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江戸城燃ゆ 下<破>

 マリスお(きよ)穢土(えど)夢幻城(むげんじょう)の忍法を解き、元の江戸城(えどじょう)へと変化した。

 そして、球磨(くま)菊三十兵衛(きくさんじゅうべえ)流徹(るてつ)、お(まち)と合流し、天守(てんしゅ)へと向かった。



 天守。

 小柄な陰りの少年と痩身矮躯(そうしんわいく)の怪老人、そして、美麗な顔貌の若侍……天草(あまくさ)四郎(しろう)時貞(ときさだ)がそこにはいた。


由比(ゆい)五月雨(さみだれ)。あの謀反者(むほんもの)を始末したまえ」


 怪老人が小柄な陰りの少年、五月雨に銘ずる。

 五月雨は忍法による氷を放ち、それはお清を貫いた。


「仲間を!?」


 菊三十兵衛が動揺する。

 だが、怪老人はあくまでも冷静といった態度で言った。


「仲間じゃない、彼女はただの駒だ」

「穢土夢幻城を解いた彼女に価値はないよ」

「私は(もり)総意軒(そういけん)


 怪老人が名乗った。


「我が穢土夢幻城へようこそ!」

「ここまでは楽しんでいただけたかな?」


 総意軒は飄々とした態度でそう質問した。


「帰りたいところだ。帰るといえば帰してくれるのだろうか。否、ここで逃げては活人剣(かつじんけん)の名が廃る」


 流徹は刀に誓った思いを吐く。


「楽しめるわけがないだろう。面白半分で人を殺め、復讐だと?」


 球磨は単純な怒りを露わにした。


「それは失礼した。だが、貴様らを楽しませる時間もないのだ。すでに幕切れなのだよ。流徹!」


 総意軒の胸元には()の勾玉が怪しく輝く。


「……貴様が最後の敵だな! 充盈(じゅうえい)流徹の名を刻め!」



 天草四郎の剣戟、総意軒と五月雨の忍法による攻撃が飛び交う。


「……」


 天草四郎はあくまでも無言で、絡繰り人形然とした表情で刀を振るう。

 総意軒が合間合間に語り掛けてくる。


「私はただ一人の人間を救えなかった。故に、この世界を呪う!」


 菊三十兵衛が悪態をつく。


「けっ、どいつもこいつも復讐復讐、復讐か!」


 縮地によって瞬間的に迫る天草四郎の剣に反応しながらも、答える。


「お(ゆき)……私はお雪の為に世界を陥れるだけだ!」

「死者を代弁するでない! あれほどの命を弄んでおいて……その罪、地獄で償ってもらおう!」


 球磨が怒りを露わにした。

 だが、そこに五月雨の放った氷が飛ぶ。


「菊三十兵衛。奴を頼む」

「……おうさ!」


 背中を預け合う二人。

 菊三十兵衛は五月雨の方へ、球磨は総意軒の方へと向かった。


「私は切支丹(きりしたん)として迫害された島原乱の惣奉行(そうぶぎょう)に過ぎなかった」

「だが、阿蘭陀(おらんだ)に渡り、伴天連(ばてれん)呪術を学び伴天連忍法へと改良したのだ!」

「今なら、死者の代弁者だってできるのだ……だが、まずはこの世に復讐を果たしてからだ!」


 球磨が刀を構える。


「下らぬ、生あるからこそ死もあるのだ。摂理に抗ったところで何もならぬ! それは死者への冒涜だ!」


 球磨は刀を勢い良く振るう。

 丸腰の総意軒に目掛けて。



 だが。


「伴天連忍法・髪切丸」


 天草四郎の無機質な声がする。

 天草四郎の髪が独りでに動き出し、交戦していた流徹とお町の隙を縫って、球磨の身体を縛った。


「なにっ!?」


 そして、総意軒は球磨の刀を奪い、球磨の胸を貫いた。


「さらばだ」



 菊三十兵衛は五月雨に向かって突進する。

 飛び交う氷の刃を避け、一心に。

 だが、氷の刃に一瞬写ったそれが心を惑わした。


 胸を貫かれた球磨。


 その姿を見た菊三十兵衛は一瞬心が揺らぐ。

 そんな隙を五月雨は逃さない。

 氷の刃の雨で菊三十兵衛を貫いた。



「球磨! 菊三十兵衛!」


 流徹が叫ぶ。

 一瞬にして二つの命が奪われた。


 だが、球磨も菊三十兵衛もそれだけでは終わらなかった。


 総意軒は球磨が絶命したと刀を手放した瞬間の事。

 球磨は自らに刺さった刀を抜き、総意軒を斬り伏せる。


 五月雨はその様子に動揺し斬っているところを菊三十兵衛に斬られた。


「聞こえてるぜ……馬鹿野郎」


 菊三十兵衛はそれだけ言ってこと切れた。



 流徹は二人の尊い犠牲を見て、自らの敵を見定める。

 徐々に周囲の熱が増していく。

 天草四郎の身体から十文字に炎が噴き出しているのだ。


「熱波嵐」


 炎を纏った風が吹き、周囲のあらゆるものを吹き飛ばす。

 天井が焼き飛ばされ、夜空が露わとなった。


 お町も体中に大きな火傷を負う。

 唯一、流徹のみが妖刀無瀬刺魔(むらさま)の纏う水飛沫によって何事も無かったかのように立っていた。

 悪を斬るために打たれた最高の刀。

 そして、流徹は奥義を繰り出す。


「無念無想」


 天草四郎を切り上げる事で打ち上げ、その後に無数の斬撃を浴びせる。


「終わりだ」


 最後に、天草四郎を刀の一撃で大きく地面に叩きつける。


 救世主の生まれ変わりとされ担ぎ上げられた少年。

 海を歩いて渡る他、怪我の治癒など伴天連忍法の素質が高いとされ、絡繰り人形のように頭目にさせられた少年は、ここに再び死す事となった。



 はずだった。


「だが、まだ終わりではない……!」


 総意軒がもがきながら言う。

 (まん)の勾玉と疑の勾玉が怪しく輝きながら融合を果たす。

 それと同時に、天草四郎と総意軒は肉塊となり一つへと溶けていった。

 その肉の蛹からは神々しくも禍々しい何かが羽化した。

 それは、天使でもあり蝶でもあるかのような不思議な造形であった。

 彼は明星天使天草四郎となったのだ。

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