35 尋問2
保安部署 尋問室
「だから、彼女は別人だったと言っているだろう! あれは、なにか別の……そうだ、きっとあれだ、リローデットに違いない」リヒター・ヤンセンは恐怖と不安と焦りで、今にもパニック寸前だった。
「ミスター・ヤンセン、順を追って落ち着いてもう一度話して下さい」
マユミ・オカンポはそっとコップに水を注ぎ、彼の前に置いた。彼はそれを一気に飲み干すと、わずかに冷静さを取り戻した。
「ああ、声を荒げてしまい、すまない」
そう言って、静かに話しだした。
「実は、このドームシティにはマクスウェル調査会社のキンバリー・ロスという女性社員に協力依頼を受けて来たんだ。彼女が僕たちの滞在中の住む場所も必要経費、その他すべてを用意してくれた」
「マクスウェル調査会社のキンバリー・ロスね。初めて聞く会社だわ。その依頼について話して下さい」オカンポはUNIにメモをとった。
「僕たちはドームシティに到着後、現地の調査員からの連絡を待って指示に従う、ということだった。2週間前、その人物から連絡が入り彼女ひとりで会いに行ったんだ」
その日から彼女の様子がおかしくなり、跡が残る程の強い力で手首を掴まれたこと、不審に思って追跡アプリを使ってここ何日間は彼女を尾行していたこと。そして彼女を追って宮殿に忍び込んだことを事細かに話した。
「……あのとき、僕がもっと強く言って止めていれば」
リヒターが頭を掻きむしってうつむいた。
「遺体が発見されたあの倉庫にあなたが入るところが、監視カメラ映像に残っているの。そこで何があったかを話して下さい」
オカンポは真摯な態度で、しかし強く詰め寄るように彼にそう言った。
「部屋に入った時、彼女は僕が尾行していたことも全部知っていたんだ。彼女がそう言ったんだよ。それに、彼女はピンピンしていたさ! いつものように彼女は用意されたセリフのように言い訳をしだしたんだ。だからもう、僕は腹が立って──」
「彼女を殺したのね?」
「ち、違う!! 僕は怒りに任せて部屋を出たんだ」
隣のミラールームではジスとウェン、エイカがその尋問の様子を見ていた。
「オカンポ隊長はこのリヒターって男が犯人じゃないのは最初っからわかってたのよね?」エイカが言った。「ええ、先程上がってきた新たな検死報告書によるとあの遺体は死後冷却されていたそうです。倉庫の温度が一時期異様に低く設定されていたというログも見つかりました。そのため発見直後、死亡推定時刻がはっきりしなかったんです」
「じゃあなんで、彼女尋問してるんだ? まさか!彼女そっちの趣味が……あイタッ!!」
エイカの手のひらがウェンの頭をクリーンヒットした。
「おそらく入国理由とその依頼主を疑っているんでしょう。彼女はまだ私のHIMoD説を信じていないようですし」
ジスが話し終わったとき、部屋のドアが開き監視室に居た保安部隊員の男が入ってきた。
「失礼します。削除されていた監視カメラ映像の復元が完了しました。それと、さらに宮殿内部の破損していた監視映像の復元も一部が完了したのですが……とにかく見て下さい」
そう言って彼は自分のUNIを見せた。「まずここが削除されていた部分です。このようにカリ・トンプソンと思われる女性が出ていくところ。そして、ここです!」
彼が指さした映像には、カリ・トンプソンがトイレの前の通路から立入禁止の札のある扉へ進む様子が映っていた。
「これってどこに通じているんだ?」ウェンが訊いた。
「そ、それが、この先は閉鎖されていて、古い地下通路だと思うんですが地図に記載されていない場所なんです」
「どうするの?保安部隊員を集めて取り押さえてもらう?」「いいえ。もしHIMoDであれば、死傷者が無駄に増えるだけです。あれを仕留めるには、不意打ち《う》でしかも一発で完全に破壊できる強力な武器が必要です」
そこへいつの間にか尋問を終えていたオカンポ隊長が入ってきた。
「レールガン、ならどうでしょうか?」




