33 尋問1
2階 保安部署
尋問室1の廊下
オカンポたちが尋問室に向かうと、プリヤ王女が廊下で待っていた。
「隊長、ビカシュが話したいことがあるそうよ」
「しかし弁護士なしでは──」
「──私が彼の弁護をします。私は彼の無実を信じていますし、国際法における弁護士資格もあります」
「お前って、弁護士資格まで持っていたのか。マジですげーやつだな」ウェンがめずらしく本気で感心して言った。
オカンポ隊長は少し驚いた様子だったが、一考した後「わかりました。では尋問に同席して下さい」と答えた。そして彼女はジスを連れて尋問室に入った。
「あなたがたも私と一緒に隣の鏡部屋へ。そこで尋問の様子が見られるわ」
そう言ってプリヤがウェンとエイカを部屋へ案内した。
「ではビカシュ・ミルザの尋問を開始します。担当者は保安部隊長マユミ・オカンポ、それと弁護人としてESIAのエージェント・ジセリオス・ラムダ。日付は2937年3月22日、時刻は16時16分」
「ビカシュ、お久しぶりです。勝手ながらあなたの弁護を担当することになりましたので、よろしく」
ジスは涼しい顔で言った。「ジセリオス、どうして……いや、君がいて心強いよ。感謝する」ビカシュは背筋を伸ばした。
「王子……いえ、ミスター・ミルザ。あの時、なぜあの倉庫に居たんですか?」
「あれは確かパーティーが始まる直前だと思う。急いで着替えをしてホールに向かおうとした時、妙なメッセージを受け取ったんだ」
「メッセージですか? あなたが持ってUNIを調べましたがそんな痕跡はありませんでしたよ?」
「あれは自動で削除されるタイプの特殊なメッセージだったのだ」
「そんな都合のいい……まぁ、いいでしょう。それで内容は?」
「『秘密を握っている』とか何とか『直接話したい』そんな内容だったと思う。私はイタズラだと思ったんだが……」ここでビカシュが言葉に詰まった。
「なにか知られたくない秘密があるんですか?」
オカンポがやや悪意のある言い方で質問した。
「ビカシュ、答える必要はありません。それは今は関係ないでしょう。重要なのは彼が何者かに『呼び出された』という事実だけです」
ジスがそう言うと彼女はフンと鼻から息を吐いた。
「それで、誰にも何も伝えずにひとりであの倉庫に行ったんですか?」
「そうだ……」「ちょっと妙ですね。あなたのような立場の人間が、そんな無責任な行動に出るなんて」ますます彼女の目に疑いの色が宿る。
それを察してジスがビカシュに目配せした。「ビカシュ、続きを話して下さい。あの倉庫で何があったんですか?」「それが……よく思い出せないんだ。何かのガスを吹きかけられた気がする。すぐ意識が朦朧として……だが、背の高い女性が何か大きな袋を棚から出していたのを覚えている」
「この女性ですか?」オカンポ隊長がUNIに表示されたカリ・トンプソンの写真を見せた。
「わからない。そうかも知れないが確信は持てない」
ビカシュはそう言って「すまない」と言うふうにジスを見た。
「では次に、こちらのナイフはあなたのものですか?」
彼女は床にある金属の証拠保管用のケースから、証拠袋に入った小さなナイフをテーブルに置いた。
「そうだ。これはミルザ家の人間だけに贈られる家紋入りククリを模したナイフだ。それが凶器だと言いたいのか?」
ビカシュは少し強い口調で言った。
「少なくとも血痕は被害者のものです。それに発見時、あなたがこのナイフを強く握っていたため指紋も残っています」
「それはただの状況証拠でしょう。それともそのナイフが被害者を殺害して、しかもあのような形でバラバラにできたと証明できるのですか?」
オカンポ隊長の顔に怒りが見える。
彼女は大きくため息をついた後「もういいわ、録画を止めて」とマジックミラー越しに言った。
「私は先ほどジスから聞いた仮説をすべて信じたわけではありませんが、ビカシュ王子、あなたがこの事件の殺人犯であるとは思っていません」「ありがとう、隊長」
「お礼はまだ早いですよ。あなたの行動にはまだ不審な点が多すぎる。いつか必ずすべて暴いてみせます」
「ああ、君ならきっと成し遂げるだろう」
ビカシュの曇りのない目とその偽りを感じさせない口調にオカンポ隊長は少したじろいたが、そんなことで彼女の熱意は冷めることはなかった。だがビカシュは、それすらも見抜いているように彼女を見つめていた。




