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11 指輪

 2週間前──

 

 シンハ・ドームシティ

 ダウンタウン



 ロダン古物店は、賑《にぎ》やかな商店街から少し外れた路地にひっそりと佇《たたず》んでいた。

 棚に並ぶ発掘品らしきものはどれも価値があるようには見えず、店の看板も古く錆《さ》びている。周辺の高いビルの影で入り口付近はいつも薄暗く、誰もその店を見向きもせずに通り過ぎてしまう。


 まだお昼過ぎだというのに、入り口には〈Close(閉店)〉の札が掛かっていた。

「リヒター、例の人物から連絡があったわ」

 カリが2階の部屋から足早に階段を下りてきた。

「よし、準備しよう」

「いいえ、私一人で来るようにと言われたわ。あなたはここで待ってて」

 カリは麻布でできた大きなトートバッグを持ち出し、UNIと小型のパルスガンのバッテリーを確認して底の方にしまった。

「カリ、その武器は一体どこで……」

「備《そな》えあればってね。大丈夫よ、そんな心配しないで」

 カリはリヒターに軽くキスをして微笑《ほほえ》んだ。リヒターが何か言う前に、彼女は裏口のドアを開けて外へと消えた。


 リヒターはテーブルの上に光るものを見つけた。「カリ、また指輪を……」

 それはふたりの婚約指輪だった。



 現在──


 リヒターはあの日からテーブルに置かれたままの婚約指輪を、じっと眺《なが》めていた。

 僕のカリは、あの日から居なくなってしまった。今の彼女はもう別人に違いない。

 最初の1週間は彼女の浮気を疑《うたが》った。ドームシティに来てから、彼女が出会った人間すべてをチェックした。だが、誰一人として彼女と親しくなった形跡《けいせき》のある人間はいなかった。

 だからリヒターは数日前の晩、こっそりカリのUNIに追跡用のアプリをインストールしたのだ。しかし、真実を知るのも怖かった。ただし、あの食事での一件があるまでは……

 リヒターはカリに掴《つか》まれた手首に目をやった。まだ赤く腫《は》れ上がっている。小《こ》一時間ほど氷で冷やしていたが、痛みは治《おさ》まらない。今現在、彼女はこの店で誰かと話をしている。聞き耳を立ててみたが、特に怪しい内容ではなく、家主のバーナードについての内容だったので、リヒターは2階の部屋に戻ってきた。

 店の入口のチャイムが鳴り、静かになった。客は帰ったようだ。

 その後すぐに裏口のドアが閉まる音がした。

「しまった!」

 リヒターは赤く腫《は》れ上がった手首をさすりながら、UNIを掴《つか》んで急いで家を出た。




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