22 閉鎖
ロックダウンの警報がやむと、テラスにいた来客たちは安全のためにその場で着席するように指示された。
流石に地べたに来客を座らせるには気が引けたのか、スタッフが絨毯や厚手のシーツ、簡易チェアなどを設置するのに慌ただしく走り回っていた。
「すみませーん! こちらにジセリオス・ラムダ様はいらっしゃいますか? ジセリオス様! いらっしゃいませんかー?」
若い保安部隊員の男の声が宮殿の中央ホールから聞こえた。
「私たちのことを探しているんじゃない?」
エイカが声に気がついた。ジスは立ち上がり「私です!」と手を挙げた。
保安部隊員がこちらに近づいてくる。
「ジセリオス様と御一行の方々も、一緒にご同行下さい」
「分かりました」
「ねぇ、ウェンとリゲルはどうするの?」
エイカが心配そうに言った。
「お手洗いに行った連れの2人がいるのですが……」
「あとで、お探し致しますので、先ずはご一緒に保安部署にお願いします」
「仕方ないわね。ジス、私たちだけで行きましょう」
彼らはホールを抜けて2階に上がるためのエレベーターへ向かった。
その頃──
ウェンはリゲルを追いかけたものの、完全に見失ってしまった。
ホールをウロウロしているとスタッフに呼び止められた。
「お客様、申し訳ありませんが、どこかのお席にお座りください」
「いや、子供を探してるんだよ。このくらいの身長で──」
「──だから僕は、その別に怪しいものでは……」
ウェンの後ろで背の高い眼鏡の神経質そうな男が声を上げていた。
「それで、名前はリゲルっていうんだけど……あれ?」
ウェンが振り向くと先程までいたスタッフがいなくなっていた。
「ああ、ウェン。こっちよ!」ホールの西側通路からエレベーターに乗ろうとしていたエイカがウェンを見つけて声をかけた。
「リゲルとはぐれちまって」
「ええ、リゲルは大丈夫。王女の娘さんと一緒にいるらしいわ。それと、一緒に来て」
そう言って、エイカはウェンの腕を引っ張った。
エイカたちはジスたちと合流し、2階の保安部署に入るとオカンポ隊長が彼らを迎えた。
「ジス、ご協力感謝します。そして、お連れの方ははじめまして、私はマユミ・オカンポ保安部隊長です」
「私はドクター・エイカ・サガラ、そして夫のカーマイン・ウェンです」
「よろしく。一体全体どうなっているんだ? リゲルたちは大丈夫なのか?」
ウェンは心配でたまらないという表情だった。
「順を追って説明しますが、まずは私についてきて下さい」
オカンポ隊長はそう言って足早に歩き出した。
彼らは本部署の前の廊下奥にあるスタッフ専用のエレベーターで一階に降り、テラスが見える細い通路を通って東棟の入口に着くと、何人かの保安部員が待機していた。
「なあ。あれ」
ウェンがエイカとジスに目で合図した。そこには犯罪現場を示すホロ・テープ(ホログラフィックの犯罪テープ)が入り口前を囲っていた。
「イスマル、開けてちょうだい。彼らは通して大丈夫」
オカンポが保安部員の一人に声をかけると、彼はUNIで入口のロックを外した。
東棟は基本的に宮殿の関係者しか立ち入ることのできない建物で、入口に近いエリアにはスタッフの休憩室やシャワールームなどがあり、奥のエリアはほとんどが雑用品などの倉庫になっていた。
ジスたちはさらに奥へと進むと、改築のための立入禁止のホロ看板が建てられており、埃と騒音をシールドするカーテンが敷かれていた。
そのすぐ手前の通路の突き当りの部屋前でオカンポ隊長がようやく立ち止まった。
廊下には数人の白いつなぎをまとった科学捜査班(CSI)たちが、ドアの前に立っていた。
「オカンポ隊長、一通り証拠採取等は完了いたしましたので、我々はお先に失礼します。後ほど検死官が遺体の回収に参ります」
「ええ、了解。ご苦労さま」そう言って彼女が彼らのひとりが持っていUNIにサインをした。
CSIたちは一礼し、機材や証拠品の入った袋などを持って去っていった。
隊長はUNIを取り出してロックを解除した。
「さあ、こちらです。ちょっとキツイかもしれませんよ」
そう言って彼女はドアを開けた。
「……うっ、何の臭いだ? これ」ウェンが手で鼻を押さえた。
「死体、だわ。そうよね? オカンポ隊長」
エイカが乾いた声でそう言った。
「ええ。ここは殺人現場です」




