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29 改竄

 シンハラージャ宮殿

 2階 応接室



 プリヤ王女は部屋にあるブレンドマシンから私立探偵アルジュン・ハーサンのためにコーヒーをセットし、カップに注いだ。彼の前のテーブルにコースターを敷《し》いてから、カップに入ったコーヒーをそっと置いた。


「ちゃんと、濃(・)い(・)め(・)に(・)落としておいたわ。どうぞ」

「これは恐縮です。ん~いい香りですな」

 アルジュンは立派なカイゼル髭《ひげ》にコーヒーがつかないように慎重にカップに口をつけた。

「それで、移民管理センターでサビルの情報は掴《つか》めたの?」

 彼女はその聡明《そうめい》さが表に現れるような、大きく力強い真っ黒な瞳でアルジュンを見つめた。

「それが、メーラト・ドームシティAは現在かなり経済が逼迫《ひっぱく》した状態でして、あちらの住民登録システムが随分前から停止しているようなのです。結局サビルが3年ほど前にシンハ・ドームシティから移住をしたという情報までしかわかりませんでした」

 彼はそう伝えると彼女は大きなため息を漏《も》らした。

「ただ、ビカシュ王子は3年ほど前から頻繁《ひんぱん》にメーラト・ドームシティAと暗号通信をしていたことがわかりました。さらに、倉庫の重量計測改ざんが始まった3年前に、その計測を担当した人物が変更になっていたことがわかりました」

 初老の探偵の鋭い目にギラっと光った。

「もうその人物の名前まで分かったのね」

 王女がそう訊《き》くと探偵はその太い人差し指でUNIをゆっくり操作した。


 プリヤ王女はポケットから自分のUNIをそっと取り出すと、保安部署にメッセージを送った。

〈倉庫管理係のサンジャイ・メヘラを今すぐに応接室に連れてきて〉




 宮殿西棟

 貨物搬入口前にある小さな事務所



 デスクに立てられたホロ写真をじっと見つめているサンジャイ・メヘラがいた。インド系の浅黒い肌に目鼻立ちの整った顔、優しさがあふれるような茶色の目には不安が宿《やど》っていた。

 彼がじっと見つめるホロ写真には彼に頬《ほお》を寄せて微笑《ほほえ》んでいる彼と同じような優しい目をした黒髪で顎髭《あごひげ》を蓄《たくわ》えた長身でガッシリとした体格の白人男性が写っている。

「ノエル、どうか無事に帰ってきてくれ」

 サンジャイは祈るように呟くとホロ写真の男性にそっと触れた。


「サンジャイ・メヘラだな? 同行してもらおう」

 突然ふたりの保安部隊員が事務所の入口に立っていた。

「ええ、私です。何か御用ですか?」「いいから一緒に来るんだ!」

 サンジャイは怯《おびえ》えた様子で両手を挙《あ》げて彼らに投降した。




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