↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

12 前夜祭

 夕暮れ時のオーシャンビュー・ホテルは、先程までとは違い活気《かっき》に満ちていた。

 ホテルの入口には前夜祭のディナーに参加するドレスアップした来客たちが、次々と送迎車に乗って現れた。


 ジスとリゲルが止まるダブルルームでは、リゲルがフォーマルウェアを着るのに四苦八苦《しくはく》していた。

「いいえ、そのベルトはその上から……ええと、ジャケットもそちらが下になるように……ああ、そうではなくて」

 ジスが丁寧《ていねい》に指示を出すが、なかなか伝わらない。

「こうかな? ええと──」


 そのとき、ノックの音がした。

「今開けますから」ジスがドアを開けると、タキシードを着てきちんと整髪もしたウェンが立っていた。

「準備できたか?」

「まだ時間はあるからゆっくりでいいわよ」

 続いて、紫色のシルクのカクテルドレスを着て、濃い赤の口紅が映《は》えるエイカが廊下《ろうか》から覗《のぞ》いた。

「うわ、二人ともかっこいいね!」リゲルが目を輝かせた。

「あの、僕はこれが上手く着られなくて……」

「しょうがないわねぇ……」エイカが足早にリゲルに近づき、ものの数秒で見事に仕上げてしまった。

「はい、できあがり。よく似合っているわよ」

 リゲルはカラシ色のズボンに、袖口に金の飾りがついた白に近いベージュのジャケット、そして太いベルトがポイントの装《よそお》いになった。

「ヒューッ! まるでどっかの国の王子様だな」

 ウェンがわざとらしくお辞儀をしてみせた。

「そして、その、ジスは……ええっと。それは、制服か?」ウェンが顔をしかめる。

 ジスはグレーの生地に僅《わず》かにテクスチャされたカラー付きの上着、そして無地のダークグレーのズボンという装いだった。

「なんというか……地味ね。いい意味で、よ」

 エイカも言葉に困《こま》った様子だった。

「……これは、一応アルタリの由緒《ゆいしょ》ある正装なんですが」

 ジスが少し気まずそうに言った。

 気まずい沈黙の中、リゲルのお腹《なか》が大きく「グー」と鳴った。

「エヘヘヘヘ……」リゲルが恥ずかしそうに笑うと、ウェンが明るく言った。

「ほんじゃ、リギー。ディナーに行くとすっか!」

「イェーイ!!」

 リゲルとウェンがグータッチしてからガッツポーズをした。


 ジスたちはエレベーターで屋上へ向かった。

 前夜祭ディナーパーティーということで、来客用の豪華《ごうか》なディナーが準備されており、ジャズバンドが品の良いアップテンポな曲を演奏していた。


「ねぇ、空を見て!」リゲルが声を上げた。


 薄暗い夜空に、柔らかく無数のカラフルな光の数々がふわふわと揺《ゆ》れている。

 その動きは有機的で、それでいて美しい連続性があった。

「生物発光する海底の生き物たちですよ。その数百万匹ほどの集合体ですね」

 ジスがリゲルに説明した。エイカとウェンもその美しさに言葉を失った。

「綺麗ね……」エイカがつぶやく。

「そうだな、綺麗だ」

 ウェンはそんなエイカの横顔を見て、静かに言った。

「失礼!」長身で緑のドレスを着た女性が、彼らの前を横切った。

 ウェンとエイカは目が合い、微笑み合った。

「お席へご案内します」

 ウェイターがそう言って奥へと案内した。


 そのときジスはなにか妙な胸騒《むなさわ》ぎがした。アルタリの胸騒《むなさわ》ぎは人間のそれとは違い、必ず理由がある。

 ジスはあたりを見回す。この感じを知っている。これはアルタリが共有している情報で、ジスが自身の経験によって獲得したものではない。つまりかなり古い情報に基づくものだった。

(これはノイズではない……これは『あ(・)れ(・)』が発する信号)

 もう一度確認するべく付近を歩き回ったが、その信号を捉えることはできなかった。しかし、あれは確かにそうだった。もう消えてしまった。

「ジス? 何してるの? こっちこっち!!」

 リゲルが不思議そうな顔で手を振った。

 ジスはもう一度あたりを見回して確認した。

「はい、すぐ行きます」

 そう言って、何事もなかった様子でテーブルに着いた。


 音楽はより快活なリズムを刻《きざ》み、伸《の》びやかなボーカルがあたりを包み込む。

 シェフによって彩《いろど》られた様々な食事が運ばれ、彼らはそのひとときを心ゆくまで楽しんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。