10 オーシャンビュー・ホテル
送迎車が到着したのは、それほど大きくはないものの、中世ヨーロッパのデザインを模した古風で趣のある『オーシャンビュー・ホテル』だった。
ホテルの入口には真っ赤なカーペットが敷かれ、祝賀パーティーのための華やかな装飾が施されている。
ジスが受付で手続きをしている間、ウェンたちはロビーに用意されたソファに腰を下ろした。
「この格好、視線が気になるから早く着替えたいわね」
エイカが小さく呟いた。ジスたちは宇宙ステーションで着替えたスウェット姿のままだったので、車を降りた瞬間から場違いな様子だった。
「ああ、なるほど。相談してきます」
ジスは受付と少し話した後、こちらに戻ってきた。
「実は部屋なんですが、ウェンとドクターは夫婦という情報を送っていたために、通常の二人部屋とスイートが予約されているようなんです」
「別に、それで構わないわよ。ウェン、いいわよね?」エイカがウェンの顔を見る。
「ああ、全くそれで問題なし」ウェンが真顔で答える。
「しかし、てっきり二人は……」
「快適ではないかもしれないけれど、数日ぐらいは問題ないわよ」
エイカが作り笑いをして言った。
「右に同じ」ウェンが頷く。
ジスはなんとも不可思議な表情で再び受付へ向かった。
「ふたりとも仲良くね!」
リゲルが笑うと、エイカがウェンを見て言った。
「この子も言うようになって来たわねぇ。それとも誰かさんに似てきたのかしら?」
少し気まずい空気が流れたが、ウェンも笑い返した。
エイカが変化を感じているように、ウェンの中にも少しずつ変化の兆しが見え始めていた。
ウェンは最初、リゲルが二人の緩衝材なのだと思っていた。だが、それ以上の存在だった。この子がいるだけで、彼女が自分に向けたほんの些細な仕草や眼差しに、あの頃の愛しさをもう一度感じることができた。しかも、彼女も同じ気持ちでいることを信じようと思えるようになった。
だが、同時にまた彼女を失望させてしまうのではないか?あのとき彼女にさせた、あの辛い決断を思い出さずにいられなかった。
けれど、ウェンはいつだって楽観主義だった。過去は過去、今は今。
二人が思い描いてた形とは全く違うが、ちぐはぐでおかしな『家族』みたいな仲間と、こうして一緒にいる。今回はうまくいくさ。
ウェンはそんな単純な自分自身に、思わず笑いがこみ上げてきた。
「何をひとりで笑ってるのよ。気持ち悪いわね」隣でエイカが微笑む。
「なんでもないさ」
そう言って彼女の目を見た時、ウェンの期待は確信に変わった。




