっと助けてくれるよ」
「いい。これ以上獣人を集めると騒ぎになる。だから、俺にあった事は四人だけのひみつにしてくれ」
「えー、チョコはどう説明すればいいのー?」
チェリー、心配する場所はそこなわけ?
笑いをこらえる人間君。だよね、笑われるに決まってるじゃん。
さすがにチェリーも少し恥ずかしそうだ。
「拾ったってことにすればいい。チェリーなら、拾い食いは日常茶飯事だろう」
「なんでわかったのー?」
いや、否定してよそこは! 日常茶飯事なのかい! ダメでしょそれ!
突っ込みたい気持ちを抑える私。
人間君は時計を見た。
「もう一時間は立ってるから、そろそろ雨もやむんじゃないか」
「そうかな、あ、本当だー。明るくなって来たねー」
のんきにチェリーが言う。ジュースの入っていた水筒は空になった。
それから数分後、空は晴れた。虹も見えて、すごく綺麗だ。
よし、私達はエイベルが心配するから帰らなきゃ。
「じゃあ、私達は帰るから、バイバイ、人間君」
「ああ。元気でな」
落ち着いた様子で手を振る人間君は、本当に大丈夫なのだろうか。
私達は川をたどり、何とか元の場所に戻ることができた。
案の定エイベルはかんかんに怒っており、私達は正座でお説教を食らった。
「何を考えてるんだ! お前らは!」
「リルも賢者様も寝ちゃってたから……」
「うっ、それは……天気がいいのが悪いっ」
言い訳を始めるエイベル。それはどうよ。
「でもまあ、無事でよかった……本当に心配したんだ」
そう言って、エイベルは私達をぎゅっと抱きしめた。
泣き出すショート王子。リルも寄ってくる。
『起こしてくれればよかったんだ』
(だってすっごく気持ちよさそうに眠っていたから)
『実際気持ちよかったがな』
(リルもいつもお疲れでしょ?)
『でも、わたしはクリスを守る聖獣だ』
(だって平和じゃん)
『それはそうだが……いつ人間が攻めてくるかわからないんだぞ』
人間、と言われ人間君の顔を思い出す。
絶対バレないようにしなくちゃ。
『……どうした、クリス』
(なんでもないよ、なんでもないない)
『何かあったような顔だが』
そうこうしているうちに、エイベルは私達を離した。
チェリーはその時思いついたのか、ポケットからチョコレートを出した。
「ねぇ、賢者様。このチョコすごくおいしいんだけれど、王国で再現してもらってもいいよね」
「何だこのチョコ、シャロック国の王家の紋章が入っているじゃないか……」
「え?」
思わずチェリーが首をかしげる。私も固まった。
「まあ、庶民でも手に入れることはできるが、かなり高価なものだぞ……まさか、人間がこの国に入って来てるのか。帰ったら会議にかけないと……」
「えっえっ」
私達はあたふたする。
なんか、大変なことになっちゃったっぽい?
チョコレートをしまったエイベルは私達を連れて転送魔法でお城へ向かった。




