第伍歌<序>
不気味な気配と共に現れたのは大型の蜘蛛。
だが、ただの蜘蛛の姿ではない。
男女の人体を繋ぎ合わせたような双頭にして計八本の手足を持つ怪人。
太刀と弓箭を構えており、異様な圧を発していた。
その圧は、土蜘蛛のそれと酷似していた。
「土蜘蛛か……!? あの時倒したはずでは!?」
菊三十兵衛の怯え声に、土蜘蛛は答える。
「あの時卵をつけておいてね……。こうして孵る時を待っていたのさ! 今の私は絡新婦として復活したのよ!」
「そう、転生の闇忍法・空亡によってね!」
口から怪しげな吐息を吐きながら彼女は続ける。
「私ははるか遠い空の向こう側より飛来した」
「女性の姿で惑わし、卵を植え付け、この地の生物を支配する」
「人間どもは私の事を神様としても崇めていたそうな。ふふっ」
「ならば、神の如き力をお主らに見せてやろうぞ!」
その時、宣以は一瞬にして姿を消す。
流徹は知っていた。この力が何であるか。
「不伝流居合術……」
これが居合の力。
刀を収めたまま、彼は目にもとまらぬ速度で接近し、抜くと同時に絡新婦の足を斬った。
「速い!」
絡新婦も無抵抗なわけではない。
脚部を使い、足元を奔る宣以を狙う。
だが、宣以はそのすべてを避けながら的確に斬り続けていた。
「遅いな。土蜘蛛とやらの力はその程度か」
脚部を全て切り落とし、動きを封じた。
まさしく一瞬の出来事であった。
「ぼうっとしているな、畳みかけるぞ!」
宣以は流徹らに呼びかける。
流徹、球磨、菊三十兵衛、トゲイが刀を構える。
お町が印を結び、荒伐が斧を振るう。
「ふっ、手足がなければ何もできまいと思うたか」
絡新婦の言葉に、一瞬戸惑う。
だが、球磨は続けた。
「だが、毒は見切っている!」
しかし、放たれたのは毒では無かった。
声にもならない音が皆の聴覚を刺激する。
「――!!」
夜の町に響き渡るそれは、決して聞こえる事のない、音の暴力であった。
「かはっ!」
動けない。
流徹は刀で地を突き、倒れ伏す。
「これが絡新婦の力よ!」
絡新婦は脚部を瞬時に再生させた。
そして、流徹目掛けて腕を振り下ろす。
流徹はただ考えていた。
こんなところで死んでしまうのか。
否、まだやるべきことがあるのだ。
ここで倒れるわけにはいかない。
他の者もそうだ。
それぞれが立ち上がる。
持っている勾玉が輝き、それが立ち上がる力を与えているのだ。
「馬鹿な!! それほどまでにこの地はこの者達を選ぶというのか!!」
絡新婦は慌てふためく。
「だが!」
絡新婦は四本の腕を伸ばし、荒伐を狙う。
「高速扇状図形」
荒伐が斧を振るうと、巨大な三角形が出現する。
そして、瞬時に四本の腕は切り落とされた。
白い血が外側へと飛び散るのがその速度を物語る。
次に、大きく跳躍した流徹が斬りかかる。
「千露斬り」
かつて、勝敏が使っていた奥義。
兜割りの如き一撃が絡新婦を両断する。
「馬鹿な……」
絡新婦は強くなった流徹達一行によってあっけなく斬り伏せられた。
それでも、絡新婦は消えつつある体で言葉を紡ぐ。
「だが、我々は蘇る。人々に怨恨が生まれる限り……必ずな……」
流徹は静かに言った。
「そのたびに斬ってしんぜよう……それが人の世だ」
そして、刀についた白い血を払う。




