江戸城燃ゆ 上<破>
突如、複雑な地形が蠢くように変化し、流徹、荒伐、宣以の三人とお町、トゲイの二人、そして、球磨と菊三十兵衛の二人は分断されてしまった。
流徹達は、屋内にできたような枯山水庭園の場へと出た。
そこに、一人立っていた。
赤い龍の如き圧を発するその人影は間違いなく魔人そのもの。
「……魔人か」
その魔人は裃に身を包む、総髪の男性。
「植乃左衛門」
「上の命です。殺らせていただきます」
彼は名乗り、刀を抜き、構えた。
そして、叛の勾玉を見せる。
お町はトゲイを連れて通路を進む。
すると、やや広い空間へと出た。
そこには怪しげな着物に身を包む妖艶な女性。
瞬時に魔人だと理解した。
「おやおやまあまあ……」
「私はサンシャイン丸池。ここは異界大奥空間……」
左右には亡霊のような女性が並ぶ。
空気が湿気を帯び、圧倒的な妖気が圧し掛かる。
「そして、貴方達が天草様にたてつく御方ですか……」
「だったらどうだって言うの!」
柔らかい声と対照的に殺気を強く感じる。
お町は警戒を強める。
「羽虫のように煩わしい輩だこと。消えなさい!」
舞うようにひらりと……。
周囲には不気味な怨霊を纏い、丸池を囲む。
色の勾玉が不気味に輝いていた。
「三日月の太刀」
左衛門が大きく三日月を描くように切り裂く。
宣以はその攻撃を受け止めるも、大きくのけぞり、庭園の隅まで追いやられた。
続いて、左衛門が刀身に赤い龍を纏わせて刀を振るう。
「赤龍斬」
斬撃と共に龍の覇気が放たれ、流徹を襲う。
流徹は間一髪で回避するも、掠った所が赤黒く焼け焦げる。
「馬鹿な……」
圧倒的な剣の達人。
未だ刀を合わせていないがそれでもその強さが理解できる。
「幻月」
続いて、左衛門の刀が円を描く。
瞬間、荒伐の肩が斬られた。
「がはっ!?」
刀の屈折具合で幻を見せ、その隙に間合いに入り切り裂いたのだ。
「その刀は飾りか?」
左衛門はそう言って挑発する。
流徹は地を蹴り、刀を振るう。
だが、当たらない。
その後、左衛門の刀が斜めに振り下ろされた。
左手を前、右手を後ろ……左太刀の構えだ。
瞬時に流徹は身体を横に投げ出してその攻撃を避ける。
「今のは月影か」
「その技、構え、柳生の者か」
その言葉に、左衛門は頷く。
「如何にも、柳生石舟斎」
大典太三世を持つその男は、かの柳生新陰流の始祖とも言われる武術を編み出した伝説の石舟斎であった。
「よもや、我が師の血から魔人が生まれるとは……うつけ者が」
「たわけ、こちらにも事情はある」
流徹は刀に刻まれた梵字を見せる。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
そう唱えると、妖刀が怪しく光り出す。
そして、大きく振り下ろされるも、簡単に受け止められてしまう。
「無刀取り……だと!?」
瞬間、荒伐が斬られた。
否、荒伐が流徹の代わりに斬られたのだ。
「馬鹿な!」
お町とトゲイはサンシャイン丸池との戦いとなっていた。
丸池は丸腰だが、何かを隠しているような気配で迫りくる。
お町はそれに勘づき、トゲイに指示を出した。
「あまり近づきすぎないで、何かある!」
丸池は不気味な表情を浮かべながら手で口を隠して笑う。
「まあ恐ろしい。それでは近づけませんねぇ」
「では、こちらから行くほかあるまい」
丸池は近くにあった薙刀を持ち、突きを繰り出した。
「結局こうなるのねっ!」
お町は軽やかにそれを避け、忍者刀を突き立てる。
だが、その一撃は布一枚で防がれた。
「なん……だと……!?」
「おやおや、斯様な衣なのになぁ」
トゲイが攻撃を仕掛けるも、それも布一枚で防がれる。
「鉄衣。なまくらでは切れぬ衣よ。ホホホホホホ」
お町とトゲイは眼前の敵を見据えた。
布をひらひらと揺らす丸池に、どう立ち向かうか……。




