26 探偵2
プリヤンカー・シンハラージャ王女の夫である、ビカシュ・ミルザは王家の人間ではない。
ミルザ家はドームシティでも5本の指に入るほどの大富豪で有名だが、ビカシュはプリヤ王女と一緒になる前に、身分の違うナビナ・チョードリーとほぼ駆け落ちに近い形で結婚している。
直ぐに娘のアミタを授かるも、ナビナは遺伝的な疾患により産後2週間で逝去。その後、プリヤンカーと出会い結婚し今の地位に至る。
そのあたりはプリヤが婚約をした段階でアルジュンが調べを付けていた。それ以外でも、ビカシュの性格、仕事や部下への態度なども詳しく調べた結果、問題なしと太鼓判を押したのもアルジュンだった。
実際、ビカシュは大富豪とは思えないほど勤勉で真面目な性格の男だった。彼には末っ子で2人の兄と1人の姉がいるが、彼以外のミルザ家の兄弟はお世辞にも真っ当な人間とは言えない酷く荒れた暮らしぶりだった。
一方、元妻のナビナ・チョードリーは貧しい家庭で生まれ育ち、両親も早くに亡くし弟のサビルと一緒に暮らしていた。
「そういえばサビルは今どうしているんだろうか」
アルジュン・ハーサンはタクシーの後部座席に揺られながら、おなじみの大きなUNIを取り出して、過去に自分が調べた報告書を読み直していた。
「お客さん、もう到着しますよ」運転手が声をかけた。
アルジュンがタクシーから降りた場所はシンハ・ドームシティ市民登録管理センターだった。彼は受付にIDを見せると奥の特別な端末に案内された。
「なにかわからないことがあれば、お気軽にお申し付けください」
案内をしてくれた若い係員の女性がそう言って一礼して部屋を出た。
彼はどっしりと端末の前の椅子に腰掛け、その太い指で画面を操作した。
「名前が『サビル』で、苗字が『チョードリー』っと……」
画面は直ぐに数十件のリストの表示に切り替わった。
「しまった。ええと、彼女はどこの出身だったかな」
アルジュンはUNIで先程のデータを開き直して、目を細める。
「ああ、ナーシク区だったな」彼は不器用な人差し指で再び画面を操作した。直ぐに結果が表示される。
「フム……3年前にメーラト・ドームAに移住しているのか。理由は記されていないな」
初老の私立探偵は腕を組み深く低い声で唸った後、えいやっと立ち上がり先程案内してくれた係員の女性を呼んだ。
「3大主要ドームの住人でしたらここからでもアクセスできるのですが、メーラト・ドームAは管理外エリアのドームですので、申し訳ありませんが……あ、移民管理センターからなら可能かもしれません。もしよろしければこちらから紹介用のメッセージを送りましょうか?」
係員の若い女性は丁寧な口調でそう言った。
「そうしていただけると助かります」
アルジュンは深くその係員に頭を下げてから、センターを後にした。




