14 秘密
シンハラージャ宮殿は、朝から慌ただしくスタッフが出入りしていた。
生誕記念パーティー開始時刻まで1時間を切った中央ホール奥の通路で、ビカシュ・シンハラージャ王子はUNIを睨みながら送信ボタンを躊躇っていた。
「ビカシュ王子、ここにおられましたか。キッチンからメニューの変更がありまして、こちらにサインを……」
スタッフの1人が近づいてきたため、ビカシュは決断し送信ボタンを押し、さりげなくUNIを内ポケットにしまった。急いでスタッフのUNIに指でサインをした。
「これでいいかな?」「はい、ありがとうございます。それから、プリヤンカー王女がホールの大扉の前で王子をお探しでしたよ」
スタッフはそう言うと、反対側にあるキッチンへ急いで向かった。
周りに人がいなくなったのを確認して、ビカシュは再びUNIを取り出した。送信確認済みの表示が出ている。
すぐまたメッセージの通知が表示された。
〈漁師が網をおろした〉
ビカシュは直ぐにメッセージを削除し、内ポケットにUNIをしまおうとしたとき、胸ポケットの別のUNIから呼出音が鳴った。〈マユミ・オカンポ保安部隊長〉と表示されている。
「王子、至急保安部にお越し願います」
「どうした、オカンポ隊長。何かトラブルか?」
ディスプレイに映る彼女の顔が緊張している。
「直接お話致しますので、至急こちらへ」
ビカシュは小走りで保安部署がある2階へ急いだ。部屋に入ると、オカンポ隊長がビカシュを奥の監視室に案内した。彼が部屋に入ると、オカンポは扉を閉めた。
「さきほど、このようなものが」
彼女は目でメインディスプレイを観るよう促した。
〈シンハラージャ宮殿に爆弾を設置した 王族に死を!〉
そう表示されていた。
「なるほど。だが、いつもの脅しだろう」ビカシュが苦笑いしながら言った。
「だといいのですが、これは宮廷ではなく、この保安部の部隊用アドレスに送られているんです」
「それは……つまり?」
「いいですか王子。保安部署のアドレスは非公開です。したがってこれを送信できるのは──」
オカンポ隊長が最後まで言いかけたのをビカシュが止めた。「待て! 結論を急ぐのはよくない。まだパーティー開始まで時間はある。警備を倍にして、危険物探知ドローンを飛ばしてはどうだろうか?」
オカンポ隊長は苛立ちを隠せない様子で言った。
「探知ドローンはすでに手配済みです。それに現在ドームシティ内ではパレードが4カ所で行われていて、手の空いた保安部隊はすべて出払っています」
うーん……と唸るビカシュ。
「隊長、今日は大勢の来客がある。なのでパニックは避けたい。それにただのいたずらの可能性もある」
ビカシュの楽観的な態度で更にオカンポ隊長の顔が曇った。
「ですが、万一に備え宮殿内のパーティーを延期するべきです。来客の皆様にも何かあっては……」
「まあ少し落ち着いて。私が全責任を負う。それにオカンポ隊長、私はあなたを信頼している。ドローンで何も見つからなければ問題ないはずだ。それとこの事は妻には黙っていてほしい。彼女に余計な心配をかけたくないのでね」
オカンポ隊長はまだ不服ではあったが、彼女は自分がときどき感情的になりすぎる性格であることを自負していた。「わかりました。仰せのままに」彼女は一礼し、監視室のドアを開けた。
「ありがとう。また何か分かったら報告してくれ。では」
ビカシュはそう言って保安部をあとにした。
マユミ・オカンポ隊長は腕を組み、入り口付近を映すディスプレイをぼうっと眺めていて、不意に何かを思い出した。椅子に座る部下の男に声を掛けた。
「来客用リストの中に確かアルタリがいたわよね?」
男が端末を操作する。
「あ、はい。ええと、……彼ですね。ESIAのジセリオス・ラムダです」
「エクレシアなの? それにセキュリティクリアランスも問題ないわね。彼を今すぐ呼び出して」
オカンポは昔から妙な勘が働くのだ。彼女が引っかかるのは爆弾予告ではなく、あのビカシュ王子の態度だった。しかも、今回のことだけではない。ここ1年間でビカシュは保安部によく顔を出すようになり、いつの間にか彼直属の腕章を付けた部隊まで出来ていた。
(彼は一体何を隠している?)
マユミ・オカンポ隊長は監視カメラ映像に映るビカシュ王子を、強い疑いの眼差しで見ていた。




