第弐歌<序>
四方を山に囲まれた人里、大原。
人々が逃げ惑う中、小鬼達が徒党を組んで民家に火をつける。
提灯小僧、唐傘小僧、金魚幽霊なども次々人里に侵入し、人々を喰い、刺し、焼き殺していった。
流徹と球磨が人々を魔の手から救うべく、飛び出した。
「いざ!」
江弐参號を抜き、唐傘小僧の中棒を両断し、金魚幽霊は剣の峰で撲殺し、提灯小僧を細切れにする。
小鬼達が跳びかかるも、剣気を纏った流徹にはかすり傷一つつかない。
不動にして頑健たる鞍馬山の巨岩の如し。
森の中から巨大な虎妖怪がぬうっと現れる。
「がうううっ」
気迫にて流徹にも劣らぬそれは、球磨を怯ませる。
流徹はその強靭な爪を躱しつつ、一太刀浴びせるも、相手に致命傷を負わせるに至らない。
「馬鹿な……!?」
じりじりと再び距離を詰める虎妖怪に、思わず二人は後退りした。
その背後からは無数の片耳豚が迫りくる。
「奴に股下を潜られると精魂を抜かれるぞ」
「進退窮まる……か」
そんな危機的状況で、二つの影が飛び出した。
「助太刀いたす!」
長身の槍を振り回す者と、肥えた体型で斧を振り下ろす者の二人。
「ぬん!」
斧使いが片耳豚を衝撃で薙ぎ飛ばす。
「せいやああっ!」
槍使いは、虎妖怪の急所を的確に突く。
「忝い!」
流徹は目を閉じる。
耳から意識を逸らし、敵の中核がどこにあるかを森羅万象に問う。
無数の妖怪の中、一匹の妖狐が一際強い妖気を帯びている。
「親玉はあそこの妖狐だ!」
「俺が倒す、だから、道を作ってくれ!」
「御意!」
三人が咄嗟に同意する。
球磨が激しい攻撃を刀で弾く。
槍使いがクルクルと槍を回し、一点を貫く。
すると、少し遅れて衝撃波があたりの妖怪を吹き飛ばした。
「活殺烈刃衝!」
斧使いが大きく跳躍して自重と斧の遠心力を以て敵を薙ぎ飛ばす。
「叩き割り!」
大きな道ができると、流徹は大地を蹴って妖狐目掛けて跳躍する。
危機を察知した妖狐は急いで民家の上に駆け上がる。
そして、四つの尻尾を振るって狐火を呼び出す。
竜胆色の狐火がフラフラと漂いながら、流徹目掛けて飛んでいく。
「気を付けろ、その火は発破じゃ! 斬ると爆発するぞ!」
その言葉に、刀を構える姿勢を変え、一旦距離をとる。
「キャアアアアン」
妖狐が吠えると、狐火の色が紫色、紅桔梗色、躑躅色へと移り変わる。
そして、それが爆ぜ、周囲の妖怪もろとも民家を破壊していった。
四人の兵は戦慄した。
妖狐はその様に挑発的に笑みを浮かべると、狐火を纏う亡霊武者に変化する。
十字槍を手にし、口からは青白い炎を漏らす。
「……参る!」
刀と十字槍のぶつかり合い、そしてそれによって生じた火花が狐火となり、無数の爆発を産む。
「柳生新陰流……秘剣・逆風!!」
「裂破・獣刃衝!」
二つの奥義が衝突し、衝撃で民家や畑が抉れる。
「凄まじいでござるな……」
「あれは……やはり我々と同じ、勾玉か……!」
槍使いと斧使いがその様子を見て頷く。
球磨は、敵と相対しながら成長に感心する。
「流徹様……」
しかし、激しい爆発を巻き起こす妖狐に、流徹は押されつつあった。
三人は周囲の敵を一掃すると、加勢に行く。
「助太刀感謝する!」
そこに、民家の中から一声。
「俺様も加勢させてもらうぜ!」
藁葺き屋根を突き破って出てきたのは、十尺程の刀を担いだ、獅子のような風貌にして、ぼろ布を纏った粗暴そうな男。
しかし、着地と同時に彼は転倒し、周囲の片耳豚が彼の足元に群がってくる。
「な、なにをする貴様ら~!」
奴らに股下を潜られるのは精魂を抜かれることを意味する。
流徹は無謀な彼を救うために瞬時に思考を回転させた。
その時、今まで成功した試しの無い技だけが現状の打破の手段と見た。
「この技を、使うしかあるまい……」
全身に負担がかかり、それは失敗した時、今まで以上の危機的状況に陥る事を意味する。
彼を見捨てるのが一番の選択肢だ。
だが、流徹は人を救うために剣を取った。
答えは一つ。
「三日月の太刀!」
大きく三日月を描くように弧の字に移動しながら、その進路上の敵を両断した。
その範囲は最大の幅十尺、長さにして三十間程。
攻撃対象には、妖狐も含まれていた。
「ギャアアアアアアアアオオオアアアアア」
汚い鳴き声を上げながら、真っ二つになって炎と共に消滅した。
妖狐が消滅するのを確認すると、妖怪たちは森の中へと帰っていく。
「……た、助かった…………」
大太刀の男は汗を拭い立つと、太刀を両手で持って挑発的な姿勢で妖怪たちに勝利の声を上げる。
「ふ、ふん、これが俺様の実力だ! 口ほどにも無い奴らだぜ!」




