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34 希望

 保安部署 会議室



 オカンポ隊長はその後の検死報告書の内容で凶器と思われていたナイフでは、遺体の状態を再現できないという結論を出した。よって、ビカシュをこれ以上拘束する必要もないと判断し、ひとまず彼を解放した。しかし未《いま》だアミタとリゲルとは連絡が取れずにいた。


「オカンポ隊長、西棟《にしとう》と東棟《ひがしとう》、ドローンと人手を割いておりますが、監視カメラの映像に不具合が発生している箇所や、未だロックされたエリアもあり、アミタ姫とリゲル少年の捜索は行き詰まっています」

 オカンポの腹心《ふくしん》であるリカルド・チャベス副隊長は、非常に鋭《するど》い眼光を持つ40代後半で大柄のヒスパニック系男性で、この騒《さわ》ぎの間もオカンポが自由行動できるように、独自の判断で指揮を取っていた。

「チャベス副隊長、報告ありがとう。こんな騒動《そうどう》、私は経験したことがなかった。だから、あなたのサポートに感謝しています。ところで、例の件で拘束《こうそく》した男は……」

「はい、リヒター・ヤンセンはすでに尋問室《じんもんしつ》におります」

「ありがとう。では引き続き捜索に戻って下さい」

 チャベスとその部下たちが出ていったあと、誰も居なくなった会議室でオカンポはゆっくりと椅子に腰掛けると、これまで感じたことのない疲労感に襲《おそ》われた。


「私なんかに解決できるのかしら」


 ふと弱気なことを口走った自分があまりにも滑稽《こっけい》で、こわばっていた彼女の顔が一気に緩《ゆる》むと、意味のない笑みがこぼれだした。そのおかげで少しだけ回復した彼女はUNIを取り出し次の尋問《じんもん》の準備を始めた。




 応接室



 行方不明の愛娘《まなむすめ》アミタのことで頭がいっぱいのビカシュは居ても立っても居られずに、床に敷《し》かれた絨毯《じゅうたん》が擦《す》り切れるほど同じ場所を歩き回っていた。

「ねぇ、ビカシュ。気持ちはわかるけど、お願いだから少しだけ落ち着いてちょうだい」

 プリヤが優しく言った。

「しかし、私のせいかもしれないんだ。例の件で、あの子を一人ぼっちにしてしまったから」

「それってどういうこと?」「今日、この騒《さわ》ぎに紛れて物資の輸送をするはずだったんだ。それで、その手筈《てはず》をしていて……」

 ビカシュがそう言うと彼女は急に椅子から立ち上がった。


「なんてこと!!」


「ああプリヤ、本当に済まない」

 ビカシュが膝をついて謝ろうとしたが、「いいえ、そうじゃないの! 思い出したのよ、アミタとUNIで話したときに彼女言ってたのよ『パパの私兵たちがいた』って──」

 ビカシュは嬉しさのあまり思わずプリヤを強く抱きしめてキスをした。

「さあ、あなた。急いであの子たちを迎えに行って!」

 プリヤはそう言って、もう一度キスをした。



 ビカシュはオカンポにメッセージを残した後、チャベス副隊長と合流した。

「すまない。理由は言えないんだが……」「ええ、言う必要はありません。さあ、行きましょう。姫君がきっと待っています」

 チャベスもビカシュとは長い付き合いだった。彼は元優秀な特殊工作員であったから、ビカシュの秘密など、とっくの昔から見抜いていたのだ。しかし、若くて頑固《がんこ》で正義感に溢《あふ》れたオカンポの性格を考えると、黙《だま》っていると決めたのだった。


 彼らはリゲルが降りた古い閉鎖《へいさ》された通路ではなく、宮殿の裏庭に設置された隠《かく》し扉へと向かった。ビカシュが壁に手を触れると生体認証され、地下への大きなエレベーターが現れた。

 彼らが乗り込むとエレベーターはゆっくりと下降し始めたが、ほんの数秒で地下の海底港に通じるトンネルの前に出た。


「アミター!!」


 ビカシュが大声がトンネル内を反響した。




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