第壱歌<序>
霧ヶ峰高原を越え、一軒のお団子屋に着いた一行。
「……この辺りで休息としよう」
そうして、流徹はお団子屋へと顔を出した。
「何のようだ!」
乱暴な口調の店主。
「三色団子を人数分」
「おい、銭がたんねーぞ!」
その言葉に、流徹は首をかしげる。確かに勘定は合っているはずだと。
だが、店主の視線の先を見る。
そこには粗暴な印象を持つ青年が酒を煽りながら道行く女性に絡んでいた。
「おう、姉ちゃん! 俺様と一杯やらねえか? ええ?」
流徹は額に手を当て、ため息をついた。
「…………菊三十兵衛……」
「はあ、どいつもこいつもしけてんな! 店主、もっといい酒を!」
そんな調子で絡む菊三十兵衛の先に、精一杯の色気を出すくノ一がいた。
「そこのお兄さ~ん。アタシじゃあ、だ~め?」
「…………」
伊賀のお町。
彼女には色気という色気がまるで感じられなかった。
「バカもんが、ちったぁ大人になってから出直してこい!」
そう言われ、お町は頬を膨らませる。
「……む~。忍法・お色気変化!」
菊三十兵衛は意に介さずと言った感じで対応した。
「そういう話じゃねえ。だからまだわっぱなんだ」
流徹は四つの勾玉の光を見る。
仁、孝、忠、義。
「残るは四つでござるな」
介郎が義の勾玉に手をかざす。
「……」
そこへ、菊三十兵衛がやってくる。
「なあ、どうしてその勾玉、俺様にくれないのか?」
「俺様だってそれがありゃ百人力だろうよ」
流徹は冷静に答えた。
「勾玉は人を選ぶ」
これは真、不思議な事だが、勾玉には意志が宿っているように何かがあるのだろう。
流徹は勾玉が人を選んでいると感じていた。
「ならよう、なぜ俺様は勾玉に選ばれないんだ」
その疑問には介郎が答えた。
「年中酒をかっ食らって女子を口説こうとしている時点で程遠い話でござろうよ」
「球磨殿を見てみい」
荘厳な顔つきをした、菊三十兵衛とはまた違った意味での野武士の様な男は延々と刀を振り続けている。
それは流徹らに追いつきたい気持ちの発現だろう。
その一心が彼をそうした行動に駆り立てている。
「だがよ、女子が好きというのは介郎も同じではないか」
「そこはまあ……才能の差という奴でござろうな……」
「なにおう!?」
大太刀を振り回す菊三十兵衛、そして、軽い身のこなしでそれを回避する介郎であった。
「妙な一行が来ておると噂があったが、それは真だったようだ」
紫の羽織に身を包む武士がそこへやってきた。
「お主は!?」
「某、宮本武総と申す者」
「宮本!? では、あの二天一流の?」
伝説の剣聖と名高いかの宮本武蔵。その転生と呼ばれるのがこの男であった。
彼にはこれまでの経緯を話した。
「それはそれはまたけったいな話だ。だが、面白い……」
武総のその言葉に流徹は訝しむ。
「面白い……?」
「おうともさ!」
「津田武左衛門、宝蔵院槍術の奥蔵院、鎖鎌の宍戸某、人斬り御用の山田浅右衛門、田宮坊太郎。それとも名高い源義経か? はたまた伊藤一刀斎、塚原卜伝か。吉岡の清十郎や伝七郎でもよい。強者と剣を交えるなど、貴重な経験ではないか」
「そんなに戦いたいのか。理解できぬ」
「戦いは目的ではないのだぞ!」
流徹は感情を露わにする。
しかし、武総はあくまで冷静といった形で彼を制する。
「いいや。死合いこそが我が天命。それが剣に生きるものの定めであろうよ」
そして、武総は立ち上がり、流徹の剣を舐めるように眺めてから言い放つ。
「……その剣は相当な鈍らと見た。いずれその勾玉も、魔人退治も某が引き受けよう。勾玉は人を選ぶと申したな。いずれそれは某を指し示すであろうな」




