江戸城燃ゆ 上<急>
荒伐はあっけなく斬られた。
「馬鹿な……」
だが、荒伐はそれだけで終わるような男ではなかった。
斬られると同時に、その刀を側面から斧でへし折ったのだ。
「これで……自慢の武器は使えまい……卑怯などと言うな……戦場に道理は通じぬよ」
そう言って、荒伐はこと切れた。
流徹と宣以が刀を構えて突撃する。
だが、石舟斎の表情は変わらなかった。
「刀がなければ戦えぬと、誰が言ったのだ」
裏拳で流徹の身体を吹き飛ばした。
次に、宣以を体で捉える。
一瞬で、背中を向けて、体重を乗せた体当たり。
「鉄山靠」
宣以は身体がくの字になって吹き飛ぶ。
更に、追撃と言わんばかりに吹き飛んでいる宣以に接近する。
「三散華!」
三連続で回し蹴りを繰り出した。
宣以は咄嗟に手で攻撃を受けるも、押し崩されてしまう。
流徹はすぐに体勢を立て直し、宣以の元へと向かう。
「百烈撃!」
石舟斎の拳が一瞬で無数に増える。
その一撃一撃が命を刈りとる形をしていた。
それが流徹を襲う。
刀で受けるも、大きくのけぞる。
石舟斎はその瞬間を逃さない。
「波動掌!」
掌を突き出し、その先から気功弾を放つ。
刀もろとも流徹を大きく吹き飛ばした。
斬りかかろうとする宣以。
「竜巻扇風波!」
だが、石舟斎の強力な回し蹴りを横っ腹で受けてしまう。
「ぐわああああああっ!!」
宣以は吹き飛ばされている途中も居合の構えを取り、居合抜きで間合いを詰めようとした。
だが、吹き飛ばされる速度が圧倒的であった。
無限にも広がるかのような庭園の中を延々と飛ばされていく。
横っ腹から溢れる血にはもう構っていられない。
「それでも……」
と踏みとどまり、再び石舟斎の方へと駆け寄る。
「不伝流居合術……」
再び、刀を振るう。
だが、その刀は弾き飛ばされてしまった。
蹴り上げによって。
「昇竜蹴り。竜を殺す蹴りと呼ばれている奥義だ」
そして、石舟斎は宣以に目掛けて狙いを定める。
祈りの構え。
千手観音が背後に出現した。
「……食らうが良い。観音零式」
千手観音の無数の拳が繰り出される。
宣以の身体が見るも無残な姿へと変貌していった。
その様子をただ見る事しかできなかった流徹は唇から血を流す。
既に流徹も限界であった。
肺で呼吸することもままならない。
それでも立ち上がる。
目の前で二人の仲間を失った。
「まだ来るというのか。さすがは柳生の者。では、敬意を以て最大の一撃で終わらせてやろう」
「超空能面……!」
石舟斎が祈ると、流徹の周囲に結界が展開される。
そして、石舟斎は拳を構える。
「……羅刹撃」
一撃必殺と言わんばかりに拳から殺気を感じる。
流徹は死力を振り絞り刀を構える。
他には何も考えない。
石舟斎はこの一騎打ちに心が躍っていた。
宗矩とのすれ違いが心残りであった。
故に、子孫との一騎打ちを所望している。
それが魔人となってまで生き延びた理由であった。
「――世を渡る、わざのなきゆへ兵法を、隠れ家とのみたのむ身ぞ憂き」
初陣で負傷し廃人となった厳勝に対する責から剣の道に虚無感を感じ、その時期から宗矩とすれ違いはじめたのだ。
故に剣の名で出世した宗矩に複雑な感情を覚えた。
その真意を確かめるべく余生を柳生庄に引きこもり剣術を極めていた。
故にこそ、今目の前に立っている流徹は相対するに相応しい者。
「――うつすとも、水は思はず、うつるとも月は思はず、さる沢の池」
石舟斎の拳が、流徹の刀が交差する。
「霞斬り」
流徹の刀が、石舟斎の拳ごとその身体を切り裂いた。
「一文は無文の師、他流に勝つべきにあらず、きのふの我に今日は勝つべし」
そして、一拍開けて、呟くように言った。
「……見事」
サンシャイン丸池が舞うように流れる連撃を繰り出す。
お町とトゲイがそれを刀で必死に受け流す。
お町は瞬時に刀を仕舞い、印を結ぶ。
「こっちの武器は……刀だけじゃないっ!」
「忍法・爆炎の術!」
指先から紅蓮が解き放たれ、鉄衣が燃える。
「鉄のようなのは硬さだけね!」
「よくも……よくも……この腐れ外道が!」
丸池は周囲に電撃を放った。
その瞬間、二人は距離を取る。
丸池が再び薙刀を構える。
燃える絹の間から十字架が見えた。
薙刀を使う事、十字架……女性。
それだけで、お町は即座に理解した。
「細川忠興の正室にして明智光秀の娘……細川ガラシャ婦人」
「ようご存じで……」
「伊賀の里で話はよく聞いてるもの」
「では、このような伴天連忍法も、ご存じか!」
ガラシャが印を結ぶと、黒い球体を編み出した。
重力球。
球の中心へ向かって大きく吸い寄せられる。
だが、お町はすぐにそれを理解した。
「トゲイ! 何かに掴まって!」
お町は即座に忍者刀を地面に突き立てる。
「ふふふふふふ」
気が付くと、お町が電気の球に囲まれている。
「なにっ!?」
そこに、より強力な雷が放たれた。
「ああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!」
トゲイが身を挺してお町を守った。
衝撃のみで周囲の木造の構造物を破壊する一撃がトゲイの身体を貫く。
「トゲイ!」
だが、悲しむ隙間も与えられず、ガラシャは電撃を放つ。
「ありがとう」
お町はトゲイに対して感謝を伝える。
お町は突き立てた刀で地面を抉りぬく。
そして、強く地面を叩き返した。
「忍法・畳返し!」
その電撃はせりあがった地面によって防がれた。
「ちょこざいな!」
その地面を二度目の電撃によって破壊するも、既にお町は姿を消していた。
背後からの火炎の忍法で残った鉄衣もろとも燃やされた。
「ぎゃあああああああっ!!」
炎に包まれ、暴れ狂うガラシャ。
お町は膝をつき、それを静かに見守る。
紅蓮の炎。
かつての最期を思い出す。
激情的だが明晰で勇猛果敢だったガラシャ。
織田信長の死後はカトリックに執心し、穏やかになったとされている。
だが、伴天連追放令から徐々に夫婦間に亀裂が発し、忠興が側室を持つと言い出した時には薙刀を持って暴れたという。
カトリックでは離婚が許されないと宣教師からは説得され、ひと先ずは溜飲が下がった。
上杉征伐の際、石田三成の軍が細川忠興の不在の隙にガラシャのいた細川屋敷を包囲。
火をつけ薙刀を持って応戦するも、時すでに遅し、葛藤の末、少斎に介錯してもらった
紅蓮の中、夫や主に裏切られたと感じ復讐を誓ったのだ。
「散りぬべき、時知りてこそ、世の中の、花も花なれ、人も人なれ」
壮絶な人生を経た女傑は、紅蓮の中に消えた。




