第弐歌<破>
長身の槍使いが身なりを整えて自己紹介する。
「名を介郎と申す者。ご察しの通り、勾玉の八剣士の一人でござる」
続いて肥満体型の斧使いが答える。
「同じく勾玉の八剣士が一人、角信」
二人は掌を開いた。
すると、中には忠、義と書かれた勾玉がそこにあった。
介郎の持つ忠の勾玉は深緑色に、角信の持つ義の勾玉は橙色に輝いていた。
「拙者はこの勾玉の導きのままにここに来た次第でござる」
「……うむ」
夜の人里で火を囲む四名。
その外れに一人が酒を煽る。
「して、そこの者はなんと言う」
「ああん? 俺様か? 俺様はなぁ」
顔を真っ赤にし、酒気を帯びた回らない呂律で彼は名乗りに惑う。
彼の目の前には、綺麗な菊の花が咲いていた。
「うい、菊三十兵衛。とでも名乗っておくか」
「もうすぐ四十兵衛だがな」
一同にどっと笑いが溢れた。
「そんな名前があろうか。お主、侍でもあるまい」
介郎の言葉に、菊三十兵衛は瓢箪を掲げて怒りを露わにした。
「なにをう!? 俺様は侍だぞ! 浪人だぞ!?」
「浪人である事を誇る侍など物珍しいな。世間も知らぬと見受けられる」
「なんだとう!?」
大太刀を抜こうとするも、角信がその手を抑える。
「ときに菊三十兵衛、お主の勾玉はどこぞ?」
「勾玉? なんじゃそら」
角信の問いに対し、菊三十兵衛は問いの意味を理解していない様子だ。
「勾玉も知らぬか……この戦についてくるのは早いのではないか?」
流徹の発言に対し、彼は大太刀を振り回し、千鳥足で駆けだした。
「……俺様をバカにしているのか? 撤回せい!!」
「その忍耐弱さ……戦に来ても足手まといでござるな」
「……あい分かった。貴様ら全員と決斗だ!」
威勢だけは良い吞兵衛に対し、介郎は軽く大太刀を奪い、攻撃を受け流す。
「ほれ」
「おい、クソジジイ! 俺様の刀を返せ!」
「おおよそお主と同じ年齢でござるよ」
「黙れクソジジイ!」
大太刀を取り返そうと飛び跳ねる菊三十兵衛をあしらう介郎。
そんな様子を横目に、流徹、角信、球磨は今後の話を続ける。
騒がしい一行は一夜を明かす。
呑み疲れて熟睡中の菊三十兵衛を置いて、コソコソと出発する。
高野川を沿って歩み進める。
先程まで黒々と染まっていた山林が赤や黄の彩を見せ、季節の風情を楽しませる。
だが、戦への旅立ち故にそんな感情も持ち合わせず、ただ、心を刀身に重ねていた。
しばらく歩くと、後ろから別の足音が聞こえてきた。
それはやや駆け足で、少し重い音。
「俺様を置いていきやがったな!!」
「おい!待てい!」
大太刀を掲げて追いかけてくる。
小さな滝つぼに差し掛かる。
そこでは手掴みで魚を取り、焼いて食べる菊三十兵衛の姿があった。
「はは、まだ追ってくるでござるな」
その様子を見て、一行は速やかに通り過ぎる。
山道の中で、再び菊三十兵衛と鉢合わせした。
「ダメと言われても俺様はしつこく付きまとうぜ」
「……では突き殺しても仕方あるまい」
介郎、角信の好戦的な構えに、彼は臆すことなく大太刀を構える。
その緊迫した空気が肌を焼く。
流徹はしばしの逡巡の後、答えを出した。
「仕方ない、彼も連れていく。今は一人でも戦力が欲しいところだ」
「……よいのか?」
介郎の心配事は単純なものではない。
だが、流徹は目を瞑り、静かに答える。
「うむ。勾玉を持っていない事など、球磨にも言えよう」
「なればこそ、威勢の良さとその志を買ってやるべきでは無いのか?」
「それでよいのであれば、よいでござるが……」
穏やかな空気に、大太刀持ちの彼はバシバシと流徹の背中を叩いて喜ぶ。
「はっはぁ! 話が分かる奴じゃあないか」
「それでは、改めていくぞ」
流徹は前を見据える。
「――兄上と叔父上の無念を晴らす!!」
一行は歩み始める。
「充盈流徹のご出陣! ご出陣!」
京の古都に向かい、一歩一歩を踏みしめながら……。




