第壱歌<序>
大昔の記憶。
武家屋敷にて、炎の中で美麗な女人が叫ぶ。
「――謀反人の娘であって尚側に置いてくれたのに何ゆえ!?」
「――忠興……おのれ……!!」
それは、魂の慟哭であった。
流徹らが鬼一法眼を倒すわずかばかり前の頃。
十代目将軍、徳川斉治が日光東照宮参拝をしていた。
彼らの後ろに、多くの女人が歩く。
その中に、ひときわ輝いて見える者が一人。
「えらく艶やかなご婦人だ」
将軍は、お玉と名乗るその女性を大奥へと迎え入れた。
それから、江戸は変わりゆく。
凶作となりつつある農村に対し、より一層年貢をとりたて、歯向かう者を処罰していった。
「まったく、いい女じゃ」
「まあ、お上手ですこと」
将軍の肌を撫でまわすお玉。
「だが、そろそろ政務をせねば……」
「行ってしまわれるのですか……私は寂しゅうございます」
お玉はそして泣き崩れる。
その様なかよわい仕草をしながらも、腕は彼をしっかりと捕えていた。
「まったく、お前は蛇のような女じゃ。道成寺の清姫伝説を思わせるな」
「天下の大将軍様が何をおっしゃいますやら。蛇や鬼女の類も容易く掌中に治めるのが器という物ではありませぬか?」
「はっはっは、それもそうだ」
そして、将軍は色に惑わされ、政務へも意欲が無くなっていく。
お玉は復讐の炎を目に宿す。
「――生まれ変わった時、それはそれは、醜い姿であった。だが、生娘の皮を剥ぎ見繕ったのだ」
「――あのような惨めな思いをさせ、全てを裏切ったこの世に、復讐を……」
一行は下総から江戸入りを進める。
「うりうりー、ビチグソだー」
「わーん、やめてよー」
子供がはしゃぐいつもの光景。
だが、今も魔人達が世を乱している。
老人たちはやせ細った姿で道に倒れている。
農民と思われる一部の子供は飢えていた。
「……急ぐぞ」
流徹が駆けだすと、他も追随して走り出す。
だが、江戸に向かう途中、彼らは見た。
江戸の周囲に紫色の炎が立ち上がり、壁となって阻んだ。
それは明和の大火を想起させるものであった。
「何っ!?」
球磨が答えた。
「おそらくこれは忍法じゃ。それも、かなり大掛かりな!」
魔界の炎と思わしきそれは、並大抵の忍法では破れぬことを感じ取っていた。
「陸路からではおそらく無理でござるな……」
介郎が考える。
「上総を経て、安房に向かう。そこに海に秀でた知り合いがおるのだ」
球磨の言葉に流徹は深く頷いた。
「やるぞ!」




