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第伍歌<破>

 弁慶(べんけい)が無数の剣を浮かせ、立ちふさがる。

 四方八方から襲い掛かるその剣に一行は苦しめられ、優勢だった戦況は一気に不利となった。


「これじゃきりがねえぞ! どうすんだ!」


 菊三十兵衛(きくさんじゅうべえ)が喚く。

 流徹(るてつ)はただ一つ。


「推し通る!」


 妖刀を片手で構え直し、再び跳ぶ。


「だが、それではさっきと同じだ! それに、片手では……!」


 (くず)()が乱暴な口調で言う。

 宮本(みやもと)武総(たけふさ)の見様見真似での片手持ちだろう、だが、それには膂力(りょりょく)が足りない。

 無謀な挑戦であると誰の目から見ても明らかである。


 しかし、流徹は止まらない。

 流徹には立派な腹巻が備えられていた。

 そして、空いた手にはお継雨(つう)の笛が握られていた。


 笛の音色が橋を覆う。


 それは、かつて、牛若丸が蛇目(じゃめ)の傘で弁慶と戦う場面。


「武総の事で理解したことがある」


 先の襲撃で得た情報だ。


「奴ら魔人は生前の逸話や生き様に縛られている……」

「だからこそ、突破口はある!」


 笛が奏でられるたびに、弁慶は動きを止める。


 介郎(すけろう)が見抜く。


「ならば、我々も狙う場所は一つでござるな!」


 一点を凝視する。


 それは(すね)の前面。

 弁慶の泣き所だ。


 菊三十兵衛、球磨(くま)、介郎、葛の葉が一斉に飛び出す。



 追い詰められた弁慶は黄金の刀を取り出す。

 その威光に、皆は足を止めた。


「蘭学者から噂で聞いた覚えがある」


 球磨が言う。


「かの剣は彼方にて伝わる王の振るう大業物、江楠狩刃(えくすかりば)でございます」

「一太刀振えば、大群を滅する、そして、あらゆる魔を討つ。英傑無双の品」


 その黄金の刀が構えられ、狙うは……。


 今にも斬りかかろうとしている流徹。


「いかん! 流徹殿!!」


 無防備な流徹に、黄金の剣閃が迫る。



 だが、流徹にその刃は届かなかった。

 代わりに、葛の葉が胴体と頭部で真っ二つに切り裂かれていた。


「葛の葉……!」


「ばか、やろう……ちっとは警戒しやがれってんだ……!」


 橋に無造作に落下した葛の葉の頭部が途切れ途切れ言った。


「……だが、今の一振りで見切った!」


 流徹はあくまでも冷静に、再び相対する。



 追撃として振り下ろされる黄金の刃を目で捉える。


「いかん、あれは魔を滅する剣じゃ! 妖刀は砕かれてしまうぞ!」


 それでも、流徹は己の刀を信じた。



 黄金のそれを妖刀は軽く受け止めた。


「この業物はあらゆる魔を滅するものではなかったのか!?」


 流徹は冷静にその状況を分析する。


「おそらく、紛い物であろう!」

「なんと……」


 その紛い物の刀で両断された葛の葉を見る。


「だが、紛い物をもああも扱うとは、武蔵坊弁慶、恐るべし!」


 得難い強敵であった。

 だが、流徹はそれすらも越え、今、弁慶を倒そうとしている。

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