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第十話「From me to you」

そして……。


「何見てたの?」


 私がどの曲をかけようか悩んでいる傍で熱心に、彼は何かの冊子をめくっていた。


「一緒に見る?」


 と彼はニッと笑った。それは小学校の時の卒業アルバムで、思わず恥ずかしさで顔が紅潮する。照れ臭いのもさることながら、あの時の記憶がスグに蘇るのは、私自身何度もそのアルバムを見返していたから。


 一緒に写る二人が自然で。当たり前のようで。躊躇いもなくて。自然で、誰に冷やかされても彼は動じなくて。


 今より自然に「好き」だよ、って言えて。

 だから照れ臭い。


 本当は大好きって言いたいのに、それを言わせない理性。私はあの頃より狡くなった。彼は私の事を好きでいてくれる。そう信じている。でも、もしそれを聞いて、そうじゃなかったら?


 今まで積み上げてきたものが――全部崩れたら?


 私は泣けないだろうなぁ、って思う。


 感覚を全部奪われて、きっと泣けない。そして何も思わない。思えない。温度も、空気も、呼吸すらも。


 そんな思考を他所に、彼はのんびりと言う。


「これ」


 と手渡すのはレコードのジャケットで。ジャケットには紳士然とした4人が、楽器を手に暖炉の前で立っていた。さながら、4人ともシャーロック・ホームズを彷彿させる。中央のドラムセットに刻印されるように「From me to you」と描かれていた。


「レコードコレクターへプレゼント」


 にっと笑って言った。


「なんか好きそうじゃん、こういうの。ジャッケット買いしてみた」


「え?」


 彼がそんな事をするなんて意外だった。私はレコードを取り出す。


 とん。


 何かが落ちた。私は目を見張る。彼はさらに笑んで、それを左手の薬指へ。レコードをターンテーブルへ乗せた。


 ノイズから、柔らかいレコード特有の音質で、リズムを刻む。ギターの柔らかい音とベースの優しい低音が囁く。そして、さらに囁くような歌声が包むより早く――私は彼を抱きしめてい た。
















From me to you

言葉にしたら単純で

音にしたら何気ない

空気になって消えるのに

勇気がもてない

ウソみたいに可笑しいね?


君に伝えたいたくさんの事を

言語化するだけなのに

君に捧げるすべての事が

泡になって消えてしまう


ノイズ

本当に大切なことを置き忘れていきそうで


こんなに君のことを思っているのに

君に伝えたい言葉をどう表せばいいのか

近くて遠い 満月に梯子をかけるように

裸足で駈け出して 言葉にしたら

離したくなくて 止まらないのに


From me to you

気持ち積み重なって 言葉にならない

i love youに手をのばしても

届かなくて 解けなくて

分析できない感情残渣

立ち止まれなくて なくせなくて

誰かに渡すことはできなくて


声にして

出した瞬間に

気化して消えない

言霊が残る


From me to you

君に伝えたい言葉

From me to you

君にだけ伝えたい言葉を

どうやったら伝わるのか

どうすれば伝わるのか

言葉を想えば想うほどに足りなくて

物足りなくて 舌足らずで

枯れた声で 

それでも伝えたくて 声にならなくて

呼吸が止まりそうなくらい

君に捧げた言葉で溢れて

君に捧げた言葉は言葉だけでは足りなくて

君に捧げたい言葉なら 音にしなければ伝わらないから

空気を震わせて、今囁くから

言葉じゃ足りない言葉を

全部、受け止めて












From me to you

「君を愛してる」





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