江戸城燃ゆ 下<序>
球磨と菊三十兵衛は迷宮のような屋敷内を走る。
山彦、鎌鼬、雪女を斬り伏せて、ろくろ首の首を刎ねて、一反木綿を木っ端みじんにして、芥の虫を払いのけて。
百目、夜道怪、餓鬼、天火、野干、河童、蛟、影鰐、青行燈なども敵ではない。
ひときわ大きい獣、漠や鵺も居合抜きで斬った。
天守へと続く道があった。
階段を駆け上がると、そこには十代目将軍、徳川斉治が縛られていた。
しかし、球磨が手を伸ばした瞬間、そこに手裏剣が飛んで来た。
「何奴!?」
高い笑い声と共に、三人のくノ一が現れた。
「アニモシティお光」
「インピュアお種」
「マリスお清」
くノ一三人衆と刀を交える事となった。
お町は流徹と合流し、彼の怪我を応急治療している。
「ッ!!」
あまりの激痛に流徹も思わず声にならない悲鳴を上げた。
「これでひとまずは問題なし」
お町の応急処置は的確であった。
腕も足も不足なく動く。
他の者達との合流を急ぐほかない。
通路を歩いていると、和室のような場所に出た。
そこには、宮本武総が立っていた。
あまりにも禍々しい妖気に圧倒されるも、ここを通らねば先へは進めないことを感じていた。
「強者よ……」
お町は即座にお継雨の笛を取り出し、吹く。
「これがあれば……心が……」
だが、吹いてもその歩みを止めない。
武総は少しずつ、二本の刀を抜いて近づいてくる。
ギラリと、胸元にぶら下がる勾玉が見える。
否、今までの魔人の勾玉とは明らかに気配が違う、紛玉であった。
強すぎる意志ゆえに、偽りの勾玉で魔人したのが彼であった。
「虚空閃……!」
空気が揺らぐ。
剣閃が、周囲の屏風や襖を切り裂いた。
「心から魔界に堕ち悪鬼羅刹と化したな」
答えはない。
「しかして、その心意気は武を追求するが故」
「こちらも求道者の端くれ、介錯仕る」
「いざ、尋常に!」
武総はニヤリと笑みを浮かべた。
「二天一流不動の型」
武総は前傾姿勢になって刀を構える。
流徹とお町は武総と剣戟を交える。
球磨と菊三十兵衛がお光、お種、お清と刃を交える。
激しい死闘の合間に、菊三十兵衛が声をかける。
「お前達は魔人じゃねえみてえだな!」
「なぜ連中に付く! 強いからか!?」
お種が答える。
「何を聞くかと思えば片腹痛い! 知れたこと、甲賀を滅ぼした世の復讐の為よ!」
「復讐か、くだらん。欠片も良さが分からねえぜ!」
菊三十兵衛が再び刀を構えて突進した。
刀で白兵戦を仕掛けるお種、忍法で援護するお光、そして、この穢土夢幻城を維持するお清。
三人の連携が次第に菊三十兵衛と球磨を追い詰めていく。
だが、お清は迷い始めていた。
人間の身でここまで魔人に立ち向かう者達を。
そのまっすぐな眼差しを。
「復讐。やめにしよう……もう、やめよう」
お清はそう言うと、お光が叱責する。
「正気!? 今更後には戻れないのよ、連中に絆されたか!」
「考えてもみて、復讐を遂げたら、私達に何が残る?」
「……」
次第に菊三十兵衛の側へ寝返ろうとする二人を見て、お種は忍者刀を突き立てた。
その対象は、お光だった。
「うるさいなぁ。忍法で私の支援をするのが使命でしょうが」
お光は胸を刺し貫かれ、一撃で絶命する。
そう言って、血を払う。
怯えるお清。
菊三十兵衛は怒りに体を震わせた。
「仲間に対してなんて仕打ちだ!!」
そして、大太刀を振るう。
「仲間? ハッ、こいつらを仲間と思ったことなど、一度たりともねえぜ」
「そうかい」
お種の忍者刀を球磨が弾く。
「あばよ」
大太刀がお種の身体を裂いた。
武総の背後に不動明王像が出現する。
「不動二刀流奥義・天剣」
じりじりと距離を詰める武総と不動明王像。
少しでも近づけば斬られる緊張感。
一進一退の見えない攻防が繰り広げられていた。
お町は遠距離から苦無を投擲するも、それらを容易く切り落とす。
お町は覚悟を決める。
「秘伝忍法・句点」
お町の姿が一瞬にして消えた。
忍者刀が終わりを刻む。
だが、刻まれたのはお町の方だった。
彼女の右腕が切り落とされた。
「がっ!」
だが、それでもお町は笑みを浮かべる。
「影縫い……」
秘伝忍法を仕掛けた際、忍者刀を持っていない方の腕で苦無を四本投擲。
見事、影を射抜いていた。
それも、両足両手の影。
即ち、武総は振れない。
動けない武総に対し、流徹は徹底的に攻撃を仕掛ける。
動けずとも圧のみで剣を防ぐ武総に流徹は敬意を表した。
「南無八幡大菩薩!」
そう唱えて、妖刀に邪気を纏わせる。
そして、縦に切り裂いた。
武総は頭から血を流しながら言う。
「まこと、よき試合であった」
そして、最強の剣客はその場に倒れ伏した。




