チョコレートと青い鳥
お城の前に転送された私達は、警備の中を潜り抜け、王様たちのいる部屋に案内された。まずはショート王子が王様たちの前に飛んでいく。
「何事だ」
王様が眠そうな顔でこちらにやってきた。
相変わらず豪華なお城だと、私はぼんやり思っていた。
王妃様も、昼寝をしていたのかどこか眠たげ。
この国は、人間に何かされない最近はすごく平和なのだ。
「王様、先ほどチェリーがシャロック国の王家のしるしの入ったチョコレートを拾いまして……人間がこの国に入った可能性があります」
「なんだと、それはまことか」
「はい、な、チェリー君」
「あ、うん。落ちてた」
「それはどのへんだ、チェリー君」
「森の中の洞窟」
王様の問いかけにおびえた様子で答えるチェリー。
まあ、嘘は言ってないよね。
その言葉に、苦い顔をする王様。
「森とは、結構近くじゃないか」
「最近は人間の国から青い鳥が飛んでくる時期で、それだけで気分が悪いんですけどね……」
「そうですね、賢者様。人間が人工的に作った青い鳥。あれは人間の国の幸せの象徴で、なぜかこの時期にはこの国にやってくる」
そう言えば、私もこの時期によく見るなあ、青い鳥。
あっちの国では、幸せの青い鳥って呼ばれてるらしい。春の始まりを告げるから、って言う説もある。
「これから国の警備を厳しくしないと……」
エイベルはうなる。そこにビット騎士団長もやってきた。
「王様! 賢者様! 人間が攻め込んできたって本当ですか!」
うわああ、超大事になってきた。人間君が黙ってろって言ったわけがわかってきたよ、今更。
「第一騎士団、全員警備に回します。第二騎士団も備えます。とにかく、国境のまえでふんばらないと……この平和な国を、守らないと……」
顔の青いビット騎士団長は、早口にまくしたてる。
「大丈夫だと思うけど」
「クリスさん。聖女としての意見ですか、それは」
王様が私に尋ねる。
『わたしも心配だが』
(絶対大丈夫だよ)
『何の根拠があるんだ』
(それは)
『言えないのか』
(…………)
「個人的な意見……」
「何か見えたりしないのですか、聖女としては」
ある意味正解丸見えなんですけれどね。いうわけにはいかないんだよねえ……。
まだ人間君はこの国にいるかもしれないし……。
見つかって火あぶりにでもなったら……ひいいいいい。そんなのあんまりよっ。
「平和な未来が見えます!」
私は口から出まかせを言ってみた。
これでなんとかなるはずっ。
「なるほど、戦いの結果は勝利と」
違うよビット騎士団長! そうじゃない!
「自分も魔法で参戦しよう」
エイベルもしなくていいから!
するべきことはチョコレートの再現だからっ!
チェリーに至っては半泣きだし。
「チェリー君、大丈夫だよ。まだ見習い騎士団は参加しなくていいから」
思いっきり誤解されてるし。
でもなぜかブルーノは記憶をたどるような顔をしている。
「ブルーノ、どうかしたの?」
私はブルーノに耳打ちした。
「嫌なんか、気になることがあるんだ。多分、僕の記憶が正しければ……でも、なかんか思い出せなくてな」
「なんかよくわかんないけれど頑張って!」
この状態でそんなことしている場合じゃないと思うけれど!
私は混乱した頭でどんどん動いていく国の状況に固まっていた。
ショート王子は子供丸出しの、パニック状態でお妃さまに抱きしめられていた。
五歳児に、今は何も求められない。
「早く、警備を手厚く!」
ビット騎士団長は部屋を飛び出していった。
エイベルは国中を守るバリアのために魔方陣を描きだしている。
あああああ、実際は何もないのに、大混乱だよおおお。
「クリスちゃん、どうしよう。オレ……」
小さな声でチェリー。
「言っちゃダメだからね! 人間君が死んじゃうから」
「うん……オレ、チョコ持って帰らなきゃよかった……」
「いまさらそんなこと考えても意味ないし、この状況をどうにかする方法を考えよう」
「そうだね……」
『何をヒソヒソしている』
(別に、何も)
『まあ、なぜかわたしにも平和な未来しか想像できないから、いいけれどな』
そりゃそうだよ! と私は叫びたい。
その時だった、ブルーノが声をあげたのは。
「どうした、ブルーノ君」
王様が顔をあげる。
ブルーノは真面目な顔で小さく頷いた。
「あの、青い鳥っているじゃないですか。最近見かける鳥」
「ああ、いるね」
「その鳥の好物って何か知ってます?」
「? なんだい?」
「甘―いお菓子です」
そこで王様は固まる。
「それが何か?」
「チョコレートは?」
「甘いお菓子だな」
「つまりはです、そのチョコレートを持ってきた犯人は?」
「……青い鳥?」
すごい! ブルーノ、よくそんな知識があったね!
私は感心しながらふたりの会話を聞いた。
「そういう事になりますね。きっとシャロック国からチョコレートを数個、つまんできてしまったんでしょう。それを、拾ったバカチェリー坊が食べたと」
「バカ言うなー」
チェリーが真っ赤な顔をして反論する。
でも、食べ物に関してはチェリーは絶対バカだよ。
なるほどと納得した王様は、急きょビット騎士団長とエイベルにストップをかけた。
そして始まる大人の話し合い。
「まさか犯人が青い鳥だとは……どうします王様」
「言いずらいですねぇ、賢者様……」
「まあ、正直に言うしかないだろう、なあ第一騎士団長」
「そうですね、早とちりで大変な事態を招いてしまいました」
よかった、平和に話がまとまりそうだ。
そう思ってため息をついたんだけれど……。
「ところでチェリー、拾い食いをしたんだってね? いけない子だなあ」
ビット騎士団長は、やっぱりそこに怒っていた。
本当は、拾い食いしたわけじゃないんだけど、常習犯っぽいしなあ……。
ごめんチェリー、かばえないや!
「ご、ごめんなさいいいいいい」
チェリーが半泣きで叫ぶ。
「尻叩きだっ」
「ちょ、やめっ、クリスちゃんの前だけではやめてえええええ」
私はチェリーの名誉のために、王室からそそくさと出て行った。
けれど、外までバシンバシンという音が聞こえて、チェリーの泣き叫ぶ声が聞こえたのはすごく怖かった。




