第4話『診断のその先へ』
中継セクター。
カノジョがマップをじっと見つめている。カレシは手帳を開き、前回までの記録を分析している。雇い主はソファに座ったまま、変わらず見守っている。
カノジョ「……ねえ、カレシ」
カレシ「何ですか」
カノジョ「これって、『あなたはどの席に近いか』って話だけど——」
カレシ「何か問題でも?」
カノジョ「だって、人間って一つの席に座りっぱなしじゃないよね。仕事では監査役の席なのに、恋愛では前へ出る席かもしれないし。大事な場面では問い直す席とか——」
カレシ「……それは、かなり複雑な構造ですね」
カノジョ「そういうものだよ。人間って」
その時、雇い主がソファから顔を上げた。
雇い主「どうだ、この診断企画は」
カノジョ「うん、なかなか面白いよ。でも——」
雇い主「でも?」
カノジョ「『あなたは誰派』って聞くよりも、『今日のあなたは誰派』って聞いたほうが、もっと面白い気がする」
カレシ「……それは、毎日変わる可能性があるという意味ですか」
カノジョ「うん。だって、昨日の自分と今日の自分は、同じじゃないかもしれないでしょ。物語の役割も、場面で変わるでしょ」
雇い主(少し笑って)「面白いな。それ、シリーズ化できるんじゃないか」
カノジョ「でしょ!」
女将(コーヒーを配りながら)「そうね。私も、朝と夜では違うことがあるもの。昼間は『考えてから動く席』でも、夜になると『立ち止まって考える席』に近くなったりする」
カレシ「……それは、疲労でしょうか?」
女将「それも一つの理由かもしれないけど。でも、それも含めて『その時の自分』でしょ」
カノジョ「うん。そういうこと」
カレシは手帳に何かを書き込んでいる。
カレシ「……『誰派』から『今日の誰派』へ。それは、診断を『固定するもの』から『その時の傾向』として捉え直すことです」
カノジョ「じゃあ、今日の私は誰派かな。」
カレシ「あなた自身では判断できないでしょう。」
カノジョ「じゃあ、読者に聞いてみようよ。」
カレシ「……読者に?」
カノジョは笑う。
カノジョ「うん。私たちをずっと見てきた人に聞いてみる」
少し間。
「今日の私は――誰派?」
カレシは手帳を閉じる。
カレシ「記録します。本日の観測対象、カノジョ。判定不能」
カノジョ「……それ、結構好き」
カレシ「ただし——」
カノジョ「ただし?」
カレシ「あなたが『判定不能』であることは、あなたの一貫性のなさを証明しているのではありません。あなたが、場面ごとに違う席に座れることを示している。それも、一つの在り方です」
カノジョ「……それ、褒めてるの?」
カレシ「さあ。記録者としては、事実を述べているだけです」
カノジョは壁に向き直り、手を振る。
カノジョ「さて、今回の『あなたは、誰派。』はここまで」
「最初は『自分が誰に似てるか』を知るための診断だと思ってたかもしれないけど——」
「実際は、『自分がどの席に座りやすいか』を知るための、ちょっとした遊びだった」
「でも、それも一つの物語の始まり方でしょ」
「あなたがどの席に座るかは、あなたが決める。それでいいんだよ」
カレシが手帳を閉じる。
カレシ「『あなたは、誰派。』、完。ただし——」
カノジョ「ただし?」
カレシ「この診断は、まだ続く可能性があります。『今日のあなたは誰派』という問いは、明日も、明後日も、あなたに寄り添う」
カノジョ「……なんか、それ、嬉しいな」
そして——画面の向こうのあなたに向けて、カノジョは笑う。
カノジョ「あなたは、今日の誰派?」
——そこで一度、間が空く。
カレシが手帳を開き直す。
カレシ「……そうだ。記録として、各メンバーの回答見本をこのマップに追記しておく。皆さんの解答と見比べるための、観測データです」
カノジョ「お、それいいね。自分がどの席に近いか、比べられる」
カレシは手帳に書き込みながら、マップの隅に小さな表を貼り付ける。
カノジョ「これでみんな、自分が誰に近いか分かるね」
カレシ「ええ。ただし——これはあくまで一つの観測結果です。固定されたものではありません」
カノジョ「うん。それも含めて、遊びの続きってことで」
――次回、最終話
メンバーの回答見本(QA)が明らかになります。皆さまの解答と見比べてみてください。




