17 不穏
ジスの乗ったタクシーは目的地のシンハラージャ宮殿まであと100mほどのところで渋滞にはまり、停車せざるを得なくなった。
「ここで結構です」ジスはそう言って車を降り、徒歩でメインゲートのセキュリティにIDを見せた。
正面ゲートは来客用の車でとても混雑していた。
「ジセリオス様、伺っております。こちらのスタッフ専用ドアから中へお進み下さい」
案内に従い、中央ホールの裏手から建物に入った。UNIでマップを確認して階段を上がるところで、保安部隊長のオカンポが声をかけた。
「ご足労くださり、恐縮です。実は少し込み入った事情がありまして……」
オカンポはジスを人目を気にしつつ、監視室へ案内した。人払いをして、念のため部屋をプライバシーモードに切り替えた。「これは、おおごとのようですね」ジスが静かに言った。
「挨拶が遅れました。私は保安部隊長のマユミ・オカンポです。ジセリオス様はESIAでレベル3のセキュリティクリアランスをお持ちだということと、そのアルタリでいらっしゃるので……」
「──どうぞ、そうかしこまらずに。私のことはジスと呼んで下さい」
ジスがそう言うと、オカンポ隊長の顔から少しだけ緊張感が薄れた。
「30分ほど前のことです。……」
オカンポ隊長は爆弾設置のメッセージが来たことと、ビカシュ王子のここ半年の態度を含めて話した。
「私の考えすぎだといいのですが、そういうわけで調査のご協力をお願いしたいのです」
口調から少し頑固な部分はあるが、彼女から誠実さと粘り強さをジスは感じた。
「なるほど。わかりました。ビカシュ王子のことは私も昔からよく知っている人物です。なにか秘密がありそうですね。いいでしょう、メッセージの発信元を調べてみましょう」
「しかし私どもも試しましたが、ルートが暗号化されていて……」
オカンポが説明するより先に、ジスは端末に触れた瞬間、すぐさま表情が変わった。
「発信元を特定しました」「え? そんなに早く?!」オカンポは驚いて声を上げてしまった。
「これはたしかに変ですね。このメッセージは一見外部からの一般プロトコルを経由して送信されたように装っていますが、本来タイムコードに受信時に発生するはずのレイテンシがありません。更に、暗号化されたのがこの宮殿のサーバー内で行われていますね」
彼女は息を呑んだ。「それはつまり内部の犯行だと……」
「ええ、しかもこれは保安部員が普段使っているUNIから送信されています」
「まさか、そんな。何かの間違いでは?」 オカンポの顔が青ざめていく。
「しかし、危険物探知ドローンで今のところ危険物は発見されていないのですよね?」
ジスが確認すると、オカンポは動揺を隠せない様子で答えた。
「……ええと、はい。3度確認しましたが、今のところ爆弾の気配はありません」
「でしたら、いたずらの可能性も否定できませんし……とにかく、私もビカシュをそれとなく探ってみます。何かあればすぐ隊長にお知らせします。オカンポ隊長は通常のプロトコルに従って警備に戻って下さい」
ジスは彼女を落ち着かせるように言った。
ジスはそう言いつつも、昨晩のあの女性のそばで感じた胸騒ぎ、そしてこの件が無関係であることを願いつつ、一階の中央ホールに向かった。




