24 殺人現場
エイカとジスとウェンは、オカンポに続いてその殺人があった部屋に入った。
部屋はそれほど小さくはないが、いくつかのコンテナが壁に寄せられているため、空間自体は狭かった。
そして、惨劇を思わせる飛散した血液と、女性の下半身の一部が床にあった。
「おい、マジかよこれってう……ゥオエェ」
そういって緑色の顔になったウェンが口に手を当てた。
「ちょっと、ダメよウェン。ここで絶対に吐かないで!」
「ああ、大丈夫、なんとか飲み込んだから」
それを見ていたオカンポが「ご無理なさらずに」と気遣ってウェンに言ったが、「大丈夫、大丈夫だから」と強がっている。
「それでは順を追ってお話します。今から30分ほど前。ちょうどロックダウンに移行した頃、我々は直ぐAIによるシステム全体のスキャンを開始したんですが、その時に最初に不正アクセスの発信元を特定しました。その場所が、我々が今いる東棟のこの場所『備品倉庫A』でした。保安部隊がこの倉庫に入ると、この遺体……の残骸とビカシュ王子を発見しました」
「おいおい、ビカシュ……って、あのプリヤンカー王女の旦那か?!」
「……はい、そのとおりです。遺体の直ぐ側で凶器と思われる血痕のついたナイフを持ったまま床に座って居たところを、我々が拘束しました」
「そんな! 彼は自白したんですか?」
ジスが訊くと、オカンポは首を振った。
「いいえ、発見時、彼はかなり混乱していて口も利けない状態だったので、医師に看せたところ、血中から大量の神経に作用する薬物が検出されました」
「オカンポ隊長、ちょっと、その凶器を見せてもらえるかしら」
エイカがオカンポのUNIを覗き込んだ。
「どうぞ、ドクター・サガラ意見を聞かせて下さい」そう言ってオカンポはUNIをエイカに手渡した。
「私は殺人事件の専門家じゃないけど、こんな小さなナイフで遺体をあんな状態にするのはかなり……ちょっと難しいと思うわ。それに、これ発見時のビカシュ王子でしょ? 確かに手の周りは血だらけだけど、このシャツには一切返り血の痕跡が無いのも変だわ」とエイカが言った。
「部屋の床や壁に飛散した血液の量を考えると、遺体をあんな状態にするにはもっと……そうですね、大きくて重い鈍器が必要なはずです」ジスが付け加えた。
「はい、現場のCSIも同じように言っていました」
「それってつまり、王子は濡れ衣を着せられたのか?」
ウェンは少し臭いに慣れてきたのか顔色も良くなってきていた。
「やっぱり変よ。血が飛び散り方は激しいけれど、被害者が抵抗した痕跡も見当たらないなんて」エイカが顔をしかめた。
「ビカシュはなにか証言をしたんですか?」
ジスがそうオカンポ隊長に尋ねると彼女の顔があからさまに曇った。
「それが…弁護士が来るまで一切何も話さない、と」
「まぁそうだよな。でも、な〜んか後ろめたいことがあるやつに限って──」
「ビカシュは!……彼は決してそんな人間ではありません!!」
ウェンの軽口にジスが珍しく感情的に声を荒げたため、あたりは一瞬静かになった。
沈黙を破るようにロック解除の電子音が鳴り、部屋のドアが開いた。
そして、ふたりの若い男性の検死官が部屋に入ってきた。
「遺体の回収にまいりました」
「……ご苦労さま。それじゃあ、私たちは一度、部署に戻りましょうか」
オカンポ隊長とジスたちが部屋を出て、東棟の入口付近を出たあたりで彼女のUNIの通知音が鳴った。
「今、DNA検査の結果が出ました。なるほど、彼女はドームシティの住人ではなかったので直ぐにはわからなかったようですね。被害者の名前はカリ・トンプソン35歳の黒人女性です」




