7 潜水
ヴァルナ・オービタルⅠに備えられた専用中型シャトルは、乗員最大10名で完全AI制御の最新型だった。
宇宙空間から大気圏、そして水中まで完全にサポートする高性能の機体は、この惑星でしか見られない。シャトルは勢いよく成層圏を抜け、あっという間に眼下に一面の海が広がった。海面付近でゆっくりと減速し、着水すると同時に潜水モードに切り替わる。
「凄いけど、ちょっと怖いかも……」
リゲルはシートベルトをギリギリまで引っ張り、分厚い窓に顔を近づけた。シャトルは海面に溶け込むように潜水し、暗い緑色の深海を目指していく。
「魚だ! 本物だ!」リゲルが興奮した声で言った。
空は高く、海は広く深い。世界がこれほどまでに広大で、それが当たり前の世界に自分が生きている。それだけでリゲルにとっては〈想像を超えた奇跡〉だった。
彼は急に、父さんと母さんに会いたくてたまらなくなった。この数日間で体験した、たくさんの素敵なことをいっぱい話したい。母さんならきっと嬉しそうに笑って聴いてくれる。父さんならきっと、時々笑いながらいっぱい質問してくるに決まってる。
そして……そう思うと、胸の奥が苦しくなって、目の周りが熱くなって、涙が止まらなくなった。
「父さんと母さんに会いたい……」
リゲルが小さく呟いたとき、エイカは何も言わずにその手を強く握りしめた。
エイカはリゲルの手の温度を感じながら、自身の不思議な感情の変化に気づき始めていた。彼女にとって子供とは、あくまで誰かの子供であり、ほとんどの場合は患者だった。けれど、この数日間でリゲルの存在が、なぜか夫であるカーマイン・ウェンの存在を再び強く思い出させていた。だからこそ、今はリゲルの存在がこれほどまでに愛おしく思えるのだ。
(これは何だろうか……まさか私に母性など……)
エイカはシャトルの低い天井を見上げた。頰を涙が伝ったような気がしたが、こんなものは気圧の変化によるただの生理現象に過ぎない、そう自分に言い聞かせた。そして、そっと目を閉じて微笑んだ。




